第12話『選ばれし11人(イレブン)』
全国予選、初戦まであと三日。
いつものグラウンドに、ただならぬ緊張感が漂っていた。
「今日から、レギュラー選考に入る」
カリンの一言で、部員たちの表情が引き締まる。
「え、でもこの前の試合メンバーで行くんじゃ…?」
「甘い甘い。あの女王様、全員見直すってよ」
「うわ、胃が痛い……」
如月ヒナが笑ってなだめるが、その目も本気だった。部員25名、ベストの11人を選ぶには競争は避けられない。
――だが、そこには、喜びだけでなく、不安もあった。
「……正直、あたしはレギュラー落ちだろうな」
練習後、ミオがぼそりとつぶやいた。
「何言ってるの、ミオ。あんたは試合でも結果出してるでしょ?」
「でも、他にも点取れる子いるしさ……それに、私がいると場が緩むって言われたこともあるし」
「……ミオの声がない試合なんて、ただの作業よ」
ふいに後ろから聞こえた声に、ミオが振り返る。
「カリン……」
「“勝つため”のチームじゃない。“機能する”チームを作るの。だから私が選ぶ。個じゃなく、つながりを」
その言葉に、ミオは少しだけ笑った。
だが、選考は思いのほか難航した。技術だけでなく、連携、メンタル、ポジション適性――考慮すべき要素は多すぎた。
部室でひとり、ホワイトボードを見つめるカリンのもとに、誰かが入ってくる。
「迷ってる顔ね。カリン様らしくないわ」
黒革の手袋とサングラスを外しながら、麗奈が静かに言う。
「……麗奈様」
「支配者とは、“選ぶ責任”も背負うものよ。誰かを選ぶということは、誰かを“選ばない”ということ。悩んで当然。でも、逃げちゃダメよ?」
カリンはしばし黙り――やがて、目を伏せてつぶやいた。
「……私、彼女たちの努力を知ってる。だからこそ、選ぶのが怖いの。誰かを傷つける気がして」
「なら、こう考えなさい。選ばなかった者を“負け組”にしない。ベンチだろうと応援席だろうと、“選ばれた”という気持ちにさせるの。それが、真の女王ってものよ」
麗奈の言葉に、カリンの瞳が少しだけ強くなる。
――翌日、全員が集められた朝のグラウンド。
カリンは前に立ち、深呼吸する。
「……これから、予選初戦のスタメン11名を発表する」
一人、また一人。名前が呼ばれるたびに、歓喜と落胆の声が交錯する。
呼ばれなかった数人は、唇を噛んだ。だが――
「選ばれなかった子たちも、ここにいる“チームの一員”よ」
カリンは全員を見回す。
「私たちは、ただのレギュラーじゃない。“選ばれた者たち”よ。このメンバーで、勝ちにいく。けれど――それは、ベンチにいるあなたたちと一緒に掴む勝利。全員で、戦う」
言葉に、沈黙が生まれ――次の瞬間、拍手が起こった。
「よっしゃああ! 応援席からでも魂は出すからな!」
「やば、ちょっと泣きそう……」
控えメンバーの声に、スタメンもまた背筋を伸ばす。
選ばれし者たち、選ばれなかった者たち、すべてが一つになった瞬間だった。
試合は、すぐそこにある。




