第11話『ドM再臨!シエラの愛とセーブ』
「……お久しぶりですわぁぁあああッッ!!!」
開幕から悲鳴のような声がグラウンドに響き渡った。
「神凪シエラ、三ヶ丘学院ゴールキーパー!本日、黒江カリン様の“真なる進化”を拝みに参上つかまつりましたあああぁッ!!」
土曜の交流練習試合、相手は関東の中堅校・三ヶ丘学院。再会の第一声がこれだった。
「また来たのか、あの人……!」
前回対戦時、カリンの“豪快ミドル”を浴びて開花した覚醒ドMゴールキーパー・神凪シエラ。その存在は、もはや試合の枠を超えたショーの域にある。
「黒江カリン様……この半年で、あなたはどんな“愛”を覚えたのですか……?さあ、私にぶつけてくださいましぃぃいい!!」
「……ぶつけません」
「えっ」
即答。
「もう私は“力でねじ伏せる”スタイルは卒業したの。チームで崩し、連携でゴールする。支配ではなく、導く。それが今の私よ」
「い、今の……カリン様……!」
顔を紅潮させ、涙を浮かべるシエラ。観客席の一般生徒たちは完全にドン引きである。
「なんだこの試合……」
「え、これ公開調教とか言ってたけど……え、見てていいやつ?」
だが、試合は本気だった。カリンはシエラの挑発に乗らず、ボールを持てば即パス、即展開。高速のパスワークで三ヶ丘ディフェンスを翻弄していく。
「ヒナ、上がって。……ミオ、左から抜けて!」
「了解っ!」
ミオがカットインからカリンのパスを受け、ワンタッチで振り抜く。シエラ、反応——遅れる。
ボールはゴール左下に吸い込まれた。
「ッッああああッ……カリン様……今のは、わたくしの全てを超えた美……ッ」
シエラ、倒れながら悶絶。
「うわぁ……試合に勝ってるのに、なんか負けてる気がする」
ヒナが冷や汗まじりに呟く中、試合は2-1でこちらの勝利。
試合後、握手を求めてきたシエラは満面の笑みで言った。
「カリン様は……もう“力”だけの人じゃない。支配を捨ててなお、強く、美しい……。わたくし、この日を日記三十冊に書き記しますわ……♡」
「……お好きにどうぞ」
カリンが疲れたように応じると、シエラはスキップしながら帰っていった。
試合の狂気が収まった後、部室で待っていたのはもうひとつのイベント。
——地区予選の抽選結果発表。
「初戦の相手、清水南女子。超守備型の5バック。全国常連じゃないけど、守備に関しては県内トップレベルらしい」
「ええー!?難敵じゃん!」
「つまり……崩すの、めっちゃ大変ってことね」
「パスワーク、磨き直さなきゃ」
やる気と緊張が入り混じる空気の中、カリンは静かに口を開いた。
「いいわ。この進化した“私たち”のサッカーで、鉄壁ごと撃ち抜く」
次なる相手は、“守りに徹した壁”。
だが、今の彼女たちは恐れない。なぜなら、心にヒールを履いた女王たちだから。




