第10.5話『女神の檻、サッカー部に突入』
「聖セレナ戦、2対3で敗戦か……」
放課後の部室。静まり返った空気の中、ヒナがそっと呟く。技術でも体力でも互角だった。けれど、最後の一歩で相手は迷わなかった。うちのチームは…誰かの目を気にして、足が止まった。
「みんな、悪くなかったよ!あたし、むしろテンション上がってる!」
元気づけようとミオが声を張るが、反応は薄い。試合後の反省ムードは抜けず、誰もがどこか自信をなくしていた。
そんなとき——。
「失礼。ごきげんよう、クズども」
ガチャリ、と部室のドアが開かれた瞬間、革のきしむ音とともに“圧”が入ってきた。サングラスに革手袋、黒いロングコートにブーツ。まるでハイブランドと魔王のハイブリッド。
「れ、麗奈様っ!?」
カリンの声が1オクターブ跳ね上がる。部員たちは困惑。誰この人?という視線を交わす中、ミオがポツリ。
「保護者面談…?」
「ええ。可愛いカリンのために来たのだけれど、どうやら話はそれだけじゃなさそうね」
麗奈はゆっくりと歩み出る。部員一人ひとりの顔をなめるように見渡し、冷笑を浮かべた。
「おやおや。これはずいぶんと、折れた玩具が揃っていること」
「折れたって……そりゃ負けたけど、私たちは——」
ヒナが言いかけた瞬間、麗奈の革手袋が空を裂いた。
「心が折れたなら……折り返してやりなさい。ヒールのように」
沈黙。ポカンと口を開ける部員たち。麗奈は続ける。
「高く、細く、美しく。鋭く、刺さるように。誰かに踏まれることを待つのではなく、自ら踵を振りかざしなさい」
「……えっと、つまり、どういう……?」
「命令は明瞭に。声は上から。美学を持って支配しなさい。サッカーは“魅せる闘争”よ。従わせたいのなら、背中で語りなさい」
唐突な“女王的メンタル講義”が始まり、部室内はますます混乱するが、なぜか言葉の端々に説得力がある。
「ヒール……振りかざす……従わせる……」
「ちょ、ちょっとわかってきたかも……」
「な、なんかカッコよくね……?」
部員たちの表情が、徐々に変わっていく。怯えから驚き、そして笑みに。目が輝き始める。
「カリン様……あなたの親、すごいわ……」
「ちが……違うっ、麗奈様は“親”じゃなくて、その、教育係というか!」
顔を真っ赤にするカリンをよそに、麗奈はニヤリと笑い、くるりと踵を返した。
「ふふ。これで心は修復完了。あとは、闘争の舞台で蹴り込むだけね。さあ、“見せて”ごらんなさい。お前たちの美しき反逆を」
バタン、とドアが閉じる音が、鼓動のように部室を包んだ。
「……言ってること、めちゃくちゃだったけど」
「なんか……効いてきたな」
ヒナとミオが顔を見合わせ、思わず笑った。
その日から部員たちの視線が鋭くなり、練習の声が少しだけ高くなった。足元にヒールこそなくとも、彼女たちは確かに“女王的”になっていた。
——“洗脳”ではない。これは、意志と誇りの“覚醒”である。




