エピローグ:様々なマーブル模様
◇◆◇◆◇通学路。
「よっ、峰大」
「泰夢、何だか久しぶりだな」
自転車でゆっくり目に走っていると、TKGこと泰夢が並走してきた。
高校に入ってからは辞めていたバスケットボールを再び始めたと聞いている。
「どうだ? レギュラーはとれそうか?」
「わかんねー。1年もブランクあるからな。でも、店長との約束だし、頑張るよ」
「そういやアイムマヨラーとのその後の進展はどうなんだ?」
俺が話題をふると、泰夢は照れたようにそっぽを向く。
あの騒動の後、TKGがいきなりアイムマヨラーに愛の告白をした。
「俺たち本当に驚いたんだぜ? 特にマヨラー自身も。店長だけは知っていたみたいだったけど」
「あぁ、俺が店長に口止めをお願いしたからな」
「で、どうなんだよ? 満更でもなさそうな反応だったし、押せばいけそうに見えたけど?」
アイムマヨラーは人生初の告白というイベントに浮かれきっていたし、大人としての節度をもってつき合えるのかこっちが心配になったほどだ。
照れたようすで頬をかくTKG。
「……レギュラーをとって、高校を卒業したら堂々とつきあうさ」
「ま、卒業前に別の卒業をしないようにお前が注意しろよ? でさ、レベルダウンしたから最近インしないのか?」
TKGはあれからログインをしていない。
途轍もないユニークスキルの代償として、レベル1に戻ってしまってもいる。
TKGは片手運転をし、空いた右手で自分の膝を軽く二度叩いた。
「いや、レギュラーをとるまではバスケットに専念したい」
「不思議だよな。現実世界の怪我まで治るなんて。それにお前が怪我していたなんて俺聞いてなかったんだけど?」
「恥ずかしくて言いだせなかったんだよ!」
ガシマ店長を治した後、二度とジャンプできないと言われていた膝が治ったというのだから、本当に驚いた。
親友のつもりだったのに、俺は聞かされていなかったことが悔しい。
「あんな恥ずかしい中二病を全開で演じていたのに、今さら?」
「うるせーー!」
でも、親友だから言えなかったのかなとも思う。
そういう意味で店長は、相談するのにちょうど良い距離感だったんだろう。
TKGは両手でハンドルを握り、わずかにスピードをあげる。
「俺は過去の自分を超えて、胸を張って前に進む」
一度言葉を切ってニカっと笑うTKG。
「でも、お店のオープンには駆けつけるからさ!」
「OK、皆や店長にも伝えとくよ!」
そうしてTKGと別れ、遅刻ギリギリで学校に到着。
大急ぎで駐輪場に納車をすませ、靴箱に向かう途中で埴とバッタリ会った。
「多部、タイムスケジュールの管理が少々ずさんではないか?」
「間に合ったんだからいいだろ? それよりサンキューな。店長の開業資金を半分近くも持ってくれて」
俺は上履きに履きかえ、再び顔をあげると暗い顔をした埴が視界に入った。
事情を知らなかったとはいえ、埴も後悔しているようだ。
「構わない。あのタヌキャットへあれほど思い入れがあるとは思わなかった。銀狸に詫びておいてくれ」
埴は考えもしなかったそうだ。
NPCであるガシマ店長が、命を賭してマロンを庇うとは。
ただのNPCと思ってもらっては困る。
ガシマ店長は、陽気で、優しくて、本物の愛を知る凄い男だ。
「やだね。72時間以内に自分で謝りにいけよ」
「前向きに検討しよう」
素直ではない埴の背中をバンバンと叩き、俺は教室へ足を向けた。
◇◆◇◆◇昼休憩の教室。
ゼリーでの食事を終え、萌奈香と二人で談笑していた。
何だか最近の萌奈香は距離感がとても近くて、周囲の男子からの視線が痛い。
「峰大どうしたの?」
「ちょ、近い近い。まだ教室だよ」
「変な峰大。あ、そうだ! おじさんとおばさんへのお祝いの品を一緒に買いに行こうよ!」
萌奈香は、肩が触れあう距離で楽しげに笑う。
最近の話題はもっぱら両親の復縁と、翔と再び一緒に暮らすこと。
今では俺も、母さんと連絡先を交換して毎日やりとりをしている。
俺が萌奈香へうっかり内容を話してしまい、以降は妙に距離が近くなった。
「おばさんのひどい裏切りにあったのは私怒ってるんだから!」
「ハハハ……翔が着ていたのはノーカンでいいだろ?」
「良くないよ! ちゃんと全部の画像を削除してくれた?」
「も、もちろんさ」
母さんから、翔の女装画像が大量に送られてきたのは言うまでもない。
服はすべて萌奈香のおさがりらしい。
下着姿の画像もあったが、「こんな過激なのを?」と思うのと同時に、モデルが翔ということに複雑な心境になったものだ。
憤慨し続ける萌奈香。
「これじゃ私が見せるときにもっと凄い勝負下着にしなきゃじゃない!」
「え?」
「え?」
一瞬で萌奈香の顔が真っ赤に染まる。
「い、今のはナシ。忘れて。あ、おばさんたちの復縁祝いの買いだしは、商店街で待ちあわせね。それじゃ!」
それだけを言い残し、萌奈香は慌ててパタパタと去っていく。
これって脈アリなんじゃね? ひょっとして告白OKだったりするんじゃ?
いや待ておちつけ。こういうときほど慎重に。
そうだ、クチャラーに相談してみよう。
◇◆◇◆◇週末の商店街。
俺は、萌奈香との待ちあわせより少し早めにきていた。
「やっぱクチャラーに相談して正解だったな」
爆殺クチャラーへ相談したら、先に商店街でプレゼントを買っておけとアドバイスをもらった。
しかも、女子に人気のお店も紹介してくれたので本当にありがたい。
その人気店へ足を運び、ショーウインドウ越しに何が良さそうかを眺めていた。
値段と財布の中身を相談していると、ふいに背後から声がかかる。
「あの、多部さん!」
「はい?」
ふり返ったそこには蓮華ちゃんがいた。
「久しぶりだね、蓮華ちゃん。今日はどうしたの? ここで買い物?」
そう言い終えた矢先、駆け寄ってきた蓮華ちゃんがいきなり抱きついてきた。
思いっきり柔らかい胸の感触を押しあてられ、頭の中は完全にパニック。
「え!? あの、これは?」
「あたしが…………なんです」
俺の胸に顔を埋めていたせいか、蓮華ちゃんの声はよく聞き取れなかった。
柚子のようなコロンの香りがドキドキを加速させる。
だけど、どうにか冷静さを取り戻し、改めて問おうとした瞬間──。
蓮華ちゃんが勢いよく真っ赤にした顔をあげた。
「あたしが爆殺クチャラーなんです!」
「はいーーー!?」
「好きです! 峰大さん! ローカロリーなんかに渡したくない! 渡したくないんです! あたしとつきあって!」
心臓がバクハツ寸前で何も考えられない。
柔らかい胸の感触と心地よくてチャーミングな声。
いつまでも嗅ぎたくなる香りと、至近距離でクラクラしてしまうほどの可愛さ。
こんなの、恋におちない男子生徒はいないはず。
どうにか彼女の肩を掴んで引き剥がす。
「待って! 情報量が多すぎて頭が追いつかないよ。本当に蓮華ちゃんが爆殺クチャラーなの?」
「俺の言うんが信じられへんのか?」
「声ぜんぜん違うじゃん!?」
「ボイスチェンジャーじゃあ、ボケェ!」
あぁ、やばい。理性が飛びそうだ。
……と、思っていたら、背後から聞きなれた萌奈香の冷ややかで恐ろしい声。
「ねぇ、峰大? これはどういうことなのか説明してくれる?」
「も、萌奈香これは誤解で……」
「誤解じゃありませんよ。あたしが峰大さんの彼女です!」
さらに強く胸を押しあてられて、俺の思考はフリーズした。
──✿エピローグ✿──
◇◆◇◆◇イートインワールド《サイゴウ亭》
オラは、お店の正面に掲げられた屋号を見上げ、満足して髭と尻尾を揺らす。
「今日はお客さんが多いから頑張るんだニャ~」
この世界にきてから同胞に会えず寂しい思いもした。
けれど、TKG氏を始めとした仲間たちが支えてくれて、ここまでこれた。
居場所をくれた最初の親友が駆け寄ってくる。
「ガッツリン氏、オープンの今日はこむのに、まだ着替えてなかったのニャ~?」
「クチャラーが放してくれないんだよ」
「あぁん、待ってぇなガッツリン」
今も抱きついた爆殺クチャラー氏を、ふりほどけずにいるガッツリン氏。
「二人に男同士の趣味があっただなんて、オラ、知らなかったんだニャ~」
「ちょ! 誤解だぞ店長! 俺はケンゼンだからな! それにクチャラーは女の子なんだぞ!」
「ガッツリン氏、現実を良く見るニャ~。どう見てもクチャラー氏は男性なんだニャ~」
ドタバタ劇が続く中、店内の掃除をしていたローカロリー氏がドアをあけた。
「店長さん、早く仕込みやっちゃおうよ。そこのいちゃいちゃしてる二人はほっといてさ。TKGのレギュラー祝いのケーキ作るんでしょ」
「分かったんだニャ~」
命の恩人であるTKG氏が、レギュラーをとれたのは誇らしい。
テツジン氏から教えてもらった最高のガトーショコラでおもてなしをするのだ。
意気込みを新たにふと脇の花壇を見ると、今日も一片の紙切れが置かれていた。
「マロンさん、今日も来てくれたんだニャ~」
あれから毎日のように、やぶいたラブレターの切れ端を届けてくれている。
マロンさんとはまだお話をできていない。
けれど、いつかきっと──。
「さぁ、今日も最高の一杯を淹れるんだニャ~!」





