第百十六話 リベンジマッチ
刀の一振が寸で届かない間合いから、瞬時の動きで駆け出し和美の眼前にまで詰める那間良。前屈みになる上半身を右に僅かに捻ると右のショートアッパーを突き上げる。
和美の反応は一瞬遅れ、防御に入ることもままならず左腕を叩かれてしまう。ドンッと筋肉を叩く鈍い音。弾かれる身体は後ろにあるカウンターにぶつかり威力を逃すことも許されない。
刀を振るう隙など無い。エル・プラーザでの一戦の時とは比べ物にならないほど速度も威力も増している。あの時とは違い白鬼の力を僅かながらにも使えるようになった和美が、那間良の動きを捉えられない。インファイトに入られてしまえば、圧倒的に不利だ。
思考は回るが、和美に有効な手は見つからない。そうこう考えてる内に、那間良の二擊目。一拍、呼吸を挟むように左手を引く動作が入る。警戒して和美は今度こそ防御をと身体へ命令を出すものの、その僅かな動きを見て那間良が口角を上げる。僅か、ほんの僅か、ピクっとした筋肉の動きを察して那間良は和美が罠にかかった事を察していく。
二擊目も、右のショートアッパーだった。左手の動きはフェイント。左を警戒しての防御に意識を回してしまった和美の無防備な左腕を再度強く叩く。
ドンッとなる二度目の衝撃。貸出カウンターを背に滑らせて和美の身体が横へと弾かれる。
距離が離れた、なんて立て直す隙など与えられず弾かれる和美を容赦なく追撃してくる那間良。
「ク・・・・・・ソッ」
吐き出される息に悪態を乗せる和美。那間良の動きに対応できない自分への苛立ち。自分の意思とは裏腹に受けた衝撃に耐えられずふらつく足は後ろへと下がる。
和美を追いかける那間良、追撃の手は左のフック。今度は見えた、だが和美の身体はダメージから動かなかった。高めのフックは和美の右肩を叩き、カウンターに再びぶつけられる。
「遅いよ、高城さん。そんなもんだっけ?」
那間良は煽りと共に次の一撃を振る。体勢のままならない和美にボディブローが突き刺さる。重い衝撃にくの字へと歪む和美の身体、その顔面に間髪入れず右ストレートがぶち当たる。
衝撃と浮遊感、何度目の感覚か。思い出すエル・プラーザでの一戦、あの時もボディブローからストレートを食らった。痛みはあの時以上だ。あの時、どうやって勝ったのだろうか。浮かんでくるのは矢附の顔。
ああ、そうか、と和美は浮遊するその瞬間あることに気づいた。それに気づいたからといって現状がどう変わる訳でもないのだが、心の持ちようとして一つ、必要なことな気がする。
あの時、矢附が那間良の動きを止めてくれたから勝てたのであって、和美自身は那間良に勝てていなかった事。
つまりリベンジマッチなのは、和美の方なのだ。
負けっぱなしでいられないのは、私の方だ。
そう気づけば今も殴り飛ばされていることに悔しさばかりが募る話だ。このまま素直に吹っ飛ばされて立ち上がるところに詰め寄られる、そんな負けパターンを受け入れられるわけが無い。
和美は顔を振り上げた。天地がどちらかわからないような状態だったので、とにかく頭を上げて首に力を入れる。
「は?」
和美の動きに呆気にとられる那間良。和美は自分が殴られた衝撃を利用して後方宙返りし、着地する。右手に光の刀を小さな形で発現させ、投げつけた。那間良の左肩に突き刺さる。
「ぐっ、何!?」
突然の投げ刀に驚愕する那間良。エル・プラーザでの和美との戦いの中、邪魔してきた女を思い出す。あの時は香水だったが、あの時と同じようにこの肩に刺さる短刀が顔に投げつけられていたら・・・・・・。
殺リ合う。那間良から求めた言葉であったが、和美がガッツリ向かってくるとはーー。
腹を決めてたのは、どちらか。
間合いを詰めるのは、今度は和美。咄嗟に放った短刀の有用性。まだ使いきれていない白鬼の力。戦いようはまだある。インファイトなら不利、それはわかってる。だが、相手の間合いでやり合わなければならない状況、そこを打開しなければ勝ち目は無い。
笠沼正太も小早志真里亞も斬ってきたのだ、覚悟は決めている。
腹を決めてたのは、どちらか。




