第百十三話 図書館にある新聞を読む台の名前が調べても出てこない。
案内人の鈎のあとを着いていき、和美は乃木市立南図書館の二階へと辿り着く。図書館の二階は低年齢層向けの絵本や漫画などが置いてあるスペースになっていて、和美は少しばかり首を傾げる。
学校のグラウンドの真ん中、病院の一室とこれまでも試練場所が別に厳かな場所であった訳では無いのだけれど、図書館であるならばどうせなら古書やら古新聞などに囲まれた空間で行われるのかと和美は思っていた。
「しっくり来ないかい?」
鈎が振り返り和美に問う。相変わらず顔はハッキリ見えないのでどういった表情なのかはわからないが、声色は軽い。朱雀の案内役として何かしらを聞かされているのか脳裏に浮かぶのか、低年齢層向けのスペースで行われる理由を知っているのだろう。
「しっくり来るか来ないかで言えば、そもそもこの四神の試練そのものが私はしっくり来てないんですけどね。だから、こんな子供達が周りにいる中で何かが起きたってしっくりは来ないし、だからと言って否定的な疑問も浮かびませんよ」
和美の答えに鈎は軽く笑いながら、だろうね、と答え再び正面を向いて歩き出した。結局二階で試練が行われる理由とやらは何も分からなかったが、説明されたところで分からない部分があるだろうから、しつこく問うほどでも無いなと和美は思いそれ以上の追求を止めた。
二階スペースの真ん中に一つ、場違いな印象を抱く展示台がある。立ちながら新聞を広げて置いて読むことの出来る台だ。二階は低年齢層向けスペースとなっていて、設置されている机や椅子なども背の低いものが用意されているのだが、この展示台は背の高い人用の高さに合わせられている。
「あ・・・・・・」
展示台を見つけて和美は以前この台について聞かされたことを思い出した。あれは子供の頃、姉と一緒に絵本読み聞かせの会に訪れた時のことだ。
南図書館では月二回、子供達のために絵本の読み聞かせを行っている。あの台は職員がその絵本を置いていた場所なのだが、元々その台はやはり新聞を読む為の台だったらしい。和美が読み聞かせ会に訪れた時の職員は絵本を読み始める前のお喋りが長く、その時は南図書館の歴史を語り始めていた。今思うと話のつかみみたいなところだったのだろうが、それを子供相手にするのはどうなのだろうかと今になっても思うところが和美にはあった。
曰く、その展示台があるのはそもそも二階のスペースが古書やら古い新聞の場所であったらしい。数年間の展示の末、利用者の年齢層を考えて一階二階の書籍の場所を入れ替えた際にスペース的に移動しきれなかったのが、その展示台なのだとか。
「つまり、元々は古書とかがここにあったからこの場所が試練場所ってこと? 私のイメージって当ってたってこと?」
「はは、どうやら自分で答えに辿り着いたみたいだけど、どうだい? わかってみたら些細な話だろ、けどしっくりは来た。知ることを蔑ろにしてはいけない、と朱雀は伝えて欲しいらしい」
「そんなに価値のある《《しっくり》》じゃないと思うけど、今度からは素直に聞くことにします」
和美の言葉に、朱雀が納得したのか振り返った鈎が代わりに頷き手招きするように展示台に触れるように促す。どうやらこの展示台に触れる事が今回の試練の開始条件らしい。和美は左手にこれまでの試練で僅かに大きくなったミニチュア錫杖を握り、展示台の盤面に右手を添えた。
炎の様に揺らめく赤い光が展示台を包み込むように湧き上がる。光の柱、そう言えるほどの縦に伸びていく赤い光は天井へと当たると貫く様に更に上へと広がっていく。
「さぁ、その光へ錫杖を置いて。そしてーー」
それまで案内人として何処か親しみのある口調だった鈎の声色に、緊張感が混ざる。何だ、と和美が鈎の様子を窺うが、鈎の向く先は二人が歩いてきた後方だ。
「ナンヤ、コソコソナンカヤットルナァトオモッタラ、ヤッカイソウナコトヤットルヤン」
ケタケタと、甲高い笑い声。すっかり最近じゃ聞き馴染みのある音になったその声に、小鬼が現れたかと和美が振り返るとーー。
そこには見覚えのある姿が、一つ。
「那間良、さん?」
以前、赤鬼の影響を強く受けたエル・プラーザにて闘うことになった、目を隠すような黒いロングウルフカットのパンチジャンキー。
「構えるんだ、高城さん。彼女は赤鬼の残滓に纏わりつかれている! 朱雀の介入が働かないっ!」
吠える鈎が左手に持つ金色の錫杖を突き出すように構える。それに合わせるように、ケタケタと笑う那間良が両腕を眼前に構えながら和美と鈎に向かって低い姿勢で突っ込んできた。




