第百十二話 南図書館
鈎の案内ですんなりと乃木市南図書館にたどり着いた。和美はありがたい応援が来たという素直な喜びを感じることが出来ず、今この状況下ですんなりと物事が進むことを訝しげに思っていた。なにせこの図書館までの道のりで小早志真理亜の分体に遭遇していないどころか、小鬼の姿すら見かけなかったのだ。
領域の守護を朱雀が本気で行っているという事に、和美は驚きと疑いを浮かべた。ここまでの二点、玄武の領域も青龍の領域もそんな助力は行われていなかったし、互いに大小あれど被害は出ていた。四神は直接的な干渉が出来ないかのように聞いていたので、ならばその規則を覆している朱雀は何をもってこんな行動に出ているのだろうか?
南図書館は中央図書館に比べてこじんまりとした建物だ。二階建ての建物ではあるが、敷地自体は狭く、蔵書数も中央図書館に比べれば三分の一ぐらい、感覚で言えば中央図書館の別館という印象が和美にはあった。
建物のガラス張りの外壁から中を覗くと、平日の午前中であるが疎らに利用者が訪れているようだ。
「一般人の排除は行っていないんだ。あくまで日常を護るという意味で人よけの余計な結界などは張っていないらしい」
中の様子を窺う和美に、鈎が説明を入れる。
「日常を護るって、ちょっと歩いた先じゃあ鬼の被害は出てるというのに、無理がない?」
「遺憾ながらそこらは他の四神の領域となる為、下手な手出しは出来ない、なのだとさ。四神にも四神の理由があるのさ、そんなに他力本願に任せるのは筋違いだと思うよ」
そうやって和美の事を窘めながら、鈎は南図書館の玄関の自動ドアを開ける。何の害も無いので、正面から入っていくのは当然と言えば当然なのだが、鈎の見た目が注目を集めすぎるんじゃないかと和美は懸念に思っていた。
あまり目立つようならば呼び止めて別の入口から入り直そうとも和美は考えていたのだが、中にいた利用者や職員共に不自然な程鈎の事を見ようとしなかった。いや、その視線の不自然さは和美のことも含まれていた。
「一般人の排除は無理だったが、私と君については他の人間の意識外の存在に出来るのだとか。誰も見れないし、誰も知ることは出来ない。何も知らぬまま日常を過ごさせるという、荒業さ」
鈎はそう言って、受付によることなく真っ直ぐと正面奥にある二階へ続く階段へと進んでいく。南図書館も希望総合病院と同じく一階と二階は吹き抜けの造りになっていて、入口付近から二階の様子が一部見えた。二階にもぱらぱらと利用者が見えるので、青龍の試練の様に階層全体を覆うような結界は無いようだ。
「どうして朱雀はここまで力を行使出来ているの?」
「変な話ではあるんだけど、守護者たるだろう存在がこの朱雀の領域に居ないからだそうだ。ああ、それは我々祓い師の様な存在が常駐していないという意味じゃなくてね、穴にハマる鬼がいないって意味でね。玄武には齋藤、蒼龍には小早志、白虎には君。そして朱雀は現在不在だ。以前に奈菜嬢が祓ったところだからね。確か、君もその場に居たんだろ?」
「代わりになるものが居ないから出ざるを得ないってこと?」
「雑に言えばつまりそういうことらしい。とはいえ、どこもかしこも守護者足るものが不在であったら、それはそれで力の行使を出来ないらしいし。今回がたまたま、と言ってもおかしくは無いね」




