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焼きそばパン大戦争  作者: 清泪(せいな)
最終章 焼きそばパン大戦争

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第百六話 あの夜よ、再び

 守護者とならぬのならば、鬼の力を持つ者は祓いの対象である。分かりきっていた話であったが、和美はそこを失念していた。力を暴走させたら西生家から祓いの対象に指定される、というのを一つのボーダーのように考えていて、そもそも奈菜が尽力してくれて許されている存在なのだということを曖昧に捉えていた。

 正直なところ、白鬼の力だけを取り除いてくれるならばそれでも構わないと和美は思っているのだが、誰もその話をしないところからするとどうやらそんな簡単な話は無いらしい。

 そうだとすると、我儘な話なのだと思うのだけれど和美は死にたくは無かった。

 友達という死にたくない理由が出来たばかりだ。出来たばかりで、投げ出したくはなかった。


「玄武の試練じゃ、偽物とはいえ亀は平気で斬ったんでしょ? 動物は殺して良くて、人は殺しちゃダメだって事? 殺生する対象に比較価値があるってなら、それをちゃんと説明してくれないと、僕にはわからないよ?」


 刃と化した風は、まるで鎌鼬の様に和美の身体を斬りつけていく。制服姿のまま学校から飛び出して来たので、防寒用着ていたウィンドブレーカーに切り傷が刻まれていく。小早志真里亜の分体にも散々斬りつけられて来て、既にウィンドブレーカーからは肌が所々見えていて、そこに切り傷が重なっていく。斬れ味は遥かに鋭い。


「その言葉言わせる為に、この少年殺人鬼を説明役に任命したとしたら、青龍も悪趣味が過ぎると思うんだけど!?」


 悪態をつきながら和美はとにかく距離を取ることにした。光の刀の届く距離からは離れてしまうことになるが、今は風の刃への対処が何も思いついていないので無闇に近づけば血だるまにされるだけだ。


「この狭い病室で、逃げ回る気かいお姉さん? はは、あの夜と同じまた鬼ごっこだね」


 何処までも悪趣味な話だと、和美は思った。あの夜の再現となってしまったら肩を刺されて、そして止まることなくトドメを刺されて終わりだ。この場に花菜の助けは来ない。誰の助けも来ない。


 隅から隅へ。対角線上の壁まで距離を取ってみたものの、相手は風の刃。そばにあるベッドを裏返して盾にしようかとも考えたが、ガンアクションの映画でも無いのであからさまに頼りになりそうになかった。撹乱にならないか、と敷かれていた布団を投げつけてみたが風の刃は簡単に細切れに切り刻んだ。


「うーん、ナイフと違って手に斬った実感がわかないのは難点だね。僕は別に《《観る》》だけなんて興味が無いんだ。僕の手でちゃんと殺さないと、意味が無い。どうにか出来ないのかい、青龍?」


 そう言って笠沼正太は、自身の周りに巻き起こる風の刃を掴もうとするが、それは自身の手をただ傷つける行為でしか無かった。刃は笠沼正太の意志の支配下にはないらしい。


「つまらない。つまらないよ、青龍。僕を作ったと言うなら、ちゃんと僕で在らせておくれよ。これじゃあ、試練たり得ないよ。ちゃんとお姉さんに、僕を殺させたいんだろ? 小早志真里亜を殺させたいんだろ? ただ一方的な殺しがお望みなのかい? 違うだろ? だったら、ちゃんと僕で在らせておくれよ!」


 懇願するように手を伸ばす笠沼正太。風の刃の中に手を突っ込み、その手は容赦なく切り刻まれていく。ビュービューと荒れる風の音の中に、ブシャブシャと肉を刻む音が混じる。

 笠沼正太の手が切られていく。なのに、一滴も血は飛び散らなくて、和美はその異様な光景を眺めているしか無かった。


 やがて、肉を刻む音も、荒れる風の音も静まり、ズタズタに切り刻まれた笠沼正太の手にはナイフのような刃物が握られていた。


「あなたの事は何一つ理解できないのだと、今改めて思ったし、青龍の事も理解できなくなってきた」


「大丈夫、僕は他人の理解を求めていたわけじゃないし、青龍は人の理解なんて期待していない存在だから。四神は理解されない畏怖で信仰の対象ぐらいが、丁度いいからね」


 嬉々としてナイフのような刃物を構える笠沼正太。

 風の刃が止んだことを喜ぶべきか、あの夜の再現がどんどん行われていくことを恐れるべきか。

 和美は覚悟を決めるしかないと息を吐いた。手に込める白鬼の力。光の刀はすでに形作られていた。


「せっかくだし、姿形も再現といこうよ、青龍」


 一度のわがままを通せたなら、全てを通そう。そんな笠沼正太は、言葉通り身なりを変化させていく。保育園児の身体から、小学生の身体へ。パジャマ姿から、黒いレインコートへ。


「さぁ、お姉さん、もう一度、やろうか、鬼ごっこ!」


 再び始まる。殺人鬼と、白鬼。殺し合いの鬼ごっこ。

 

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