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黒鵜姉妹の異世界キャンプ飯 ~腹ペコ転生姉妹~  作者: 迷井豆腐
第四章 煉獄フェニックス鍋
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第45話 S級コミュニケーション

 冒険者達は言葉を失った。予想とは180度異なるこの展開に、何やらほわわんとした雰囲気が漂い始める、この緩い空気に。


(ガシャガシャと頭撫でてるぞ。めっちゃ痛そう……)

(え、お、お知り合い、だった……?)

(やけに親し気だ。つうか、エスタと普通に会話している奴、ギルド長以外で初めて見た……)


 様々な疑問が冒険者の頭の中を過って行く。眼前の光景は未だに信じ難いが、実際にそうなのだから仕方がない。職業柄、生存本能の高い彼らは、その柔軟さを活かして何とか理解する努力を始めるのであった。


「むふん? ひょっとしてミミちゃん達、エスタとお知り合いだったりするぅ? 一体いつの間にぃ?」

(((((そう、それ! 俺達が知りたかったの、それぇ!)))))


 ブルジョンの質問に賛同の意を示す某一同。彼らとしても、そこが一番知りたいところだった。


「実はそうなんです! エスタさん、とっても親切ですよね!」

(((((……親、切?)))))


 新たな、そして凄まじい速度の疑問が、混乱する冒険者達の頭を無理矢理に過って行った。


「とはいえ、一度しかお会いした事はないんですけどね。あれは確か…… そう、私達が冒険者を始めたばかりの頃です。武具店でたまたま知り合いまして、その時の私達に適する装備を見繕ってもらったり、冒険者としてのイロハを少しだけ学ばせて頂いたり――― 懐かしき良き思い出です」

「そうなのん? エスタが後輩にものを教えるだねんて、ひょっとしなくても初めての事じゃな~い? めっずらしぃ~」

「うるさいね、ブルジョン。これまでにそういった機会がなかっただけの事さ。他の小動物には、そもそも教えを乞われるなんて事、一切されなかったからねぇ。それにだ、まだまだ若造の癖して引退しやがった馬鹿に、そんな事を言われる筋合いはないよ」


 美味と甘露の頭から撫でていた手を放し、代わりにブルジョンの額を指先で突っつき始めるエスタ。突っつく、というと大した事には思えないかもしれないが、そうされる度にブルジョンの額からは地を揺らすような音が鳴り、同時に穴が開くんじゃないかと心配になるほどの衝撃が与えられているようだった。もうズガァンズガァン! である。流石の美味もこれを食らったら、ただでは済まないだろう。


「あーらら、怒られちゃったわん。相変わらず圧が凄いんだから、もうっ! というか、痛い! 痛いったら、もうもうっ! 私の顔に傷が付いたらどうするのんっ!? お手入れも大変なのよん!?」

「それはそれで箔が付くというものだ。逆に感謝するんだねぇ」

「まっ、傲慢!」


 しかしながら、それでもブルジョンはまだまだ余裕がある様子だ。これがS級同士のコミュニケーションなのかと、周りの冒険者達は戦慄が走って止まらない。


「ところでエスタさん、今日はどうしてギルドに?」

「ああ、そうだそうだ。すっかり本題を忘れてしまっていたよ」


 甘露がそうエスタに問うと、ズガァンズガァンな音を慣らしていた突っつきが、漸く止まるに至った。解放されたブルジョンの額からは、黒煙がモクモクと上がっており、更には焼け焦げた臭いが辺りに漂って―――


「―――ちょっとー! これって発火寸前じゃないのよー! 道理で焦げた肉の臭いがすると思ったわぁん!」


 そう叫んで手鏡と化粧直し用の道具一式(?)を胸元から取り出し、凄まじい速度でそれらを使い始めるブルジョン。数秒後に彼の額は、驚くべき事に無傷の状態に戻っていた。


(((((………)))))


 冒険者一同、そろそろ理解する努力を諦め始める。


「ふい~、取り敢えずはこれで誤魔化せたかしらねん。それで、今日は一体全体どうしたのん?」


 何事もなかったかのように、マッスルスマイルをエスタに向けるブルジョン。化粧の影響なのか、いつのも二割増して笑顔が輝いているような。


「道中で珍しいモンスターを倒してねぇ。依頼を受けている訳ではなかったが、片手間に片付けて素材を剥ぎ取ったから、そいつを届けに来た」


 体のどこかに『保管』機能付きの装備を身に着けているのか、エスタは唐突に巨大な果実を二つ取り出し、ギルドのカウンターへと置いた。大きさもそうだが、炎の如く燃え上がるような色合いをしている為に、その果実は大変に目立つ見た目だ。傍目からすれば何もなかった空間から、行き成り巨大かつ派手な果実が現れたかのように映っただろう。


「「「「「おおっ!?」」」」」


 現に、周囲の冒険者達からは驚き声が上がっていた。しかし、美味達が気になったのは、そんな事ではなく―――


「あらん、これってもしかして……?」

「ヘルプロテアの実、プロテアップルですか?」

「ん? 何だ、ブルジョンは兎も角として、ミミも知っていたのかい? 勉強熱心だねぇ」


 そう言って、再び美味の頭を撫で始めるエスタ。ガチャガチャと撫でる金属製の手を止まらない。


「えへへ、お姉ちゃん褒められちゃった!」

「美味ねえ、頭が痛くならないその耐久性が羨ましい…… ではなく。エスタさんも、ヘルプロテアを倒されたんですか?」

? というと、まさかミミとカンロもかい?」

「ええ、実は―――」


 甘露はエルフの里で起こった出来事をエスタに説明する。


「―――という訳なんです」

「ほう、なかなか興味深い話だねぇ。希少種である筈のヘルプロテアが、この短期間に連続して現れるとは。こいつは何かの前触れかもしれないねぇ」

「ちょっと、縁起でもない事を言わないでよぉ。なんて、そう言ってる場合でもなさそうねん。この出没頻度は明らかに異常だし、私の方でも調べてみるわん」

「そうすると良い。引退してどうせ暇をしているんだ。裏方でそれくらいの貢献はしてもらわないと、現役の私らは困っちまうからねぇ」

「別に暇はしてないわよぉ! めちゃんこ忙しいわよぉ! ……ところでイータちゃん、そんなところで何をやっているのん?」


 先ほどから沈黙を保っているイータに、美味達の視線が集まり出す。当の彼女はカウンターに置かれた二つのプロテアップルの前に座り、手を合わせて静かに拝んでおり―――


「まさか、再びこの果実を出会う事ができるとは…… 大自然の恵みに、感謝ぁ!」


 ―――否、思いの外うるさく拝んでいた。


「いや、食べないでくださいよ? それ、ギルドへの提出物ですからね?」

「そ、それくらいの事は分かっている。私はただ純粋に、感謝の気持ちを姿勢に表してだな!」

「……さっきから気になってはいたんだが、そのエルフは誰なんだい?」

「む、失礼、紹介が遅れた」


 イータは美味達の仲間となった話も含めて、エスタに自己紹介をする。


「ほう、エルフの族長というと、オクイの娘か」

「父上を知っているのか?」

「ああ、何度か顔を合わせた事がある。とはいえ、もう百年以上も昔の事だ。今となっては顔も忘れちまったがね」

「なるほど…… って、ちょっと待ってくれ。百年と聞こえたが、エスタ殿もエルフなのか? とても人間が生きていられる期間ではないと思うだが……」

「一応は人間であった者さ。まあ、長い事冒険者をやっていると、色々と長く生きていくコツが分かっちまうもんなんだ。ククッ」

「ええっ……」

「さっきもそれっぽい事を言ったけど、エスタは私なんかよりもずっと先輩なのよぉ。確か私が冒険者を始めた頃には、もうS級として名が通っていたかしらねぇ?」

「え、そうだったんですか!? 全くの未知の情報に、お姉ちゃんったら大興奮!」

「私も知りませんでした。エスタさん、長生きされていたんですね」

「おい、ブルジョン。余計な事を教えるんじゃないよ」

「っと、させないわんっ!」


 再びブルジョンの額を攻撃しようとしたエスタであったが、今度はブルジョンのガードが間に合い、拮抗する形で攻防が静止する。が、その反動なのか再び床が軋み、遂には建物全体にまで揺れが波及し始めていた。


(((((あ、今度こそ死んだ……)))))


 その瞬間に冒険者一同は、心の底からそう思ったという。幸いにも、揺れの大元であるS級二人は寸前のところで拮抗を解き、建物が倒壊するなどの被害が出る事はなかった。

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