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限界コミュ障オタクですが、異世界で旅に出ます!  作者: 冬葉ミト
第6章 蒸気都市で、便利屋として走り回ります!
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事情聴取とか死んでも受けるもんかと思ってましたけどね

「お、お集り頂き、ありがとうございます。担当はわたし、ミラが担当します。え、ええとですね、まずお名前の確認をしたいと、思いますぅ……」



 ミラと名乗る調査官は小さく口を開いてぼそぼそとそう告げました。静かな取り調べ室だから聞こえる程度の声量です。

 顔は強張り、背筋が不自然なほどに後ろに沿っています。ガチガチに緊張しているのがバレバレです。



「モトヤマ・リラです。えっと、職業は魔法使い、です……」

「えと、はい、ありがとうございます。それで次はですね……」



 今日は事情聴取の日。嫌な思い出しかなく、さらに1人づつ行うなんていうう絶望的な状況の中。意識を混濁しかけながら待っていると、現れたのは前髪で両目を覆い隠した、単刀直入に言えばモブみたいな容姿。想像の真逆すぎて7回転半も回ってしまうほどでした。

 そして第一声から感じる親近感……もしやこの人もコミュ障? とはいえ事情聴取する側がコミュニケーション苦手では成り立ちません。新人とかで緊張してるだけでしょう。きっと。



「えと、では、まず、現場に居合わせた経緯を、教えてください」

「は、はい。ええっと………………」



 流れる沈黙。上手く言葉が組み立てられず、次々と掘り起こされる記憶と混ざって脳内がこんがらがっているのです。だってこんなの初めてだし仕方ないじゃないですか!

 ですが向こうは私の意図を察してくれたのか、促すことなく待っていてくれました。優しい人で大助かりですよ……



「まずですね、私の仲間のフーリエちゃ……が」

「あ、愛称付けたいなら付けたままでいいですよ。別に、何も影響しない、ので」

「い、いえ、大丈夫です……えと、フーリエが体調を崩したんです。ただ症状が、普通の風邪じゃなくて、いろいろと調べた結果、あの家に辿り着いたんです。それでノックしても返事が無いので開けたら異臭がして、その先に倒れてたっていう感じです」

「…………あ、ありがとうございました。では、そこから色々と深く、お聞きしますね」



 やっぱりこの調査官、私と同類ぽいです。言葉が詰まり気味で、視線が常に私の顔以外の場所に向けられていて、最初に発する言葉は“あっ” とか“えと” であり、そして何より会話が区切られない限り自ら声を出さない。

 新人で緊張している訳ではなく、本物のコミュ障でした。私には分かります。じゃあなぜコミュ障の人がこんな仕事をしているのか、コレガワカラナイ。



「症状は、どんな感じでしたか?」

「最初は咳と熱だったんですが、熱が下がった途端に幻覚と幻聴に手足の痺れが出たんです」

「た、確かに変、ですね……えとでは、その家が怪しいと睨んだ、根拠は?」

「っ……!」



 再び長い沈黙。まさか情報屋から聞いて不法侵入して証拠を見つけましたなんて言えません。でも彼女は次を促してこないので、時間を使って誤魔化しの言葉を探します。



「フーリエが、35番街を飛んでいたのと、噂で怪しい薬を作ってると聞いたので、一番怪しいかなって……」

「ち、ちなみに、噂はどこから?」

「知り合いとかから人づてに?」



 一応、嘘はついてません。情報屋という知り合いから人づてに聞いたのですから。



「一旦まとめますね。まずフーリエさんという方が体調を崩され、その容体が普通の風邪ではなかったと。そこで原因を探っていたところ、35番街の現場の家で怪しい薬を作っているとの噂を聞き訪ねたところ、既に家主が倒れていたということですね?」

「そうです」

「分かりました……あともう少しだけお聞かせください」



 彼女も慣れてきたのか、はたまた私を同類と感じ取ったのか、最初より緊張が解けて強張った表情も和らいでいます。

 彼女もまた、威圧的な容疑者や参考人を相手にしてトラウマを抱えてしまったのかもしれません。コミュ障とは、どこかで何かしらの原因があるものです。望んでコミュ障になっていないのです。


 その後の事情聴取は、遺体発見の時刻や、便利屋【クラウンの掲示板】との関りなど片手で数える程度の質問を聞かれて終了。他殺を疑われることもなく、彼女は私の言葉をそのまま書き留めてくれました。そういうの地味に助かります……



「では、これで事情聴取は終わりになります。長時間のご協力、ありがとうございました」

「い、いえ、こちらこそ、優しい人が来てくれて助かりました……」

「そ、そんな、ありがとうございます。わたしも、聞き取りする人が優しい同性の方で良かったです。実はわたし、本当は事務職なんです。事情聴取とは無縁の役職なのにこんな場所に駆り出されて……会話が苦手だから事務を選んだのに……」



 彼女はうつむいて人差し指を突っつき合わせながら、か細い声で置かれた身の上を話しました。

 確かに、事務職の人がいきなり事情聴取しろと言われたら、誰だってこうなってしまう可能性はあります。でもなんでそんなことに?



「私も、会話がすっごく苦手で、人見知りなんです……なんとなく同じ雰囲気を感じてました。でもどうしてそうなったんですか?」

「それはですね、担当するはずだった人までベルさんが引き連れて行ってしまったんです。他の部署から引き抜いたり、ルーレットで決められた人でやってるんです……」



 同情を求めるような上目遣いでそう説明しました。私より少し身長が低いので、前髪に隠れていた両目がちらと見えます。



「ルーレットとか、大丈夫なんですか色々と……」

「元から破天荒な人でしたけど、それを補える十分すぎる程の実力と能力を持ってますし、遺失物担当なのに指名手配犯の隠れ家を見つけたり無視できない実績もありますから……誰も文句は言えず、上層部からは評価された結果が今回の昇進。そして今回の有様という訳です……」



 溜め息をついて肩を落とす彼女の姿から、私の脳内には一頭の動物の姿が思い浮かんでいました。白い毛並みで、ベロを出しながら変顔する馬の姿が……



「あ、すいませんっ、こっちの話なのに付き合わせてしまって……」

「い、いえ、大丈夫です。元は私から聞いたことですし」

「すいません……では後は退室して頂いて結構です。ありがとうございました」



 ペコリと頭を下げる彼女に合わせてお辞儀をし、その場を後にしました。名前は忘れてしまいましたが、もう一度くらいは会って話してみたいと思えるほどに、親近感は強く感じる人でした。

 ともかく無事終わったので速攻で帰ってフーリエちゃんを待つとしましょう。そろそろフーリエちゃん欠乏症になりそうなので……っ! あの匂いを嗅がなければ…………ッ!!!

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