フーリエちゃんへの感情は推しか恋愛か、そんなの分かり切ってるはず……なんですけどね……?
【クラウンの掲示板】に戻ると、クラウンロイツ姉妹とエリシアさんの姿はなく、フーリエちゃんだけが戻っていました。
ソファに寝転がって魔導書を読みふける姿は、誰が見ても疑いようのないぐうたらです。しかし、それすら“良さみ” にしてしまうのがフーリエ・マセラティという魔女。最高にかわいらしくも、気品がにじみ出る容姿。低身長なのを本人は気にしていますが、むしろ最高のアイデンティティ! 小さいけど頼れて強い、そんなギャップは定番であり最強の属性! 満点超えて200那由他3万点!!
「フーリエちゃん好き…………」
「ところでリラはどうだったの」
「しゅきぃ……」
「また超絶人見知り発動した?」
「いや相手も私と同じタイプで、似た者同士で上手いことやれました」
「私のところも明らかに不慣れな人だった。ぎこちなくて、予め用意されていただろう質問しかしてこなかった。まぁリラほどではないけど」
自分で言うも悲しいですが、私ほどのコミュ障は珍しいと思います。
「他はまだ帰ってきてないんですね。というかフィルトネさんまで呼ばれたんですか」
「まぁ首突っ込んだ関係者だし。私は病み上がりだから早めに切り上げてもらった。はぁぁ、このソファちょうどいい柔らかさで寝転ぶには最高だよ。体を横にしても疲れない。特注品なのかな」
「は、はぁ……」
「…………………………」
「……………………………………」
沈黙が流れました。会話のネタがありません。久々にフーリエちゃんと2人きりになったのに、会話デッキがもう切れてしまったとは不覚ッ! とにかくフーリエちゃんが寝る前に気を引くような何かを…………
「リラって同性愛者なの?」
「ブウェヘッ!?!?」
突如投げられた爆弾級の質問で、どこから出したのか分からない声を発してしまいました。 あの、その質問の意図はなんですかフーリエちゃん……!?
「ええと、同性愛者なのかは、自分でも分からないです。そもそも誰にも恋をしたことがないので、恋愛感情を知らないんですよ……」
「なら私へ向ける感情も恋ではないと」
「た、多分……? あくまで推しであり、一方的に愛でて愛し、フーリエちゃんがフーリエちゃんでいてくれれば満足なんです! ……あ、もし仮に、恋愛関係になりたいと、そちらからおっしゃるのなら全然受け入れます、が……」
「見返りは求めないんだ」
突如として脳内に電流が走りました。
そうです、それだ、推しは向ける愛の見返りを求めなくとも成立する。恋愛は見返りを求めなければ成立しない。長年悩んできた推しと恋愛の違いについて、ひとつの解釈が生まれました。
ただガチ恋勢の立ち位置が難しいですが……まぁ深く掘り下げすぎると論争になるので止めにしましょう。あくまで私個人の解釈ということで、解釈違いでも暴れないでくださいね?
「まぁともかくですね、私は性別関係なく、恋愛感情というのを持たずに今まで生きてきたのです。なので、まず何をもってして恋と定義するのか、そこからなんです。フーリエちゃんへの感情は見返りを求めない、あくまで“推し”としての感情と自分では認識していますが、他の人から見たら片思いかもしれません」
「じゃあ可愛いとカッコいいなら、どちらが好き?」
「それは前者ですね。小さい頃からイケメンに興味はありませんでしたし、逆にかわいいと持てはやされる女性には素直にかわいいと感じてました。でもそれだって、男性でもカッコいいイケメンはカッコいいと思うでしょうし、女性だってかわいい女性をかわいいと思うので、線引きの基準にはならないかと。結局は、私が恋愛感情を理解しないことには、同性愛者か異性愛者か、はたまた両性愛者か判断しかねる、ということでよろしくお願いします」
私はぺこりと頭を下げました。誰に対してのお願いなんでしょうかね。
しかし、もしこれが乙女ゲームの世界なら、顎クイをされて「なら今ここで恋を分からせてあげる」なんてセリフと共にキスシーンのCGが流れることでしょう。
もちろんそんなことは当然あるはずもなく、自ら頭を上げてッ!?!?
「……ふぅん」
5センチもあるかないかの距離にフーリエちゃんの両目がありました。いやいやいやいやいやいやいや近い近い近い近い近い近い近い近い!!!!! 空色とエメラルドグリーンのオッドアイが、私のかけているメガネのレンズに当たりそうなくらいに近いのですが!理性もそうだけど頭が混乱してヤバイよぉ!!
「嘘はついてないね」
「へ…………?」
「個人的に気がかりだっただけ。気にしな――」
「ただいま戻りましたってウワーッ!! おふたりがついに、キスをぉ!!」
なんとも悪いタイミングでエリシアさんが帰ってきてしまいました。まだ私の至近距離にはフーリエちゃんの顔面があり、つまり傍から見ればキスシーンに見えるわけでして。
それに気づいたフーリエちゃんが風切り音を立てるほどの速さで顔を離しました。
「ち、違う! あくまでもリラの顔を見てただけだ、本当だ!!」
「はいはいやっぱりフーリエさんもそういうの、だったんですねぇ」
「なんだそういうのって! 私はリラには恋愛感情はない! そもそも恋をしたことがないよリラと同じく。貴族社会だったから政略結婚がほとんどだし、そこでコソコソ見てる姉妹なら分かるでしょ」
「バレた? まぁそうだね。殆どの場合が両親によって決められた相手と結婚するから、本当の意味での恋愛が発生するのは稀だね」
必死で言い訳して顔が赤くなってるフーリエちゃん最高……こんな慌てふためくフーリエちゃんの姿は初めて見ます。良い…………良い…………しゅき…………
と、エリシアさんが期待に満ちた顔で耳元に囁いてきました。
「どうなんですか、実際は」
「ふふ、残念ながらフーリエちゃんの言う通り、何もありませんでしたが、私にとっては何でもありましたよ」
「むぅ、それは残念。まあフーリエさんがあんな姿を見せるのも珍しいですし、もう少しからかってあげましょうかね」
「病み上がりですから程々にしてくださいね」
カッコつけてウインクして、2階に上がろうとするフーリエちゃんを追いかけるエリシアさんを見送りました。
って、これじゃ完全に後方彼女面じゃん! でもまぁ、いっか。




