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限界コミュ障オタクですが、異世界で旅に出ます!  作者: 冬葉ミト
第6章 蒸気都市で、便利屋として走り回ります!
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静寂従順な死神

 事情聴取から翌日。憲兵のベルさんが【クラウンの掲示板】を尋ねてきました。



「よぉメフ、それにフィルも久方だな。早速だが件の事件について話すぞ」

「早速過ぎるんだよ。お茶を用意する時間くらい待って」

「いいじゃんか減るもんじゃねえし」

「時間は減るものなんだけど」



 メフィさんと付き合いがあるとはいえ、傍から見てもまともな憲兵ではありません。コメディ作品にはいそうですが。



「こっちだって隙間時間を縫って来てるんだよ。だから結論から話させてもらうぞ」

「その割にリラックスした座り方してるけどねえ」



 ベルさんは右手を大きく振りかぶって、人差し指をピンと立てました。



「結論。自殺と考えるのが自然だが断定はできない。理由。毒性物質を抽出したと見られる器具が綺麗すぎる。天窓だけ開いていた理由が不明」



 彼女は箇条書きの文書を読むように、区切りよく説明を口にしました。運ばれた紅茶を一口付けて更に続けます。



「まず器具。場所は屋根裏部屋にあり、確認できたのは蒸留器具とろ過器具、軽量器具等。全て洗浄され机に置かれていた。それどころか、どの部屋も整理整頓されていた。まるで明日には引越しするかのように。まぁ家主はあの世に引越しちまったが」



 メフィさんは思い当たる節があるのか、ボソッと呟きベルさんがそれにうなづきました。



「静寂従順な死神」

「だろうな。ソイツの犯行と一致している」

「誰それ」



 完全に横になったフーリエちゃんが横入りするように尋ねました。




「追っている殺人鬼だ。存在するかも不明な」

「どういう意味?」

「被害者は皆、生前に耐え難い苦しみ――不治の病や体の麻痺、精神病など――を抱えていて自殺を希望していた人だからだ。ある体が不自由な老人は自宅のベッドで眠るように、ある借金を抱えた男は路地裏で腹部を刺して、ある熱心な信者は教会の傍で聖書を抱えながら薬物中毒で。これだけなら自殺と断定できるが、そうじゃない」



 ベルさんは懐から出した金属の球を転がしながら続けます。



「数件、決定的に他殺となる死因があった。罪の意識に苛まれ人生を途中で辞める選択をした元受刑者は、磔にされて亡くなっていた。他にも銃弾の跡があったり、依頼者の望んだ死に方とはいえ第三者の関与が無ければ不可能な死因がある。依頼主の要望に忠実に応えた殺し方をし、犯人は足跡も目撃情報も残さず静かに去る。このことから静寂従順な死神の名がついた」



 依頼で殺人を行い、対象は依頼主本人に限られる。言い換えれば自殺代行。

 ともすれば例の家主も耐え難い苦しみを抱えていたのでしょうか。



「この前に亡くなった人も病気とかしてたの」

「らしいな。心臓の病気を患っていたらしく、医者から薬を貰っていたが一向に経過が良くならなかったそうだ。そこでジギタリスに手を付けたのだろう。心臓病の特効薬とされているが、中毒症状が酷く乱用者が相次いだことからスタンレーでは15年前に規制された」

「ジギタリスだけならまだしも、ケシまで出てきたら命を絶つ意思があったのは確実だよね。そして密売した者がいる」

「ソイツを追うのは別部署だからどーでもいいわ。問題なのは自殺か他殺か判断できないのが厄介だ」



 つまり犯人は“自殺に見せた他殺”と、“他殺による自殺”を混ぜることで線引きを曖昧にし、捜査をかく乱させる狙いがあるのでしょう。本来なら自殺と断定できるような事件でも、共通する背景を持った被害者の中に明らかな他殺があるせいで、本当に自ら命を絶った人間ですら他殺の線が浮かび上がってしまうよう仕組んでいるのです。



「そんなんだから解明まで時間が掛かるかもしれない。また協力を仰ぐことがあるかもしれないが、そん時はよろしくな」

「前日までに連絡してくれれば対応できる」

「おっし。じゃあ前日の朝に枕元に干からびたミミズ置いとくぜ」

「マジでやめろ。フィル姉も容赦しないぞ流石に」

「おお怖え」



 ふふふ、と笑顔を浮かべながらも背後にただならぬオーラをまとわせるフィルトネさん。大人しい人ほど怒らせると怖いの典型例です。



「アタシはこれでお暇するぜじゃあな!」



 ピューンという効果音が聞こえてきそうな去り方をしてベルさんは帰っていきました。

 騒がしかったのが途端に静まりかえります。聞こえるのはフーリエちゃんの寝息だけ。



「すぅ、すぅ……」

「お部屋までお連れ致しますか?」

「い、いえ、私が連れていきます!」

「おっとそれはリラさんには荷が重いでしょう。折半して2人で運びましょうよ」



 エリシアさんの提案にぐっとサムズアップ。確かに小さいフーリエちゃんとはいえ私のよわよわ腕力で支えられるか不明。ならばエリシアさんと一緒に運べば互いに利益があるってものです。

 私が腰から下を、エリシアさんが腰から上を持ちます。恐らく他者から見ると漫才のような運び方なのでしょうが(メフィさんもフィルトネさんも笑いこらえてますし)本人は至って真面目なのです。

 そしてフーリエちゃんはそのことを覚えていて「頭悪そう」とシンプルな罵倒を頂いたのはまた別の話。いやむしろご褒美ですよ!!

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