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22 五百年越しの花言葉

 今日はデートだ。

 先週ガトーフレーズを一緒に食べた時の様な成り行きではない、「俺と花を見に行きましょう」「はい」といった段階を経た正真正銘のデートである。

 ただ、二人っきりではない。

 経緯は以下の通り。


 デュラージュを下山している途中、エマから故郷のバンリという村を救って欲しいと頼まれた。

 バンリは花の産地として有名らしい。1年中花を咲かせる四季咲きの薔薇と、百合が特に有名だそうで、主に王都へ出荷している。

 しかし、今年は原因不明の病気が流行っているらしく、夏に咲くはずの百合が全滅。薔薇にもうつったのか段々と枯れていき、今では危機的状況だとか。

 そこで俺の出番という訳である。

 エマ達冒険者パーティーがいなかったら死んでたかもしれないからな。二つ返事で了承した。

 その様子を見ていたアンジェが、一度バンリの花畑を見るのが夢だった、とこぼしていたのですかさず誘ったという訳である。

 木曜は丁度休みだし、ジークの許可も取った。城壁の外に出るが、バンリへは街道も整備されており馬車で一時間ちょっとだ。王都周辺は盗賊なんかも殆どいないようだから、危険は無いだろう。


 そして今は街道を馬車に揺られている。

 道中は馬車の中でアンジェと二人っきりでイチャイチャ、と思っていたのだが馬の手綱を握るエマがてとらを抱っこしたいと言い出し、膝の上に乗せてしまった。アンジェもてとらを触りたかったようで、御者台の上で二人でてとらをいじくり回している。

 で、残された俺はおっさんと向かい合う羽目になった。

 エマは金に物をいわせ、かなり立派な馬車を借りたのだが、広めの室内には俺と初老に足を突っ込んだナイスミドルの二人だけだ。


 アポストロフィー。


 詠唱短縮の達人として名高いセラヴィス有数の魔術師で、SSランク冒険者。クロームとは旧知の仲らしい。

 エマの依頼を受けた時、何故かアポストロフィーが護衛を買って出たのだ。


 クロームと違いアポストロフィーはあまり喋る方ではない、いかにも老練な魔導士然としている。


 「ゴホッ、ゴホッ」


 俺は咳込んでしまい、咄嗟に口をおさえる。

 風邪でもひいたのだろうか、朝から喉が痛く、咳が出る。体も少しダルい。アンジェも今日寝坊していたが、俺も疲れが溜まっているのかもしれない。何度か治癒魔術をかけているのだが、効果がないようだ。

 しばらく湿った咳の音が響いていたが、やがてアポストロフィーが口を開いた。


 「すまんな。若い者の邪魔をするつもりはないんだが、お前さんと話がしたくてな」


 本人は邪魔だと思っているようだが、ジークが最初渋っていた許可を出したのは、アポストロフィーさんがついていくなら大丈夫ですよとクロームが説得したからである。邪魔どころか感謝しているぐらいだ。


 「俺と?」


 「クロームが固執していた聖女様を間近で見ておきたくてな。聖女はお前さんなんだろう? あの底なしの魔力量、他には考えられん」


 「……ええ、俺が聖女です」


 少し迷ったが、クロームも一目置いている相手だ。この後の予定もあるし、正直に正体を明かす。


 「儂は幼い頃、クロームに師事していてな。奴の教えを理解出来ずに古代魔法を諦めて、詠唱短縮に逃げてしまった不出来な弟子だった」


 クロームの弟子? アポストロフィーが?


 「弟子って、一体何歳なんですかクローム先生は?」


 「知らん。儂はもうすぐ五十になるが、奴は魔眼持ちだ。人の理から外れている。少なくとも儂が子供の頃から全く変わっておらんぞ」


 八十は超えてるって事? おっさんというか、おじいちゃんじゃないか。

 でもエルフなんかは人間より長命というし、マテューも若者にしか見えないが六十を超えている。セラヴィスでは珍しい事じゃないのかもしれない。


 「冒険者としてのイロハもクロームに教わった。そのクロームがアーガルムのお抱えになると聞いた時は驚いたものだ。何故だと尋ねてもいつもの飄々とした感じで、内緒ですとほざきおった」


 クロームについて語るアポストロフィーは、嬉しそうに目元の皺を一層弛ませている。


 「しかし酔っ払った勢いで口を滑らせた事があってな。アポストロフィーさん知っていますか? 聖女様って無茶苦茶美少女なんですよ。見ててください、世界一美しい聖女様を召喚してみせますから! とな」


 どうやら、クロームは聖女を召喚する為にアーガルムのお抱えになった、という事らしい。


 「聖女に憧れでも抱いているのかと思っていたが、どうもお前さんへの態度を見るに色恋沙汰ではないようだ」


 せっかく召喚した美しい聖女様は男だったしな。


 「なんというか、恩人の子供を預かっているような、誰かへの恩返しでもしているように見える。あの治癒術士の娘を重用しているのもお前さんの為じゃないのか? あの娘を好いているのだろう?」


 「え、ええ。好きです」


 人に尋ねられると恥ずかしいが、否定してもしょうがない。

 つまり、クロームは俺がアンジェに気があるのがわかってて、側にいられるようにしてくれてるって事? 

 クロームとの間に、俺自身も知らないようなつながりでもあるっていうのか?


 「クロームはあまり説明をせん奴だ。誤解される事も多いがよろしく頼む」


 「はい。と言っても今は俺の方がお世話になりっぱなしですけど」


 クロームとは精霊巡りの旅も一緒に回る予定なのだ。つきあいは長くなるだろう。頼まれなくても、彼とはいい関係を築きたいとは思っている。


 「良かったら、クローム先生との思い出とか聞いてもいいですか?」


 「ああ。他愛ない事ばかりだが……」


 バンリ到着まで、アポストロフィーの話を聴いて時間を過ごした。

 ウッドベースを連想させる彼の低音の落ち着いた声は、ジャズを聴いているようで心地よかった。



 ―***―



 バンリに到着。村の入り口に馬車を停める。

 

 「じゃあ坊っちゃん、村の皆を連れてくるからその間に準備しておいてくれるかい。嬢ちゃんはアタシと一緒に村へ行くよ」


 「私も? は、はい。わかりました」


 エマがアンジェを連れて行ってくれている間に急いで準備をする。


 聖衣に着替え、メイクをする。ジークにおねだりして手鏡を買って貰ったのだ。

 聖女として必要、といったらすぐに買ってくれた。チョロいものである。

 

 「ほう、上手いものだ。手先が器用なのもさすがクロームの弟子らしいな」


 今後必要になるからとティファニーからメイクを習っている。彼女の様に、とはいかないが、そこそこ出来るようになったつもりだ。

 ……。

 着々と女装男子としてのスキルを身に付けているな。

 ティファニーから持たされたポーチの中身は、化粧道具と裁縫道具、それにツインテール用のリボンだ。女子力を上げるのはいいが、俺は何になろうとしてるって言うんだ。って聖女か。

 仕上げにカツラを被り、アポストロフィーにも手伝ってもらってツインテールを作る。 

 聖女レンちゃんに変身完了だ。

 ピシッ! っとライダーポーズを華麗に決めて気合いを入れる。


 やがて周囲にたくさんの人の気配。

 バンリの村人達も驚くだろう。なんせいきなり聖女が奇跡起こしに来たんだから。


 「聖女様いいか……、よろしいでしょうか?」


 「構いません」


 俺の返事を受けて馬車の扉が開かれる。

 差し出されたエマの手を取って階段を降りた。

 今日のエマはさすがにビキニアーマーではない。聖女のエスコート役だからな、白を基調とした綺麗な全身鎧に身を包んでいる。スタイルのいい彼女だから女騎士風の格好もサマになっている。


 「せ、聖女様?」

 「本当に、本物?」


 「おいおい姉さん達、言葉には気をつけてくれよ。わざわざ聖女様がこんな所まで来てくださったんだから」

 

 「いいのですエマさん。突然来たのですから、無礼なのはこちらでしょう。早速ですが畑へ参りましょうか」


 バンリは貴族が統治する土地ではなく、王都と同じように国直轄である。エマの姉夫婦が責任者として任されているらしい。

 姉夫婦に案内され、畑へと向かう。

 ぞろぞろと歩き出すが、事態が飲み込めずに立ち尽くすアンジェに声をかける。


 「アンジェリークさん。詳しい話は後でします。とりあえず行きましょうか。」


 「えっ? あ、はい。……セイ様、なのですよね?」


 トトッと小走りで横に並んできたアンジェ。小声で聞いてきたので、俺も小声で返す。


 「ええ。俺がセイです。レンが本名ですが俺は男で、聖女を演じています。後で時間をください」


 ジークから、あまりセイの時に目立つ事はしないで欲しいと言われている。アーガルムはあくまで、奇跡は聖女の所業にしておきたいのだ。今回は聖女としてバンリの花を咲かせる。

 ついでに、いや、俺にとってはこっちがメインだ。今日、アンジェに全てを話すつもりなのだ。その為にエマにも事情を話して協力してもらっている。


 「わかりました聖女様。後でお話を聞かせてください」


 アンジェの前では相当カッコつけてきた俺だ。女装野郎だと知ってどう思っているか正直怖いが、前に進むには話さなければならない。


 「さあ聖女様、こっちらからお向こうが薔薇、奥が百合だってさ、です」


 エマのおかしな敬語に苦笑しつつ、枯野になってしまった畑を見る。

 本来なら見渡す限りに薔薇の花が咲いているはずだが、今では見る影もない。所々茶色がかかって枯れている。

 しかし広いな。思ったより時間がかかりそうだ。


 「わかりました。早速やっていきましょうか。てとら、今日は花は摘まないからな。切り落としちゃ駄目だぞ」


 「きゅきゅ!」


 本気でやったらどこまで届くか、試してみるか。村の人達が見てるし、派手な方がいいだろう。

 てとらを肩にのせ、畑の中へずんずんと入っていく。

 五百メートルほどの地点で治癒魔術を発動させる。


 「祝福の風」


 自分を中心に吹く光の風。フォンドルレアの時にイメージしたのは空から降り注ぐ陽光だったが、今回は範囲が広いからな。イメージしたのは風。全方位に光が駆けていき、枯れ草に触れた途端に青々とした葉を蘇らせ、鮮やかな花をつけていく。

 途中、光の風が村人達を通過し、慌てて帽子や髪を抑える人達。残念ながらアーガルムではミニスカートの文化はない。

 もう! イヤらしい風!

 という事にはならなかったが、これは流行らせなければならないな。肩掛け鞄の普及もあるし、まったく聖女というのは本当にやる事が多い。


 視界の端に映る村の入り口まで、光の風を走らせる。三十秒程で目に映る全てが華やかになる。遠くの村人からは大歓声があがった。


 「戻ろうかてとら」


 「きゅ!」


 真っ直ぐに挙げた腕をてとらが掴み、掴むというかしがみつくに近いが、翼をバタバタさせて一メートル程俺の体を浮かせる。オリジナル風魔術てとらコプターだ。花を踏まないでいいように、そのままアンジェ達の元へ低空飛行で移動する。 

 てとらは風魔術の繊細な操作が出来る。訓練すればある程度空を飛べるようになるかもしれない。夢が広がる。

 ふわり、と着地する俺を村人達は平伏して迎えた。

 ミッション完了である。



 ―***―


 以前、右の乳首から一本だけ、毛が生えていた。

 五センチくらいかな、結構立派なやつだ。

 さすがに気になって、抜こうと引っ張ったんだけど、思いっきりやっても抜けなかった。

 抜けないまま愛着が湧いてしまって、アマリリスと名前をつけて可愛がっていた。

 だが、そんな幸せな生活も長くは続かなかった。

 ある日、風呂上がりに上半身裸で居間にいたら、妹がアマリリスを発見したのだ。


 「何それキモイ」


 「おー、これな。どれだけ引っ張っても抜けねーんだよ。ほら……」


 プツンッ。


 軽く引っ張ったら抜けてしまった。


 「うわあぁぁっ! アマリリスが! アマリリスが!」


 「うわ、キモ」


 それから二度と生えてくる事は無かった。


 つまりだ、この世に永遠なんてない。

 明日お別れしなくちゃいけないかもしれない。

 だから、好きなものには好きだと伝えておきたい。

 好きな者には。



 ―***―


 

 「じゃあ坊っちゃん、あとは周りに人を近付けないようにすればいいんだね?」


 「はい。お願いしますエマさん」


 「任しときな。頑張んなよ坊っちゃん。ここ真っ直ぐ行った所にベンチがあるから」


 エマとのひそひそ話を終えて、努めて柔らかい笑みを作って、アンジェに手を差し出す。


 「行きましょうアンジェ」


 聖女モードではない、地の、セイと同じ声色にアンジェは笑顔を返してくれて、俺の手を取った。


 「はい、レン様」


 手を繋いであぜみちを歩く。

 道の両脇には遅れて咲いた百合の花。

 白や黄色の控え目な色に反して、強い香りが鼻をくすぐる。

 

 「百合はまるでアンジェのようですね。可愛らしいのに、芯が強い」


 「――へっ? そ、そそそんな! こここ、こんな可愛くないです!」


 「俺は可愛いと思っています」


 顔を真っ赤にしてあたふたと慌てるアンジェは、可愛かった。


 「かわ……。嬉しいですが、百合と言えば緋ユリの騎士(スカーレットリリー)、リリーナ様がいらっしゃいます」


 「リリーナ、彼女は百合の騎士と称される程ですから美しいのでしょうね」


 「はい、それはもう。背も高くて、燃えるような真っ赤な長い髪で、強く凛々しい。近衛騎士筆頭様はソルミナの女性の憧れですから」


 そのリリーナ、まだしばらく帰ってこないらしい。ルドラム前国王の喪が明けて、週末に新国王の戴冠式が執り行われる。

 アーガルム国王もそれに出席する為、来週あたりになるだろうとの事。


 「へえ。でも素敵な女性はこれ以上いらないんですよ、アンジェだけでいいんです。あそこに座りましょうか」


 手を握ったまま、薔薇の花に囲まれたベンチに腰を下ろした。

 周囲に真っ赤な薔薇の大海が広がる。

 バクバクと鼓動が響き、繋いだ手からアンジェに伝わってしまうんじゃないかと心配になる。

 心音を言葉にしようと口を開くが、パクパクとするだけで音が出てこない。

 二人の間にしばらく沈黙が漂う。

 話せないでいるとアンジェが沈黙を破る。


 「レン様、とお呼びした方がいいのですよね?」


 「そうですね。聖女である事を隠そうと咄嗟にセイと名乗ってしまいましたが、フジサワレンが本名です。フジサワが家名で、名前はレンなのでレンと呼んでください」


 「わかりましたレン様。でも驚きました。あの魔力量、異世界の方だとは思っていましたが、てっきりセイ様は聖女様のご兄弟だとばかり。聖女の伝承にも、召喚の儀では二人の異世界人が喚び出されたというものもありますし」


 「二人? 聖女だけじゃなくて、ですか?」


 「だそうです。ルドラムではその様に伝わっているそうです。アーガルムではアムル教の為に滅多に話には出ませんが」


 異世界から二人喚び出された? 聖女ともう一人?


 「俺は一人でした。ジーク殿下に女の子と間違われて、聖女になってしまいましたけど」


 「クスッ。レン様はお美しいですから、無理もありません。接してみればとても男らしいのに。でも、私に話して良かったんですか? 機密事項では?」


 「身近な人にはいつまでも隠し通せるものでもないですし、お願いしたい事がありまして」


 「お願い?」


 口がカラカラになる。鼓動はどんどんと早くなる。まともに顔を見れないが、それでもその目を真っ直ぐに見つめる。


 「半年後、大陸各地へ旅に出ます。それについてきてください」


 「精霊を巡る旅に、私が?」


 「はい。先生もリリーナも治癒魔術は使えないそうで、俺以外にも治癒魔術の使い手を探していたんです。アンジェなら申し分ない。って言うのは建前で……」


 すぅっ、と息を大きく吸い込んで、想いと一緒に吐き出す。


 「アンジェが一緒にいてくれれば、俺は頑張れます。側にいて欲しい。アンジェと離れたくないっていう、俺のわがままです」


 ――再び、沈黙。

 耳の先まで真っ赤にしたアンジェは下を向いてしまって、その表情はわからない。だけど、繋いだ手から緊張と、ドキドキが伝わってくる。

 しばらくして、とてもとても小さい声で、彼女は質問を返した。


 「――それは、愛の告白でしょうか?」


 「そうです。アンジェが好きです。一緒にいてください」


 即答する。そして、ポケットからとっておきを取り出した。


 「ご家族には髪留めとペンを差し上げたのですが、アンジェは特別です。左手を出してください」


 ヤンに宝石を探してもらった。急だったから小さいダイヤだったが、成人前だし十分過ぎるだろう。それをシモンに指輪にしてもらったのだ。

 

 「俺の世界では結婚前に指輪を贈る風習がありましてね。婚約の証に左手の薬指にしてもらうんです。ま、これはそんなかしこまったものではなく、ただのプレゼントなので気にしないでください」


 将来結婚しましょうとか言って薬指に嵌めればいいのに、俺はビビって誤魔化して、中指に嵌めようとする。


 「……薬指に嵌めてくださらないのですか?」


 「え? その、いいんですか?」


 「はい……私も、レン様をお慕いしております」


 恐る恐る薬指に指輪を嵌める。シモンの指輪は勝手にサイズ調整をしてくれる優れものだ。

 アンジェはまじまじと指輪を見つめた後、手をそっと握って胸に抱いた。


 「ありがとうございます。大切にしますね」


 パァンッ、パンッ! とクラッカーが議会に鳴り響く。議会では既にお祭り騒ぎだ。厳しすぎる妹なんかは涙ぐんでいる。

 ありがとうみんな。

 ありがとう俺。

 17年間彼女いない君は死んだ。これからは彼女いますけど何か?君として生まれ変わる。

 唸る! 執筆が唸るわ! と来夢☆みんと先生はネームを量産している。

 社畜人@22連勤さんは久し振りに家族に早めに帰る電話をしている。

 良かった。自信はあったが、断られたら軽く死ねた。

 

 「こんな格好じゃカッコつかないですけどね。好きで女装している訳じゃないと理解してくれるとありがたいのですが」


 セーラー服で告白だからな。しかし、女装は仕事なのだ。セーラー服は好きで着ているが、女装自体は仕事なのだ。

 あれ? 趣味で女装してる人より仕事で女装してる人の方がヤバくない?


 「フフッ、わかってます。大丈夫ですよ、私にとっては誰よりも男らしい方ですから。キザな言動も似合いますし。今だって、真っ赤な薔薇の中での告白なんて、誰にでも出来る事じゃありません。嬉しいです」


 キザが似合うってのが誉められているのかわからないが、アンジェが嬉しいならそれでいい。なんせキザな俺はアンジェ専用なのだ。


 「薔薇の花言葉は愛ですからね」


 「花言葉?」


 「俺のいた世界にありまして、植物それぞれに意味というか、象徴する言葉がつけられているんです。赤い薔薇はあなたを愛している、白い薔薇は純潔、刺は不幸中の幸いとか」


 「異世界では男性も花を愛でるのでしょうか? 随分とお詳しいのですね。いえ、素敵な事だとは思いますけど」


 男だって花が好きな人は地球だけじゃなくセラヴィスにもいっぱいいると思うが、別に俺は花がそれほど好きな訳じゃない。


 「妹が好きでして、妹に教えられたんです。特に薔薇は妹の名前と同じですから。妹は愛と言うんです」


 「花言葉と同じだなんて、素敵ですね」


 「俺の名前も、恋っていう意味があって……、花……言葉……あ」


 気づいてしまった。

 まさか。そんなバカな。

 一気に青ざめる。

 手が震え出す。


 「レン様? どうしました?」


 「てとら、馬車に行って俺の鞄を取ってきてくれ」


 「きゅ!」


 ギュン! っと勢いよくてとらが飛んで行った。


 思えば、ヒントはあった。

 アムル教という名前。

 日本人っぽくない聖女像。

 そして向日葵のアップリケ。

 聖衣を脱いで裏返し、アップリケを露にさせる。

 願い事を書いた紙が入れられているというおまじないだが、このアップリケ自体も願い事だったのだ。

 向日葵の花言葉を思い出す。

 その言葉は恋慕。

 この場合、恋慕うという動詞ではない。

 恋を慕う。

 恋とは俺の事だ。

 俺への思いを向日葵に込めたのだ。


 「きゅきゅ!」


 てとらが鞄をくわえて戻ってきた。

 鞄を受け取って、ポーチから糸切りバサミを取り出す。

 可愛らしい向日葵を切らない様に、丁寧に糸を切っていく。

 半分ほど外れた所で、紙切れが一枚、はらりと落ち、拾う。

 ああ、やっぱり。

 目眩がする。

 ふらふらと崩れ、アンジェにもたれかかった。

 なんで? どうして?


 「レン様! どうされました? ――っ、ひどい熱! てとらちゃん、エマさんを呼んで来て!」


 意識が朦朧とする。

 薄れていく意識の中、紙切れの願い事に思いを巡らせる。

 そこには日本語でこう書かれていた。



 『お兄ちゃんが早く帰ってきます様に 藤沢愛』


 

 ―*****―



 酷い夢を見た。

 妹の愛が異世界に喚び出され、救世主として祭り上げられて無理矢理戦わされる夢だ。

 愛は夢の中でずっと泣いていた。お兄ちゃんお兄ちゃんと、ずっと俺を呼んでいた。

 俺は外から見ているだけ。動く事が出来ず、その涙を拭ってやることも、側に行って慰めてやることも出来なかった。

 やがて愛の前に巨大な化け物が現れて、妹は刺し違えて死んだ。

 そこで目が覚めた。


 宮殿の、天盖付きのベッドの上。脇にはジークとアンジェがいた。その表情には焦りがあり心配そうにしていたが、この時の俺にはそういう風には見えなかった。


 「レン! 大丈夫か?」


 その言葉を無視して起き上がろうとするが、頭がガンガンと痛み上手く体を起こせない。


 「無理しなくていい。熱も高い、しばらく静養してくれ」


 めくれた布団を掛けようとジークが手を伸ばすが、俺はそれを払い除けた。


 「妹に何をした?」


 「は? 妹?」


 「とぼけんな! こんな偶然があるかよ! 妹の次に俺が聖女なんて、何か仕組んでるんだろ? 愛に無理矢理聖女なんてやらせやがって!」


 夢の中の話だ。本当はわからない。愛はしっかり説明を受けて聖女として戦ったのかもしれない。けれど今の俺はさっきの夢が真実の様に思えていた。

 だって、こんなの偶然だなんて言わせない。

 愛の次の聖女が俺だなんて出来すぎてる。

 なんかあって、それをアーガルムが隠してるんだ。ジークもツェーゲラも、アンジェも皆俺を騙してんだ。


 「次がレン? どういう事だ? 初代様がレンの妹だと言うのか?」


 「レン様、まず休んでください。今は熱で混乱してるんですわ」


 「ジークに俺に近づくように言われたんだろアンジェ?」


 「え?」


 「色仕掛けにまんまと引っ掛かるとこだった。最初から上手く行きすぎてたんだ、今考えれば俺を操りやすくする為にアーガルムがアンジェを近づけたんだ。そうだ、きっとそうだ」


 「レン様? 私は本当にレン様の事を……」


 「いいから日本に帰せよ! 俺を帰してくれ! 愛のところに……くっ、頭が……痛い……」


 頭が割れるように痛くて、言葉を続ける事が出来ない。なんとか声を絞り出す。


 「く……出てってくれ。一人にしてくれ」


 「アンジェリーク嬢。ここにいるとレンは休めないようだ。一旦出るとしよう」


 「……はい殿下」


 部屋を出ていく二人。


 「レン。初代様については伝承以外の事は知らないのだ。そなたに隠している事は何もない。それと、アンジェリーク嬢の好意だけは信じてやってくれ」


 ドアが閉められて、真っ暗な部屋に一人きりになる。


 頭の中をぐるぐると色んなことが巡る。ごちゃごちゃして処理できない思考の中で、一つだけ決意をする。


 愛のところに帰る。


 結局俺は駄目な兄貴だ。

 側であいつを守ってやれなかった。

 でも、願い事の一つくらいは叶えてやりたい。

 愛のところに帰って、こう言ってやるんだ。

 ただいまって。


 

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