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21 絶対に笑ってはいけない妹

 どうも、妹です。

 こうして皆様にご挨拶するのは初めてですね。よろしくお願いします。

 いつも三つ上の兄弟に付き合って頂き感謝です。あの人頑固で融通きかないから、見ていてイラッとするでしょう? 妹の私から見てもモヤモヤする事ばかりで、もっと素直になればいいのにっていつも思っています。


 そんなあの人ですが、最近おかしいのです。

 急に空を見上げてハァと溜め息をついたり、食事も全然食べない時があったり、急に筋力トレーニングを始めたり。

 この間も鏡の前でずっと髪の毛をいじっていたり。

 これはきっとあれですね。

 

 恋です。


 恋しちゃってるんでしょう。


 今までそういうのと無縁でしたから、私からしても喜ばしい事です。

 今まで身だしなみなんて気にしてこなかった人ですが、もともと美人です。少し美容に気を使えば、誰もが振り返るようになるでしょう。


 そう、なんだかんだ言っても自慢の姉なのです。

 いつも両親から比べられたりして辟易していますが、私と違いあの人は成績も、優秀どころか天才と評価されるほどですし、こうして憧れの王都に来たのだってあの人の治癒魔術がきっかけですから感謝しています。

 王都の人々の間でもアンジェリーク・ディディエの名は知れ渡っていて、本当に私の自慢であり、大好きな姉なのです。


 さて、気になるのは姉の恋のお相手ですよね。

 さりげなく探りを入れてみたのですが、どうやら宮殿にお住まいの方らしいのです。

 宮殿と言えば王族の住居ですよ、王族。

 未婚の王族と言えばジークハルト殿下。

 アーガルムでも一番のイケメン。しかも一番のセレブ。国民の誰もが認める最高物件ですね。

 宮殿で働いていればジークハルト殿下と接する機会もあるでしょう。接していれば、そりゃあ恋に落ちるってものです。

 しかし、殿下は王位継承が内定されている第一王子。さらに言うとアーガルムでは現在ただ一人きりの王子です。

 姉のご学友のジェリコー侯爵家のオルガ様ならお似合いかもしれませんが、子爵に過ぎないディディエ家の娘なぞ相手にされないでしょう。

 ですが、よく聞いてみると想い人は殿下ではないようです。


 「コレット。ジャムを取ってくれ」


 父のジェフ・ディディエの声が思考の海から私を引き揚げます。

 今は父、母と朝食を取っている最中なのでした。


 「お父様。そういう事はメイドに言うものです。いい加減に子爵としての自覚を持ち、そのような振る舞いをしてください」


 そう言いつつ、ジャムの瓶を父に渡します。


 「コレットが一番ジャムに近いんだから、コレットが取ればいいじゃないか」


 まったくもう。このお屋敷に住むようになって半年経つというのに、私の家族はこうなのです。

 偉そうにふんぞり返っているのが貴族の仕事とは思いませんが、メイドにはメイドの仕事があります。メイドの仕事はメイドにやってもらわなければ、彼女達の面目も立ちません。私が言っているのはそういう事なんです。


 「アンジェリークはまだ起きてこないのかい?」

 

 「あなた、アンジェはまだ寝ていますわ。よほど昨日の登山が疲れたのでしょう。今日は宮殿のお仕事もお休みですし、寝かせておいてあげましょう」


 先程も述べたように、姉は秀才というか、天才なのです。

 特級魔術士として学園の授業の免除を認められたり、更には魔方陣研究の責任者代理に抜擢され、昨日も国からのお仕事でデュラージュへ研究の為の材料を採取しに行ったとか。


 才女と言えば聞こえはいいですが、果たして嫁の貰い手があるのでしょうか? 

 貴族の娘は嫁いでそちらの家庭に入るのが普通です。うちの場合だと、娘が二人なので婿を取るかもしれませんが、どちらにせよ女は家庭に入るものです。

 ですが、姉は宮廷治癒術士や魔方陣研究という大事なお役目もあり、家庭に入るのは難しいでしょう。そんな姉を妻にする人などいるのでしょうか。

 段々と心配になってきました。


 「お父様、一つお聞きしたい事があるのですが」


 「何だい?」


 「結婚したい男性がいる、と言ったらお父様は賛成してくださいますか?」


 ぶほっ! とお父様はミルクを噴き出してしまいました。寝耳に水だったようです。


 「コ、コレット? 誰かいい人がいるのかい?」


 「いえ、もしもの話です。私やお姉様は貴族の娘です。いつかはお父様のすすめる家の男性に嫁ぐものと覚悟しています。ですが、もし好きな男性がいるとしたら、お父様はどう思いますか?」


 相手が誰かはわかりませんが、姉を応援したいというのが私の本音です。

 お父様の返答次第では、姉の恋も諦めなければならないかもしれません。でも、娘を溺愛しているお父様の事だから反対はしないでしょう。


 「うん。コレットはまだ十四だからそういう話はないけど、アンジェリークには幾つか縁談が来ているんだ。本人には言ってないけどね」


 「へえ。お姉様に縁談が」


 「伯爵家や侯爵家など、どれもうちより偉いお家ばかりでね。悪くない話だと思うよ」


 父は次期農業大臣と期待されており、その際には伯爵への陞爵は間違いないと言われております。姉への縁談も、相手が子爵家以下では不釣り合いと言えるでしょう。


 「でもね、コレット。もしアンジェリークが心に決めた男性がいるのなら、縁談なんて全部断ってもいいんだ」


 出世というものに執着がない父です。娘の結婚を利用するなんて考えは露ほどもないのでしょう。


 「アンジェリークやコレットが本当に好きな人と結婚したいというなら、喜んでパパは賛成するよ。一発ぶん殴らせろ、ぐらいは言うかもしれないけどね」


 父は冗談で締めくくりました。冗談じゃないのかもしれませんけど。


 とにかく、安心しました。

 姉が涙を飲むような事にはならないようです。私も大っぴらに姉の恋を応援出来るというものです。

 もっとも、相手の方が姉の事を好きだとは限りませんけど。


 食事を終えて、ゆったりとお茶を飲みながら家族と他愛もない話をしていた時です。

 執事が来客を知らせてきました。


 「珍しいね、我が家に客なんて。え? バルバストル家? 宰相様が? 違うの? 若い女の子? に見える男性? と龍? 龍って、あの龍? 小さい龍? 聞けば聞くほど訳がわからないよ。僕にじゃなくてアンジェリークに? もうメイドが起こしに行ったんだね?」


 執事の報告に父はころころと表情を変えます。驚いたり、訝しげにしたり。

 どうやらお姉様にお客様のようです。

 バルバストル家の紋章を胸に携えた若い男性。

 バルバストル家と言えば侯爵様です。しかも家主のツェーゲラ様は国の政治を担う宰相様でもあります。無下な扱いは出来ません。しかもその男性が言うには、姉と出掛ける約束をしていたけど、待ち合わせ場所に来ないので家に来たとの事です。執事の判断で、応接室でお待ち頂いているようです。


 ほどなくして、ドンドンと階段を駆け降りる音。さらにバタバタと廊下を走る音。そしてバンッ! と食堂の扉が開かれました。

 息を切らし、髪を乱し、顔をむくませた姉が寝間着のままで食堂に入ってきました。


 「ねねね、寝坊しちゃった! セ、セイ様が家に来てるって? 応接室? 行かなきゃ、すぐ行かなきゃ!」


 ひどい慌てようです。


 「待ちなさいアンジェ。そんな格好で殿方にお会いするつもりなの?」


 「あ……! 何着て行こう……。髪もボサボサだし、そうだ! お化粧もしなくちゃ! お母さん手伝って!」


 「もう、しょうがないわねえ」


 「お父さん、コレット! セイ様にもう少し待って貰うように言っておいて!」


 姉は母を連れて自室へと戻っていきました。


 お化粧なんてほとんどしないのに、セイ様というのはそれほど大切なお客様なのでしょうか?

 セイ様と言えば、王都で噂になっている男性です。それに最近、姉からその名を聞く事も何度かありました。

 特級魔術を無詠唱でお使いになるとか、心臓の止まった子供を生き返らせたとか。

 どちらも耳を疑いたくなるような話ですが、姉が目の前で実際に見たというのだから本当なのでしょう。

 亡国のピエールランドとかいうのは真実をうやむやにする為の嘘でしょうが、実際にバルバストル家の紋章を着ける事が出来るほどの方。

 ひょっとすると、縁談相手の伯爵家や侯爵家なんて比べ物にならないような、高貴な方(いいハナシ)なのかもしれません。


 「セイという名前は聞いた事がないなあ」


 農業と家族の事しか頭にない父です。噂も知らないようなので、失礼をしないように父にセイ様の事を説明しておきます。


 「そんな人を待たせる訳にはいかないね。娘の遅刻の非礼もお詫びしなくちゃいけないし何より」


 パンッ、と膝を叩くと、父は立ち上がります。


 「一発ぶん殴らなきゃいけないから。なんてね、あははは」


 軽く笑う父でしたが、その目は笑っていませんでした。


 ―***―


 応接室へと入ります。

 こちらに気付くと、男性はスッと立ち上がり、腰を折って深々と礼をしました。

 腰が九十度になるほどの礼。

 貴族の作法ではありませんが、誠意を感じる礼でした。

 そして頭を下げたまま、丁寧な挨拶をなさいました。


 「突然の訪問になり申し訳ありません、お邪魔しています。はじめまして、セイと言います。訳あって家名はありませんが、私の身元はアーガルム王室が保証しておりますのでご安心ください」


 淀みなく言い終えた後、真っ直ぐに上げられたお顔は大変に美しいものでした。

 思わず見とれてしまうほど。

 こんな男性もいるのですね、びっくりしました。

 しかし、なるほど。姉が好きになるのもわかります。

 背こそ大きくありませんが、二の腕はカッターシャツをパンパンに膨らませており、筋肉質な体だとわかります。

 女性のような美しい顔ですが、確かに男性的な魅力も感じるのです。

 物腰も柔らかく、礼儀正しい。

 お見合いでこのような方が出てきたらガッツポーズですね。

 おまけにこの人、超セレブでしょう。

 バルバストル家の紋章入りの白のシャツに、黒のスラックスというラフな格好ですが、驚くのはその質感。

 相当に良いものです。

 お父様が登城する際にお召しになる礼服よりも上等な生地を使ってあるのではないでしょうか。普段着にここまでお金をかけるのだから、とんでもないお金持ちに違いありません。

 星四つ……いえ、星七つです。


 「はじめまして、ジェフ・ディディエ、子爵です」


 品定めするように父はセイ様を上から下まで、ジロジロと見ています。腕まで組んで失礼極まりないですが、姉の想い人かもしれない男性を前に余裕もないのでしょう。


 「はじめましてセイ様。アンジェリークの妹のコレットでございます。いつも姉からセイ様の事を聞いておりますわ」


 礼をしない父の分まで恭しく礼をします。

 父が座るように促し、セイ様がお座りになるのを確認してから、私共もソファに腰を下ろしました。


 「待たせて済まないね。娘はさっき起きたところなんだ。おめかししなくちゃと慌てていたよ。出掛ける約束をしていたんだって?」


 小心者の父なので葛藤があったと思いますが、一貴族としてではなく、彼女の父親という一段上の立場で接する事にしたようです。後で怒られても知りませんよ。


 「はい。ですが、一昨日も遅くまで研究していたようですし、よほど疲れていたんですね。日を改めるべきでした」


 「出掛ける、というのは、その、デートなのかい?」


 娘をそういう目で見てんのかコラ、と意を決して父が切り込みます。

 顎をあげて、父親の威厳をたっぷり見せようと頑張っていますが、見た目はガリガリの人の良さそうなおっさんでしかない父です。ちっとも恐くはありません。


 「はい。アンジェリークさんがどう思っているかはわかりませんが、私はそのつもりで誘いました」


 真正面から受けてたつセイ様。正直かっこいいです。ハキハキと答えました。

 

 「ほ、ほう。デートなのかい……」


 「王都郊外のバンリという地域は花の栽培が盛んだとかで、一緒に花を見ようと思いまして。門の外に出ますが、危ない事はありません。知り合いのSランク冒険者が二人、護衛兼道案内をしてくれますし、私自身も超級魔術が使えます。それにこちらの幻獣は黒龍を退けるほどで……」


 気付きませんでした。というか、ぬいぐるみだと思っていました。

 セイ様の隣、ソファの上でスヤスヤと眠る黒い生き物。

 翼に尻尾、手のような短めの前足にがっしりとした後ろ足。

 まるで龍です。黒い龍。


 いえ、この生き物に気を取られましたが、今のセイ様の言葉、突っ込み所しかありませんでした。


 バンリの花産業は私も知っています。薔薇が特に有名だそうで、私もいつか素敵な男性と行ってみたいと思っていました。

 いいなぁお姉様……、じゃない、その後に続いた言葉は何でしょうか?

 Sランク冒険者と聞こえました。

 Sランク冒険者と言えば世界でも百名ほどしかいないと言われ、ただの護衛でもかなり高額な依頼料を取られると言います。何よりSランク冒険者が、王都からバンリまでのちょこっとの距離の護衛を受けるはずがありません。Sランク冒険者はみんな二つ名を持ち、男子の間ではヒーローのように思われています。雲の上の人達なのです。


 さらに、超級魔術を使える?

 魔術は特級までのはずですが、超級とはどのような位置なのでしょうか? 語感から特級の上位のような印象を受けますが、まさか。


 最後に、そのぬいぐるみみたいな生き物が幻獣で、黒龍を退けた?

 黒龍って、神話に出てくるアレですよね。何言ってんだコイツ。おっと、口が滑ってしまいました。

 とても信じられないような事ばかりです。一言一句、現実味を感じられません。

 父も本当の事かわからず曖昧な返事をするばかりです。


 ですがセイ様は自信満々な表情。彼女の家族にちゃんとアピールしてるぜ俺! ほら、ビビってるビビってる! みたいな感じです。

 

 「失礼、お手洗いをお借りしてもよろしいでしょうか?」

 

 「ああ、部屋の前に執事が待機しているから、案内させるといい」


 セイ様はお手洗いに行かれました。その隙に家族会議です。


 「どう思うコレット?」


 「素敵な男性だと思います。あれほどに美しい男性がいるのかと驚いてしまいました。如何にもお姉様が好きそうなタイプです」


 「そ、そうか。アンジェリークのタイプか……。確かに礼儀正しいし、なんと言ってもバルバストル家の紋章付きだ。申し分ないだろう。しかし、彼の言ってる事は本当なのかい? 黒龍と戦ったみたいな口振りだったが……。この小さい龍は黒龍と言えば黒龍に見えるし……」


 まとめると、Sランク冒険者と共に黒龍と戦い、超級魔術を駆使し、幻獣の活躍で撃退したと。


 それは神話です。アーガルムの建国記と並ぶ程のスペクタクルです。


 幻獣だというこの生き物もずっと寝てばかりで強そうには見えません。


 「きゅ?」


 「うわ!」


 パチリ、と赤い目が開きました。あくびを一つして、キョロキョロと室内を見渡します。セイ様がいないからか、少ししてもう一度眠ってしまいました。

 警戒心無さすぎるだろと。

 

 「お手洗いをお借りしました」


 セイ様が戻ってきました。再びソファに腰を下ろします。


 「セイ君、と言ったね」


 「はいお父さん」


 「君にお父さんと呼ばれる筋合いはないよ」


 「失礼しました。何でしょうディディエ子爵」


 まさか現実に、「君にお父さんと呼ばれる筋合いはない」が見られるとは思っていませんでした。噴き出しそうになるのをグッとこらえます。


 「来年、成人だってね。職は決まっているのかい? ほら、娘を不幸にしたくないんでね。収入がきちんとある人と交際して貰いたいんだよ」


 「おっしゃる通りです。国の仕事を手伝う事になるかと思います。詳しくは言えませんが、今もその為に勉強している身なんです。収入の方も、殿下とは具体的な話をした事は有りませんが、恐らく困らない程度には頂けるかと」


 国家公務員様。しかもジークハルト殿下のお側で働くそうです。これはやはり、他の貴族との縁談など相手にならないかもしれません。超優良物件でしょう。

 これには父もぐうの音も出ません。


 「ぐぬぬ」


 ぐぬぬとか言ってしまう程です。

 ぐぬぬなんて言う人本当にいるんですね。今日は貴重なシーンがいっぱい見られて楽しいです。


 「それに、これは内密にお願いしたいのですが、ミスリル銀の製造方法が確立しまして、材料の権利の半分は私のものであると殿下より認めて貰っており、ミスリル銀の収入だけでも相当な金額が期待出来るかと」


 「ミスリル銀? 魔法道具の触媒として使われる、あの魔法金属かい?」


 ミスリル銀製で有名なものというと、近衛騎士様の魔法剣でしょうか。上流貴族の婦人の間では、魔術を付与された指輪やイヤリングなどが流行っているとか。もちろん、子爵家の私どもに手の出せる値段のものではありません。


 「そうです。製造方法は国家機密ゆえに話せませんが、デュラージュへはその材料を取りに行ってまして、かなりの量のミスリル銀を確保できました。そうそう、お渡しするのを忘れていました、お土産を持ってきたんです」


 セイ様は鞄から銀細工を取り出しました。テーブルの上に並べていきます。まさか、ミスリル銀製だと言うのでしょうか?


 「(手ぶらではまずいかと思い)知り合いの彫金師(のジジイを叩き起こして無理矢理)に作ってもらったんです。純ミスリル銀製になります。まず奥様と妹さんにはこの髪留めを。幻の花といわれるフォンドルレアの花をモチーフにしました」


 可愛らしい花のデザインの髪留めです。銀色の輝きが眩しく、また細工もとても精緻で素晴らしい物です。


 「私がオリジナルの治癒魔術を付与しておきました。この髪留めをつけていれば常に髪を艶々に保ち、枝毛なども出来ない美しい髪になるでしょう」


 「は? 髪を? 美しく保つ? だけの魔法付与ですか?」


 あまりに信じられなくて、素っ頓狂な声で聞き返してしまいました。

 ミスリル銀を美髪の為だけに使うなんて、贅沢にも程があります。とても嬉しい事は嬉しいですけど。


 「勿論、それだけではありません。緊急時には髪留めを握り締めて念じれば、半径五メートル以内に特級並みの治癒魔術が発動されます。五メートル以内であれば敵にもかかってしまいますので、戦闘中は注意が必要です」


 貴婦人に流行っている物でも、付与魔術が上級であれば一級品とされています。特級治癒魔術が付与されているこの髪留めは、一体いくらの値段がつくのでしょうか。頭が痛くなってきました。


 「ディディエ子爵にはつけペンをご用意しました。私の故郷のガラスペンというものを参考に、ペン先に溝が彫ってあり、そこにインクが溜まるので他の金属ペンよりも非常にインク持ちが良くなっています。更に風魔術を付与し、筆圧を掛けずに滑らかな究極の書き心地を追求した一品です。どれだけ書いても手が疲れない、素晴らしい物が出来たと自負しております」


 何言ってんだコイツ。

 筆圧を風魔術で補助?

 握る力を風魔術で軽減?

 ペンをわざわざミスリル銀で作り、書きやすくするために魔術を付与するとは、贅沢を通り越してもはや無駄ではありませんか。


 「勿論こちらも緊急時には、握り締めて念じれば半径五メートルの全方位に風の刃を発射、全ての物を切り刻みます。停戦協定のサインなど、敵陣へ飛び込む際には非常に有用かと思います」


 本格的に頭が痛くなってきました。目の付け所がヤバすぎます。


 「ほ、ほう。ちょっと試し書きしてみてもいいかな」


 あれ? 父が食い付いてしまいました。そう言えば父の書斎には、ペンがたくさん置いてあった気がします。


 「どうぞ、是非お試しください」


 インクと紙を用意し、さらさらとおもむろにペンを走らせていきます。


 「おお……! ペンが紙の上を滑っているようだ。インクも長持ちして素晴らしい!」


 「でしょう? 毛細管現象と言いまして、溝の奥までインクが浸透するので、大量のインクを吸い上げる事が可能なんです。そして何より、力が要りません。最初は力が入ってしまうでしょうが、慣れてくる事で更に楽になるはずです。毎日の書類仕事もこれ一本でら~くらく! そしてなんと言っても見てもらいたいのは、このシルバーのボデー!」


 段々セイ様が胡散臭い商人に見えてきました。セールストークの声色もどんどんと高くなっていきます。  


 「確かに見事な細工だ。芸術品としても価値があるだろう」


 「アーガルム中の貴族が羨む事間違いありません! さらに今なら、私がお父さんと呼ぶ特典もつけまして、なんとお値段!」


 「それはいらない」


 「三千きゅ……頑固ですね。アンジェリークさんそっくりです」


 それは私も思います。父と姉は性格がそっくりです。

 

 「あとは緊急時の風魔術、危険ではないかい? 護身用としては素晴らしいが、ペンとは握り締めて使うものだ。憎い相手が側にいたらつい発動してしまいそうだ」


 「おや、そんなに憎い相手がいるのですか?」


 「そうだね、手塩にかけて育てた愛娘を奪おうとするどこかの馬の骨とかね。ははは」


 「はははは。面白い冗談ですお父さん」


 「だから君のお父さんではないよ」


 意外にこの二人、相性ばっちりではないでしょうか。

 コントとして完成されています。面白すぎです。

 いいぞもっとやれ。


 「おっと、失礼しました。私は父がいないので、ついお父さんと呼べるのが嬉しくて」


 「父上は、他界されたのかい?」


 父の表情が変わりました。これはマズイ流れです。父はお涙頂戴系の話にすこぶる弱いのです。


 「私が十歳の時に両親を事故で亡くしました。私と妹は祖父母に育てられたのですが、私一人でアーガルムに来たものですから、最近寂しさを募らせていました。なのでついお父さんと。失礼しました、不快であればもう言いません」


 セイ様は最初と同じように深く頭を下げられました。

 私にはわかります。きっと見えないその顔は笑みを浮かべている事でしょう。


 「いいよ、お父さんと呼んでも」


 「え?」


 「し、しかしそれとアンジェリークとの関係を認めるのは別問題なんだからねっ! 勘違いしないでよねっ!」


 父がデレました。


 「はい、わかっております。ありがとうございますお父さん」


 セイ様に軍配が上がった所でタイムアップのお知らせ。姉が準備を終えて部屋に入って来ました。


 セイ様は母に少し挨拶をすると、私達にもう一度深く頭を下げて辞去の意を述べられました。

 そして幻獣を肩に乗せ、姉の手を引いてデートに出掛けて行ったのです。


 「さて、仕事に行かないと。コレット、君もいい人ができたら連れて来なさい。」


 そう言って仕事に行った父の顔は、ちょっと寂しそうでしたが、結構嬉しそうなのでした。


 


 お父様にご挨拶大作戦 作戦本部


 作戦立案、総指揮 

 社畜人@22連勤


 監修  

 厳しすぎる妹


 演技指導

 ショタ


 ちなみに17年間彼女いない君は下ネタbotを別室から絶対に出てこられない様に監視していた

     

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