18 冒険者ギルドで
早朝。シモンの工房前。
「では点呼を取ります! 犬!」
「ワン!」
俺の声にピエール、もとい犬は胸の前に両手を構え、所謂ちょうだいのポーズで元気よく鳴いた。
「シアンの名を与えます! 次、猿!」
「キキー!」
クローム、じゃなかった、猿も軽快に跳び跳ねながら返事をする。
「サンジの名を与えます! 最後にキジ!」
「え? キ、キジってどうやって鳴くんですか?」
アンジェはキジの鳴き声がわからないようだ。まったく、困ったちゃんである。
「キジはケーンです」
「ケ、ケーン」
恥ずかしそうに少し目を伏せて、両手をパタパタと鳥のように羽ばたかせながらキジは鳴いた。超可愛い。
「フザンと呼びます! わかりましたか?」
「ケーン」
「よろしい! ではきびだんごを食べなさい」
四天王に作って貰ったきびだんごをお供たちに配る。初めて見るきびだんごに躊躇いながらも三匹はそれを口に運んだ。
きびだんご、といっても偽物だ。俺がレシピを教えて作って貰った、正体はきな粉をまぶした白玉である。
「おいしい! もちもちで上品で。この黄色い粉も甘すぎないのがいいですね!」
初めての和菓子にキジは喜色満面。その笑顔プライスレス。
「ワンワン! バフッ」
「ウキッ、ウッキー!」
犬と猿も満足したようだ。
翼竜の住み処へ向かうにあたり、ジークからピエールとクロームを貸してもらった。少数精鋭でサッと行ってサッと帰ってくるつもりだ。
このミッションはあくまで極秘裏に行われるものである。なので本名ではなくコードネームで呼び合う事にした。始めは二人を助さん格さん、俺の事は肛門様とでも呼んで貰おうと思ったのだが、アンジェもついてくる事になったので桃太郎よろしく、犬、猿、雉とした。
まあ、なんだ。自分でやっといてなんだがピエールとクロームはノリ良すぎだろ。
「あ、あの、ずっと鳴き声で話さなければなりませんか?」
アンジェが恐る恐る聞いてくる。ノリノリの二人のテンションに合わせなければいけないのかと困惑しているようだ。そりゃそうだ、俺がアンジェだったとしたら嫌だ。
「はい。俺が飽きるまで」
「ええ? ケ、ケーン……」
戸惑いながらも律儀に鳴いてくれる。困った顔が超可愛い。
なんだろうな、アンジェって俺のSっ気を引き出すんだよな。攻めのレン様というのも、実は俺の本質なのかもしれない。
しかしそれで嫌われてはいけない。これぐらいにしておこう。
「冗談です。普通に話してください」
「良かった。セイ様は時々冗談なのか本気なのかわかりませんから」
安堵の表情を浮かべるアンジェ。この隙を見逃さずに俺はぶっこんでおく。
「アンジェにはいつだって本気ですよ」
俺はキメ顔でそう言った。
まあ、どんだけキメても美少女顔なんだけどさ。
「っ! そ、それは……どういう……」
あれ?効いてる?てっきり前みたいに笑い出すかと思ったら、アンジェは顔をまるでリンゴのように真っ赤にして、長い杖を抱えてもじもじしている。
見つめ合う俺とアンジェ。更に愛の言葉を紡ごうと俺は口を開…
「セイ様、時間もありませんのでふざけるのはこれぐらいにして冒険者ギルドに参りましょう。チッ、リア充は滅びるがいい」
「ピエール殿の言う通りです。遅くなると冒険者も出払ってしまいますからね、急ぎましょう。ったく、リア充はこれだから……」
急に真面目モードになってスタスタと歩き出すお供二人。
お、俺だって本当はそっち側なんだからねっ。か、勘違いしないでよねっ! 慌てて二人を追いかける。
ピエールとクロームはあくまで俺の護衛である。冒険者のパーティーを雇って、翼竜の撃退は彼らにやってもらう予定だ。俺達は先ず冒険者ギルドへと向かう事になった。
さて、何故アンジェがついてくる事になったか説明しようか。
ピエールを伴って宮殿を出た後、クロームの暮らす軍の施設を訪ねた。しかし、シモンの工房から帰って来ていないようで不在だったのである。
シモンの工房へ迎えに行くとシモンとクローム、そしてアンジェが床に毛布を敷いて寝ていた。机には魔法陣を描いた紙が散乱しており、夜遅くまで研究していたのだろうと窺える。
机にはもう一つ、先端に聖女像を模した長杖が置いてあった。どうやらこれを作っていたらしい。
クロームを起こし、フォンドルレアの花弁を取りに行く事を告げると、アンジェも連れていこうと提案されたのだ。
アンジェが同行することをピエールは危険だと渋ったが、クロームに押し切られてやがて了承した。こうしてアンジェが一行に加わったのである。
ギルドへの道を歩く。
夜通しで作った杖をアンジェは大事そうに抱えている。なんでも、いくつもの魔法陣を組み込んだ画期的な魔法杖だそうだ。この杖の試験もアンジェを連れてきた目的の一つだという。
クロームに勧められるままついてくると言ったアンジェだが、怖くはないのだろうか?
「アンジェは魔獣と戦った経験がありますか?」
「はい、カント・プアンヌにいる頃、父と一緒に畑に来る魔獣の駆除をしていました。しかし駆除と言っても後方からの結界魔術や治癒魔術による支援がほとんどで、実際に魔獣と対峙した事はございません」
オンラインのゲームなんかでも後衛職は殴りには参加せずに遠くからバフデバフや回復が主な仕事だ。たまに役に立たないのにスキル上げるために殴りに行く回復役とかいるけど。
「アンジェリーク殿。くれぐれも無理はしないでください。貴女に危険が及んだら、きっとセイ様は身を呈して貴女をかばいますから」
「はっ、はい! わかりました! わ、私の事を……セイ様がかばう……」
ピエールの忠告にアンジェは嬉しそうに俺の方をチラチラと見ている。杖をクルクルと回してご機嫌である。
まあ、かばうだろうな。自分がどうなろうと俺はアンジェをかばうだろう。
「セイ様も、ご自身を優先してください。冒険者とは金の繋がりでしかありません。彼らが危険になっても手を出さないと約束してください。アンジェリーク殿は別として、私やクローム殿に対してもそうです」
冒険者はこのセラヴィスで一番命が軽い職業だ。彼らは金の為に命を投げ出している。そこに一切の情けはいらない、とピエールは言った。
冒険者は冒険者ギルドに登録すると国の所属から外れる。つまりどこの国民でもなく冒険者でしかなくなるのだ。アーガルムも彼らを庇護する理由がない。
「わかりました。アンジェは別として、自分を第一に考えて行動します」
実際、俺に何かあったらピエールやクロームには重い処罰が下るだろう。軽率な行動は控えなければならない。
「私は……別なんですね、フフ……」
先程からニヤニヤしっぱなしのアンジェ。足取りも半分スキップ状態だ。アンジェは女の子だからな、守るのは当然だ。そんなに女の子扱いが嬉しいのだろうか?ただ、俺がアンジェを「守りたい」のは女の子だからじゃない、アンジェだからだ。そんな事ここで言ったら、またブリーフ友の会のメンバーが許してはくれないだろうから言わないけど。
「さ、着きましたよ。懐かしいなあ、この雰囲気。アーガルムの筆頭としてお抱えになる前は冒険者でしたからね。交渉はお任せください」
冒険者ギルドは外見も中も西部劇に出てくる酒場のようだった。
カウンターへ向かうクロームを見送り、テーブルのつに腰をおろして周囲を窺ってみる。
掲示板に貼られた依頼書を物色する、髭をたくわえた二メートルを超える巨体の戦士風の男。
パーティーに入れてくれと他の冒険者達のテーブルをまわる弓を担いだ若者。
朝っぱらから度数の高そうな酒の瓶を煽るビキニアーマーの女性。
実に期待通りのギルドの様子である。
すげえな、ビキニアーマー。完全に矛盾してるもんな。鎧なのにビキニなんだぜ? あの面積で何を守るって言うんだ。貞操も守れやしないだろう。
「クローム様でございますね? 申し訳ございませんが依頼をお受けする事はできません。現在クローム様は会員登録を抹消されております」
クロームの依頼の申請をギルドの受付嬢はにこやかな営業スマイルで断った。
「え? だって、クロームですよ? SSSランクの、緋眼のクロームですよ?」
クロームから困惑の声が漏れる。
SSSランクのトップランナーが登録を消されてるだなんて、一体何があったのだろうか。
「ええ、存じ上げております。競馬で負けた借金をギルドに押し付けて、挙げ句にアーガルムに肩代わりしてもらう代わりに国の犬に成り下がった、あのクローム様でしょう?」
おい何してんだおっさん。
SSSランクのおっさんが今は国の犬に成り下がっている件、ってか。いい加減にしろ。
すごすごと戻ってくるクローム。
「すいません、ライセンスの更新を忘れていまして、登録を削除されていました」
嘘をつくな。バッチリ聞こえてたぞ。
「となると、困りましたね」
ピエール曰く、ギルド会員以外が依頼を出すにはしっかりとした身分証の提示などが必要になる。
俺はまさか聖女ですなんて言えないし、そもそも未成年であるアンジェや俺は依頼を出せない。
残るはピエールだが、近衛騎士が冒険者ギルドに依頼を出すなんて国の沽券に関わることだ。なので最初からクロームを当てにしていたのである。
どうしたものかと首をひねっていると、商人風のおっさんが声を掛けてきた。
「セイ様とアンジェリーク様じゃないですか? お二人みたいな高貴な方がこんな掃き溜めみたいな場所に来るなんて何かお困り事でも?」
武器商人のヤンだ。ニコラの怪我の原因となった、崩れた荷車の所有者である。
あの時何度も頭を下げられてお礼をさせてくれ、名前を教えてくれと言われたが断って、名前も名乗らなかった。しかし、今やピエールランドのセイ様は有名人だからな。商人ともなれば噂ぐらい耳に入ってくるだろう。
そうだ、ヤンに依頼の仲介をお願い出来ないだろうか。
「ヤンさん、実は……」
王妃の事やミスリル銀の事はなるべく伏せて事情を説明し、仲介を頼む。
「フォンドルレアってあの50年に一度咲くという幻の花ですか?」
「ええ。どうしても俺が行かなければならないんです」
「わかりました。お供の方々を見る限りのっぴきならねえ事情がありそうですが、命の恩人のお願いだ。深くは聞かずにお受けしましょう」
犬と猿、じゃなかった、筆頭魔術師と近衛騎士がお供である。特別な事情があるだろうと誰でも気づく筈だ。しかし、ヤンは理由を話さずとも引き受けてくれるという。
「あの時子供が死んでたら俺は社会的に死んでいました。今もソルミナで商売が出来るのはセイ様のおかげですから。こう見えて俺は元Sランク冒険者でしてね。それなりに顔も利きますし、微力ながら俺も同行しましょう」
今では武器商人をしているが昔は冒険者だったらしい。家庭を持つようになって冒険者をやめて武器商人を営んでいるようだ。Sランク冒険者が同行してくれるなら心強い。
「ありがとうございますヤンさん。よろしくお願いします」
立ち上がり、俺は右手を差し出して握手を求めた。
っと、籠手をしていたのを忘れていた。対するヤンは素手だ、慌てて籠手を外そうとする俺の耳にヤンの驚いた声が突き刺さる。
「セイ様、その籠手はまさかアッ……!」
言いかけてヤンはハッとし、声のトーンを落とす。
(セイ様、それはひょっとするとひょっとして、アダマンタイト……ですか? いや、まさかな……)
アダマンタイトに気付くとは、さすが元Sランク冒険者の武器商人ってとこか。
世界一軽く世界一硬く世界一柔らかく世界一強い魔法金属アダマンタイト。
俺の両手にはめられた鈍色に光る籠手は、黒龍の革にアダマンタイトを貼り付けた伝説級の武具だ。
クロームを迎えに行く前、ジークに連れられて城の宝物庫に行き装備を物色した。
魔法剣などもあったが、ピエールと相談して慣れない剣や盾を使うより軽目の籠手とブーツを装備して空手を活かした方がいいだろうという結論になった。
何でも持ち出していいと太っ腹なジークの言葉に甘えて遠慮なくアダマンタイトと黒龍の革で作られた籠手とブーツを借りた訳である。
ヤンの見開かれた目は籠手に釘付けだ。武器商人にとっては垂涎の品だろう、無理もないか。
(大きな声では言えませんが、黒龍の革にアダマンタイトを貼り付けた物です。内密にお願いします)
ヤンに耳打ちをする。黒龍、と聞いて一層目を見開いた。
(こ、黒龍の革? アーガルムの王祖が討伐したという神話の生き物じゃないですか……まさか、そんな)
身に付けている武具は籠手とブーツだけだ。
宝物庫には鎧などもあってどうしようかと悩んだが、ルミエールから下に聖衣を着ておけと言われて青いラインの練兵服の下には聖衣を着込んである。
(アーガルムが国宝を出すほどの事情がフォンドルレアの花、いや、セイ様にあるという事か。つまり、セイ様の正体は……)
ヤンはしばらく下を向いてブツブツと独り言を繰り返していたが、やがて顔を上げるとビキニアーマーの女性へ声を掛けた。
「おいエマ! 今この街にSランク以上は何人いる? 全員集めろ! 仕事だ!」
「ヤン? Sランク全員だって? 戦争でもしに行くのかい?」
ビキニアーマーのエマは酒臭い息を吐いて冗談で返した。
「金は俺が出す。冗談はいいから何人いる?」
ヤンの真面目な表情に冗談ではないと気付くと、エマは酒を一気に煽り、空になった瓶をテーブルに叩き付けた。
「プハッ! ここにいるアタシを含めた三人と、後はアポストロフィが宿屋で寝てるはずだよ」
「前衛三人に後衛二人、加えて緋眼のSSSランクと近衛騎士様。翼竜相手だったらお釣りがくるか。ヴィーヴォ! マテュー! 仕事を頼みたい、集まってくれ」
ヤンは室内を見渡すと髭の戦士風の男と弓を担いだ若者を呼んだ。
戦士風の男はともかく、弓の青年は駆け出しの冒険者かと思ったんだがSランクオーバーらしい。さらにあのビキニアーマーもSランクだという。
「エマ、悪いがアポストロフィの旦那を呼んできてくれ。セイ様、今から準備しますので30分後に出発しましょう」
「待ちなヤン、治癒術士がいない。流石に無茶だよ!」
「治癒術士? カント・プアンヌの癒し手様ともう一人、神話級がいらっしゃるんだ。十分だろ」
ヤンは俺を見ながらにべもなく言い放つ。エマは一瞬キョトンとし、笑い声をあげた。
「神話級? アハハハハ! その騎士候補生の坊っちゃんがかい?あんたそんな冗談言えるようになったんだねえ!」
「おい、口の聞き方に気を付けろよ。この方は俺の命の恩人で、それに」
ニヤリ、とわざとらしく顔を崩すとヤンは言葉を続けた。
やれやれ、俺の正体はとっくにお見通しのようである。
「セラヴィスを救うお方だぞ」
その言葉を、エマは更に大きな声で笑い飛ばすのだった。
変えようかと思ったタイトル候補
「SSSランクかと思ったら砂糖、塩、醤油でした! ~おっさんの気まぐれ調味料ライフ~」
「京野うん子っていうおっさんの小説に感想書いたら全力でSSSランクの感想返しをくれる件」
「SSSSSSSSSSSランクのおっさん」




