16 大切な、友人
学園の職員室に呼び出された俺とアンジェ、そしてオルガの3人。
そこで所長からイングリド女史の治癒魔術の授業を免除すると言い渡された。
何故そうなったか、ニコラを助けた翌日の金曜日に時間を戻そう。
尚、ここからは副音声(レンちゃんのアテレコver.)でお送りします。登場人物が実際に喋った内容と相違がありますが意味は同じなのでご了承ください。
―***―
時間は朝、場所は治癒魔術の教室。
アンジェが爆弾発言をしたのだ。
「やってらんねーんだよ! アタイはもうやめさせてもらうぜ!」
セイ、つまり俺のチート魔力を目の当たりにして思うところがあったのだろう。アンジェは魔法陣や古代魔法の研究をしたいから治癒魔術の授業をやめたいと申し出たのだ。
これにイングリド女史は反発。
「ああん? 詠唱魔術も極めてないのに何生意気な事言ってんだコラ! ちょっと可愛いからって調子に乗ってんじゃねえぞ!」
申し出を却下。
イングリド女史曰く、アンジェリークはこのまま勉強すれば特級治癒魔術を使えるようになるはず。アーガルムでも数える程しかいない特級治癒術士、その高みに立てる才能がある。授業や宮殿での仕事に対する姿勢も素晴らしく、個人的にもアンジェに期待している。だからどうか辞めないで欲しいとアンジェを説得しようとした。
しかしアンジェは首を降る。
「うるせえ! こいつが目に入らねえのか! 全員ぶっ殺してやる!」
突然ハサミを取りだして、自分の髪をジャキンジャキンと切ってしまった。
美しかった栗色の長い髪が床に落ちる。
「いやぁぁぁっっっ! 何なのよアンタはぁぁぁっっ!?」
絶句するイングリド女史。
アーガルムでも髪は女の命という言葉がある。長い髪は女性らしさの象徴なのだ。すわ乱心したかと騒ぎ始めるクラスメイト達。
オルガがいれば上手い事アンジェを諌めたのだろうが、生憎オルガは宮殿の宿直明けで休みである。
オカッパ頭になってしまったアンジェ。クルッとラップでもしそうな感じだ。しかし顔が綺麗だからそんな髪型も様になってしまう。
短くなってしまった髪を一度だけかきあげて確認すると、ぶつぶつと詠唱を始めた。
「角のスーパーでは豚肉ワンパック200円
隣町のスーパーでは人参3本90円
近所の薬局では焼きそば二人前40円
冷蔵庫にはキャベツ半玉余りあり
よって夕飯の献立は ソース焼きそば!」
どこかで聞いた事のある詠唱だった。どうやら特級治癒魔術シャングリラの詠唱のようである。
一瞬アンジェの姿が眩く光ったかと思うと、その髪は元通り長い髪に戻っていた。
手足や髪などの部位欠損は上級魔術では治らない。特級治癒魔術シャングリラ、見事一発成功である。
「アイエェェェェ? シャングリラ? ナンデェェェ?」
驚愕するイングリド女史、開いた口が塞がらない様子。クラスメイト達も呆気にとられて言葉が出ないようだ。その間に落ちた髪を回収しておく。やったぜ! アンジェのDNAゲットだぜ!
「見たか! これが! 俺の力だぁぁぁぁっっ!」
詰め寄られたイングリド女史は観念した様子で「所長に相談します」と声を絞り出したのだった。
その翌日、朝の教室で事の顛末を聞いたオルガは怒った。
「御無体な! おやめくださいお代官様! あ~れ~!」
抜け駆けされたことに腹を立てているようだ。アンジェは素直に頭を下げた。
うん、これじゃ話が進まへんわ。これにてアテレコを終了させて頂きます。
「オルガ様……、申し訳ありません。ですがこのままではセイ様に追い付けない気がしたのです」
「はぁ……、またセイ様? 無詠唱でシャングリラを発動させたとか、心臓が止まった少年を生き返らせたとか、うちのメイド達もキャーキャーと噂していたわ。本当なのかしら」
街の人達は噂にとても敏感である。場所も人通りが一番の春風通りで、目撃者も多かったからな。たくさんの人が奇跡の人セイ様の事を知っているようだ。
「真実でございます。私もその場にいて共にその少年の処置をしていたのです。セイ様の心肺蘇生法、今もこの目に焼き付いております」
「焼き付けたのは処置の方法かしら? それともセイ様の美しいというお顔かしら?」
「オ、オルガ様! 茶化さないでください! 私の事は構いませんが、セイ様はバルバストル侯爵様の紋章を自由に出来るほどの御方です。お言葉にはご注意ください」
セイ様はアーガルム王国が保護する亡国の王子、そんな眉唾物の話が街の人達に信じられたのは、練兵服にあしらわれたバルバストル侯爵家の紋章のお陰だろう。バルバストル家に同年代の男はいない、つまりバルバストル家が紋章を貸す程の地位の人間なのだ。少なくとも侯爵より上という事になる。アーガルムで侯爵より上というと王族のみである。
「冗談よアンジェ。私もお祖父様から、宮殿でお会いしたらくれぐれも粗相のないようにと言われているもの。ピエールランドとかいうのは嘘でしょうけど」
今になってみるとこのピエールランドって絶妙なんだよな。あからさまに嘘だとわかるから、本当の事は口に出してはいけない事なんだと勝手に想像してしまうのだ。
「それにしても……、胸を押す。そんな原始的な事で心臓が動き出すなんて未だに信じられませんわ。聖女様はご存じでしたか?」
「え、ええ。私が居た世界では常識でした。医療に従事していない一般の人も講習を受けて、万が一の事態に備えています。セラヴィスでも広めていきたいと思っていたところです」
「一般人も、でございますか。セラヴィスの医療は相当遅れておりますのね」
「そうなのですオルガ様。心肺蘇生法もそうですが、セイ様の古代魔法にも言葉を失いました。詠唱を唱える時間も必要なく、はらわたが体外に出るほどの重傷を一瞬で治してしまったのです」
一瞬で、と言っているがニコラの元へ駆け寄りながら魔術を構築していたからな。最初からだと10秒ほどかかる。それでも長々と詠唱するよりは全然早い。だがまだ研鑽を積んでいる最中である。目標は一秒だ。
「アンジェは詠唱魔術では意味がないと言っているの?」
「詠唱魔術だけでは救える命は限られるでしょう。ですが心肺蘇生法などの新しい治療法と古代魔法、更には魔法陣が実用出来ればもっともっと多くの人を救えます。私はたくさんの命を救いたいのです」
「つまりセイ様のお隣に立つのに相応しくなりたい、と」
「オルガ様!」
今日はやたらと冷やかしてくるな。アンジェとセイの仲に反対していると思ったが……。笑みを浮かべて楽しそうにからかっている。
「別にいいじゃない、女にだって下心があっても。私も応援するわアンジェ」
「え?その、セイ様の事を良く思ってらっしゃらないのでは?」
「伸ばしてきた髪を切るほど、本気なのでしょうアンジェ?だとしたら私が言うことは何もないわ。いえ、頑張りなさいの一言だけね」
この二人は何を言ってるんだ。え? アンジェがセイ様に相応しくなりたい? 下心って、え?
「オルガ様……、ではオルガ様も頑張らなくては。王妃様のご病気を一日でも早く治しましょう。フリオニール様の為にも」
こいつはあれだ、ガールズトークってヤツだ。恋バナってヤツだ。オルガがフリオニールに気が有りそうなのは誰が見ても明らかであるが、ちょっと待って。アンジェがセイに本気だって?集合、集合、議員の皆さん、会議しますよ会議。
「なななな、何を言っているのアン……。いえ、そうね。私も本気なのだから、詠唱魔術で時間をかけてなんていられないわ。アンジェ、ハサミを貸して下さる?」
「どうぞオルガ様」
アンジェから受け取ると、躊躇いなく自らの巻き髪にハサミを入れた。
ジャキンジャキンと切られていく縦ロール。巻かれた金髪が床に落ちる。
豪奢だった頭部が見る影もない。勢い良く切ったせいか、不揃いで歪な落武者のようになってしまったオルガ。
恋は盲目というが、これが彼女達の本気という事だろう。
すぐにシャングリラの詠唱を始める。
「月に引かれし命の満ち欠け……、シャングリラ!」
長い詠唱を唱え終わると眩い光が彼女を包み込……まなくて、髪も元通りに戻……らなかった。
特級治癒魔術シャングリラ、失敗である。
「アイエェェェェ? シャングリラ? ナンデェェェ?」
これは俺のアテレコではない。実際のオルガの言葉である。
詠唱を終えるまではものすごくカッコ良かったんだけどな、最後の最後で決まらなかった。悔しいのか恥ずかしいのか、オルガは顔を真っ赤にしてプルプルと震わせている。しょうがない、助け船を出そう。オルガだけ仲間外れは可哀想だからな。聖女は恋する乙女の味方なのだ。
「オルガさん、今日の宮殿のお仕事はお休みにして、午後からクローム先生に教えて貰いましょう」
俺の見立てでは魔力量が足りない訳ではない、治癒魔術のイメージが足りない訳でもない。魔力の操作に何か問題があるのではないだろうか?それならば、クロームの魔眼で視てもらえば的確な助言を貰えるかもしれない。
「アーガルムの双つの緋の片翼、緋眼のクローム筆頭魔術士にご指導頂けるのですか?」
アーガルムがセラヴィスに誇る最大戦力、通称双つの緋。緋ユリの騎士リリーナと緋眼のクローム。やたら格好いい異名がついている。
俺からしたら競馬好きな汚ねえおっさんだが、世間からはセラヴィスを代表する大魔導師なのだ。彼に指導を受けるのはそれだけで名誉な事で、オルガが興奮するのも無理はない。
「私からお願いすれば大丈夫でしょう。私もそろそろ王妃様の治療に本腰を入れようと思ってた所です。オルガさんがいてくれた方が心強いですから」
俺も治癒魔術に関しては特級並みだから、これ以上イングリド女史の教室にいても学ぶ事は少ない。ならばその時間を他に回した方がいい。
「わぁっ! ありがとうございます聖女様!」
ギュッと俺に抱きついてくる落武者オルガ。嬉しさ爆発といった感じだ。
鼻腔をくすぐるシャンプーの匂いと、残念ながら胸はないから当たる物はないがそれでも伝わる女の子特有の柔らかい感触、そして露になったうなじ。ヤバいヤバい、落ち着け俺。
「オ、オルガさん?」
「あら、意外にがっしりしてますのね聖女様。がっしり、というよりムキムキ……」
「オルガ様、聖女様が困ってらっしゃいます」
ハッとなって慌てて俺から離れる。ラッキースケベは嬉しいが正直嬉しさよりも困惑の方が大きい。
「も、申し訳ございません聖女様! 気安い真似をしてしまいましたわ」
「いえ、びっくりしただけで大丈夫です。気安いなんてとんでもない、オルガさんは大切な友人ですから」
女の子に免疫がない俺だ、全然大丈夫ではない。
だがオルガは友人だ。フリオニールの為に一途に頑張っているオルガの事が俺は友として好きなのだ。応援したいのだ。
「私なんかを友人と……! 絶対シャングリラを成功させますわ!」
よしよし、その意気だ。俯いてるオルガなんてオルガじゃない。いつでも胸を張って前向きな彼女が俺は好きだ。
「でもオルガ様。その髪は元に戻しておきましょう。実習場は練兵場の隣ですからフリオニール様に見られてしまいます。詠唱を始めますね」
「その必要はありませんアンジェリークさん。もう出来ています。シャングリラ」
マニュアルで特級並みの治癒魔術を発動させる。
一瞬光った後、元通りの縦ロール…ではないな。どうやらトリートメントもしてしまったようだ、巻きが取れてストレートになってしまった。天使の輪が美しい。
オルガは手鏡を取りだして確認する。鏡は貴重品なのだが、さすが侯爵令嬢だな。俺でも手鏡なんて持たされてないのに。
ストレートになってしまった髪に一度驚いたがすぐにパッと表情を明るくさせた。
「ありがとうございます、さすが聖女様ですわ!古代魔法をいとも簡単にお使いになられるなんて!」
俺も置いていかれる訳にはいかない。治癒魔術で躓いていては世界を救うなんて偉そうに言えない。
「セイ様……やはり、聖女様はセイ様の……」
アンジェが口許に手を当てて何かブツブツと言っているがその声は小さくて聞き取れない。
「アンジェ? どうかしたのかしら?」
「あ……いえ! クローム筆頭魔術士に教われば私でも古代魔法が使えるようになるのかなあと」
「それは……どうでしょうか」
無理ではない。が、難しいだろう。
「と言いますと……?古代魔法には何か特別な才能が必要なのでしょうか?」
マニュアル魔術を覚えるにはとにかく魔力の流れる感覚を掴む事だ。詠唱魔術を使った時の魔力の動きを詠唱に頼らずに再現させるのがマニュアル魔術への第一歩である。
しかしそれには何千回、何万回と詠唱魔術を使う必要がある。
「私の魔力は尽きる事がありません。毎日千回以上、上級並以上の治癒魔術を使っています。そこまでの回数をこなしてようやく、形になってきた所です」
クロームとの特訓だけではない。宮殿に帰ってからも時間が許す限り練習をしている。
「せ、千回以上?」
「一日で、でございますか?」
声をあげるアンジェとオルガ。
二人が驚くのも当然の事だ。魔力量が多いと言われる人で一日に上級を20から30回使えるほどだという。
魔眼を持つ規格外のクロームで500回ほど、魔力タンクが外付けの俺に至っては無限だ。
俺は三日で他の魔術士の一年分の魔術を使っているのである。
つまり俺以外は練習出来る回数に限りがあるのだ。それも俺に比べるとかなり少ない。
さらに俺の場合、詠唱が破綻してしまい魔力の放出を自分で止めなければならなかった。これにより魔力操作を初めからやらされていたようなものだ。魔力の流れを掴みやすかったのである。
「じっくり時間をかけて練習していけば可能だと思います。ですが一年以上は必要かもしれません」
それでも詠唱をしなくて良いというのはものすごいメリットである。練習する価値は十分にある。
それに、この時はシモンに会ってなかったから思い付いてなかったが魔法陣を使う事で効率的な練習が出来るかもしれない。魔力を使用者から吸い上げ、その魔力を使用者に戻し循環させる魔法陣を作るのだ。そうすれば一日中でも魔力の流れを感じる事が出来る。これはシモンやクロームに相談してみようと思う。
「学びたいのならクローム先生に相談しておきましょう。多忙な人ですが少なくとも午後は私と毎日一緒にいますから」
アンジェは午後、宮殿の仕事があるが、治癒魔術の授業に出なくていいならスケジュールを見直してもいい。クロームの特訓を午前にしてもいいだろう。クロームも午前は俺の筋トレ道具作ってるだけだしな。
その日の午後、宮殿に出勤したアンジェと別れ、オルガを伴い第2実習場へと入った。クロームはまだ来ていない。オルガは若干緊張しているようだ。
「緊張しなくても大丈夫ですよ。クローム先生はとてもユーモアがある人で、怖い人ではありませんから」
「べ、別に緊張なんかしておりませんわ!」
か、勘違いしないでよね! とでも言いそうだがどう見ても緊張している。
「聖女に抱きつけるのですから筆頭魔術士ぐらい何ともないでしょう?」
「それはその、失礼しました。嬉しくてつい、抱きついてしまいましたわ。それにしても聖女様ってがっしりしてらっしゃいますのね。驚きましたわ」
「セラヴィスに来る前は毎日走っていましたから。女らしさとは程遠い体で恥ずかしいのですけど」
「恥ずかしいなんてとんでもないですわ!アンジェも言っていたでしょう?魔術士にも体力が必要だと。逆に恥ずかしいのは私達の方です。胸骨圧迫なんてしたらすぐバテてしまいそうですもの。そうだ、来週からアンジェと3人でランニングを始めましょう!」
決定ですわ! と勝手に決めてしまった。二人のペースに合わせてたら俺のトレーニングにはならないと思うが、まあいいか。
「それに無礼ですが、体の事では私も聖女様の事を言えませんわ。アンジェにはこんな事は相談出来ませんが、私、胸がないでしょう?」
うむ。ゼロだ。絶壁だ。大胸筋がある分俺の方がオルガより胸があるかもしれない。
アンジェはスタイルがいいからな。出るとこは出てるしヒップなども引き締まっている。水着になっても恥ずかしくないどころか男の視線を釘付けにするだろう。
俺が水着になったら違う意味で注目の的だろうがな。
でもオルガ、心配はいらない。胸は盛ればいい。谷間は作れる。意志と執念とヌーブラさえあれば谷間は作れるのだ。
「私が居た世界にはヌーブラというものがあります」
「ヌーブラ? とは何ですの?」
ヌーブラについて説明をする。
ヌーブラとは、とある会社が出しているシリコンブラの商品名だ。バンドエイドのような物だな。絆創膏がアイテム名でバンドエイドは商品名だが、バンドエイドの方が名が通っている。ヌーブラもシリコンブラというよりはヌーブラと呼んだ方が通じ安いだろう。
そのヌーブラ、乳房に貼り付けて使用する。左右それぞれに貼り付け、中央の端をホックで固定するのだ。つまり手で寄せた状態をキープするのである。周囲の脂肪を集めて集めて寄せて寄せてヌーブラで固定する。そうする事で谷間を作るのだ。
「私の様な脂肪の少ない痩せぎすでも大丈夫なのでしょうか?」
「大丈夫です。集めて集めて寄せて寄せて。絶対に谷間を作るという意思さえあれば可能です」
正直サイトを見た時はドン引きした。そこまでやるのかと。街を歩いている女性みんなが偽乳に見えたりして軽く女性不信に陥ったものである。
「ピンときませんわね。手で寄せるのですよね?ちょっとやってみましょうか」
突然上着を脱ぎ出すオルガ。
「ファッ?」
思わず変な声が出てしまった。
「オオオオオルガさん! 今? ここで?」
「何か問題でも?」
言いながら上着を脱ぎ捨てて肌着一枚になるオルガ。
問題しかない。俺は聖女なのだ。性女ではないのだ。男なのだ。オルガは友人なのだ。反対の賛成なのだ。
オルガが肌着の裾に手をかけ、肌着を捲り上げる。かわいらしいおへそが見え…
「待った! 待ってオルガさん! 男なの! 俺は男なの! だから問題なの!」
「え? 聖女様? そんなご冗談を」
「冗談じゃないんだって! ほら、ほら!」
今度は俺が急いで上着を脱いでいく。聖衣を勢い良く脱いだら一緒にカツラも取れてしまったが好都合だ。続いて肌着も脱いで上半身裸になる。
女らしさの欠片もない鍛えられた肉体を前に、信じられないといった様子で口を抑えるオルガ。
「そんな、まさか本当に? じゃあ、セイ様というのは……?」
「セイ様は俺! 男の格好した俺がセイ様! この顔が女にしか見えないから聖女やらされる事になっちゃって……」
洗いざらいを白状する。聖女として召喚されたが男の俺が出てきた事。顔のせいで聖女として扱われる様になった事。成り行きでアンジェにセイと名乗ってしまった事。
「ではアンジェはその事を知らないのですね?」
「う、うん。出来ればアンジェには言わないでくれるとありがたいんだけど……」
「わかりました。アンジェには言いませんわ。それにしてもクローム様は遅いですわね」
上着を着直すと椅子に腰をおろし一息つくオルガ。一言だけ了承の言葉を口にして、それ以上の追及はなかった。
「あれ? い、いいの? 聖女が男でも?」
「何か問題でも? 男性なのに胸の谷間の作り方にそんなにお詳しいのは正直引いておりますが、男性でも女性でも友人である事に変わりは有りませんわ。友人のお願い事なら聞くだけですわ」
惚れてまうやろ。
何この男前。カッコ良すぎるんだけど。
「ありがとうオルガさん。騙したかった訳じゃないんだ」
「わかってますわ。好き好んでそんな短いスカートを履いてる訳ではないのでしょう? アーガルムの為、セラヴィスの為、女性の振りまでなさってくださってただ頭が下がるだけですわ。さ、服を着てくださいレン様」
ごめんなさい、スカートは好き好んで履いております。
そんなこんなでクラスメイトは大切な友人になりましたとさ。
少し遅れてクロームが実習場にやって来た。突然のオルガの来訪にも関わらずクロームは快く指導してくれるようだ。
オルガの髪を再度切る。手先が器用なクロームが綺麗にカットしてくれた。ショートボブと言うのだろうか、可愛らしい感じで意外に似合っており、オルガ自身も気に入ったようだ。まあすぐに戻しちゃうんだけどさ。
「では詠唱を始めますわ」
オルガの詠唱の様子をクロームが魔眼で観察する。
「ストップ、もういいですよオルガさん。わかりました」
途中で詠唱を止めさせると結論から教えてくれた。
「魔力管が切れてますね。魔術自体は大丈夫です。他人になら問題なく成功するでしょう。私や植物と同じでオルガさんは治癒魔術が効かない体質ですね。珍しい事ですがたまにいるんですよ」
血管のように、心臓から魔力を運ぶ魔力菅が体中に張り巡らされているらしい。オルガはその魔力菅が首、そして腰の辺りで切れているというのだ。
詠唱治癒魔術は外部からの魔力を体内に何度も循環させる事で治癒力を高めて傷を治すという。
オルガの場合、魔力菅が途中で切れているので魔力が循環しない。なので詠唱治癒魔術は効かないと言うのだ。
植物の魔力菅もぶちぶちと切れ切れになっているようで、どれだけ詠唱治癒魔術をかけても効果はない。
「レン様の治癒魔術はレン様の魔力で補填するように無理矢理治療するものですからね。植物だろうが魔力菅が切れていようが関係ありません。ま、それでも魔眼持ちの私には効かないんですけどね」
なるほど。だから俺の治癒魔術は桜にも効いたのか。しかし、今までオルガは治癒魔術を受けてこなかったという事になるな。
「オルガさんは治癒魔術を受けた事がないって事?」
「はい。小さい頃から怪我や病気には縁遠くて。熱を出した事もありませんわ」
治癒魔術に才能のある人は、幼い頃に命に関わる重傷や病気になった者が多いと言っていた。なのにオルガはろくに病気にもかかった事がないらしい。
「泳げない人は水魔術苦手なんですよねクローム先生?」
「そういう人が多いのは事実です。ですが治癒魔術を受けた事がないのに特級まで使えるというのは、よっぽど人を助けたいという思いが強いのでしょう。素晴らしい事ですよオルガさん」
「あ、ありがとうございますクローム様」
誉められて嬉しそうだ。
オルガが治癒魔術を志したのは誘拐された時、オルガを庇って大怪我をしたフリオニールを助けたいと思ったからだそうだ。オルガにとって治癒魔術の腕を誉められるのは、フリオニールへの思いを誉められたのと同じ事なのだ。
「じゃあオルガさん、髪を治そうか。ちょっと待って。すぐやるから」
右手に魔力を集めて治癒魔術を構築する。
「レン様、治癒魔術は結構ですわ。このままにしますわ」
「へ? あの縦ロールってこだわってたんじゃないの?」
「確かに自慢の巻き髪でしたが、今のショートヘアーも可愛いですし、記念にしたいのです」
「記念?」
「大切な友人が出来た記念ですわ」
そう言ってオルガは満面の笑みを見せた。
その翌日、家畜解体場へと赴いたオルガは瀕死の牛へとシャングリラを使用。これを見事に成功させ、治癒魔術の授業を免除される事となったのである。
回想シーンのキャラの台詞に主人公がアテレコを入れるという斬新な謎の試み。
絶句するイングリド女史なのに絶叫してんじゃねーかw
もう自分でもようわからんw




