1ー6. タヌキ様は人気者……?
タヌキ様お世話係のお仕事は、かなり刺激的だ。
タヌキ様に入ってはいけない場所は無いらしく、気付けば王太子殿下の屋敷のお庭にいたり、王の執務室のある廊下にいたりと、緊張の連続だけど、冒険みたいで少し楽しい。
居住区や、王の執務室、行政の中枢部署のある奥の院勤務の方々にはタヌキ様は大人気で、行く先々で声を掛けられる。
「タヌキ様、お散歩ですか? お気をつけていってらっしゃいませ」
「タヌキ様、今日も良い毛並みですわね? 触らせていただいても?」
「タヌキ様、今日も可愛らしいですな。ほうほう、その枝を私めに? ありがたい。家宝にいたしますぞ」
などなど、若いメイドから重鎮らしき方まで、さまざまな方々を虜にしている。
しかし、歓迎されるばかりではなかった。
表の院、一般官吏のいる区画にいると白い目で見られたり、悲鳴を上げられたりする。
「うわっ! なんだこのタヌキっ! あっち行け、シッシッ」
「きゃー! タヌキっ! 気持ち悪い、どっか行って」
と蹴られそうになったり、物を投げられ追い払われたりした。
恐らく新人官吏なのだろう、後ろで上司だか先輩だかが青い顔をしていた。
本当に蹴ろうもんならエリアスさんに剣を抜かれ刃を突きつけられることになるのだが。
考えてもみてほしい。
ここは王宮である。いくらタヌキであろうと護衛とお供がいる時点で何か意味があるとは思わないのだろうか。
「ぷっ、何あれ? ただのタヌキのお守りが仕事なの? 信じられない。王宮官吏にもなってやることがあれ? 無駄遣い。人員の無駄遣い」
「あれでお給料貰えるってずるくない? 私たちはあくせく働いてんのにさ。タヌキ見ててお給料貰えるとか、給料泥棒じゃん」
などと、わざと聞こえるように言われ、笑われたりする。
自分のことはまだいい、タヌキ様やエリアスさんのことを悪く言われるのはなんだか腹が立って、エリアスさんに聞いてみた。
「腹が立たないかって? まあ、立たないって言ったら嘘になるけど、なぜかああいうこと言う子は大抵問題起こすから、そのうち大人しくなるかいなくなるよ」
と、とても物騒なことを笑顔で言っていた。
確かに王宮メイドの人たちはタヌキ様と私たちを不思議そうに見ていても、次会った時は丁寧な対応をしている。
恐らく疑問をそのままにせず、きちんと上司に話して答えをもらっているのだろう。
「見たものを見たままにしか考えられない、言われたことしかできない子は一定数いるけど、そんな子に王宮官吏は務まらないからね」
タヌキ様に護衛と側仕えが付いている意味。
王宮がそこに持たせた意味を推し量れないようでは、王宮官吏は出来ない。なるほどな、と思った。
そして、午後に事件は起こった。




