1ー3. 正真正銘タヌキ
再び何度も廊下の角を曲がって進んでいく。
進むにつれて、周囲を護る衛兵の姿が増えているような気がするが気のせいだろうか。
いや、確実に増えている。しかも、その装備は物々しい。
やがて門番が両側に立つ重厚な門をくぐった。
門を境界にした、その先は別世界だった。
派手さはない。
しかし、壁や装飾、燭台に至るまで精緻な彫刻が施され、細部にわたり手が込んでいることが分かる。
古いが、手入れが行き届いており、経年による品すら感じられる。
そして、厳重に守り固める騎士の数。
その騎士が着用しているのは、磨き上げられたシルバーの甲冑。その胸当てには王家の紋章が彫られ、肩からは王家を象徴する青のマントが流れるように下がっている。
マントの中央にも銀糸で王家の紋が刺繍されている。
彼らは王家とそれに準じる方々を護衛する、王宮でも選りすぐりの近衛騎士だ。
精鋭中の精鋭。
ということは、ここはもう王家の居住区?
ぞわっと鳥肌が立つように緊張する。
いち子爵令嬢である自分がこんなところにいることが信じられない。
いったい、タヌキ様とは何者なのだろうか。
ただのタヌキをお世話するためにこんなところまで来るはずがない。
やましい気持ちはないのだが、あまりジロジロ見るのも心苦しく、周囲を見る余裕もないまま、ただ宰相閣下の背中だけを見て進む。
建物を出て、長い渡り廊下を進み、突き当たり(両側に近衛騎士が立っていた)の扉を開け中に入った。
そこはまた別の建物の中だった。
さらに廊下を進み、階段の脇からエントランスに入る。建物の裏から入って、表に向かって歩いてきたようだ。
「わ……あ」
そのエントランスはとても広く、豪華な場所だった。
大きな窓から入る陽光を受け光る水晶のシャンデリア。
黒を基調にした、品がよく、高価そうな装飾の家具が置かれ、高そうな陶器が鎮座している。
王家の青と紫色の線の映える質の良い絨毯敷きの床と上へと伸びる中央の広い階段。
手摺は白い石製で、精緻で柔らかな印象の彫刻が贅沢に彫られ、曲線を描きながら上へと行くにつれ細くなり、中程にある踊り場のところで両側に分かれている。
そして、その踊り場の上部に掲げられたとても大きな額に縁取られ、陽光がまるで栄光の光のように照らし、顔料がキラキラ星々のように煌く絵画は……タヌキ。
……タヌキ?
「あ、あ、あの、宰相閣下っ!」
「なんだ」
「あちらの絵の方がタヌキ様……でしょうか?」
「そうだ」
本当に、正真正銘タヌキだ。
宰相閣下が絵画を見上げている目が優しさを含んで細められる。
(宰相閣下にこんな顔させるタヌキ様って、本当に何者!?)
この豪華な屋敷の主人であろうタヌキ様。
謎が謎を呼び、もう何が何だか分からない。




