ミレイア、王国を追放される
私の家系は二百年もの間、代々この王国で聖女をしている。その仕事はあらゆる災いから王国を守ること。
しかし、私達がどれほど王国に貢献しているか、傍から見ればよく分からず、理解もされないことがしばしばあった。
私、ミレイアが母より王国守護の仕事を引き継いで二年。現在は十六歳となって、職場である王城地下の聖域に詰めている。
聖域といっても大したものじゃない。そこそこ広い部屋の中央に小さな泉があるだけ。あとは私が生活するために必要な道具があちこちに置かれていた。
何しろ私はこの部屋から出ることができないので、本当にありとあらゆる道具が備えられている。
また、これ以外に必要な物は外部から何でも持ってきてもらえる仕組みだ。
食事はもちろんのこと、食べたいお菓子も頼めばすぐに出てくる。
ソファーでカップケーキ(本日のおやつ)を食べる私は、中央の泉をちらり。
「よし、今のところは問題なし。しっかり聖なる力も補充されているね」
それから、私の傍らに立つ男性騎士に視線を移した。
彼はランスロットさんといって私のお守り役を担っている。年齢は二十歳らしい。
「ランスロットさんは私担当になって一年ほどでしたっけ?」
「はい、そろそろそれくらいになりますね」
「正直なところ、毎日暇で仕方ないのでは?」
「決してそのようなことは。ミレイア様にお仕えすることは王国を守ることに他なりません」
若い騎士は表情を変えず淡々とそう述べていた。
確か彼の一族もかなり特殊で、聖女を信奉する組織の代表を代々務めているのだとか。とても真面目な性格で、その存在が私の退屈な日々を一層退屈にしている。
私はランスロットさんの顔を眺めつつため息をついた。
「この後何十年もこの聖域に閉じ篭った生活が続くんですよ? 王国を守るためとはいえ、うんざりしませんか?」
「平和を支えるとは地味なものなのです。共に頑張りましょう」
「真面目か……。私は、私にこの役目を譲った時の母の嬉しそうな顔が忘れられませんよ。ちょっとスキップして去っていったし。あの人、どうしてます?」
「先代聖女様は世界をご旅行中です」
「ちくしょう!」
……私がこの聖域から解放されるのは次に引き継ぐ時。つまり、私が子供を産んでその子が十四歳になるまで待たなければならない。
今のところ結婚相手すらいないので、軽く見積もってあと二十年はこのまま……。
おや、ちょっと待って。
「もし私に子供ができなかった場合はどうなるんです? 王国滅ぶんじゃないですか?」
「その場合は聖女の力を他人に継承させることになりますね」
「継承できるの! じゃあ今すぐやってください! 私も世界旅行に行きます!」
「駄目ですよ。あくまでも最終の手段ですので、最低でもミレイア様が齢五十を過ぎるまでは実施できません」
ご、五十……、ひぇー……。
「ちなみに、子供が男子だった場合は?」
「女子でも男子でも、一族の聖なる力を持って生まれてくるはずですのでその点はご心配なく」
何がご心配なくだ、人の気も知らないで。
淡々と語るランスロットさんに段々と腹が立ってきたので問答はやめることにした。
……しかし、私が解放されるのは最短でも聖女か聖男を産んで十四年後とは。それに、我が子にこんな監禁生活を長く送らせるのも気が引けるし。私の母は鬼だったんだな。
暗黒の未来に押し潰されそうになっていたその時、部屋の扉をノックする音が。
大勢の側近を引き連れて現れたのはこの王国の第一王子だった。
「我が父、国王様がご逝去なさった。私が新たな王となる」
その口から突然告げられた訃報に、私は言葉を失う。
体調を崩されてしばらくお会いしていなかったけど、まさかこんな急に……。私のことも気遣ってくれるいい王様だったのに……。
衝撃を受けている間も第一王子は言葉を続けていた。
「私の代では、怪しげな聖女の力に頼るのはやめにしようと思う。というわけでミレイア様、明日この城から出ていってくれ」
え……?
え! 出ていっていいんですか!




