裏切りの代償を払ってください。~全てを懸けて私を幸せにすると言いましたよね?幸せになれなかったので全てを貰っていきます~
私の名前はイライザ。
元々は竜族の王女としてあちらの国で暮らしていたけれど、人間の伯爵家令息マルクスと運命の出会いを果たす。
彼は私にこう言った。
「私の全てを懸けてあなたを幸せにします。どうか共に来てください」
この言葉で私は彼との結婚を決め、人間の世界で生きていこうと心に誓った。
それから二か月が経ち――。
新居屋敷の一室にて、私は正面に座るマルクスを睨みつけていた。
「よくも浮気をしてくれたわね。何か言い分があるなら聞こうじゃない」
「……言い分だと? 自分の行動を棚に上げてよくそんなことが言えるな」
彼は私を睨み返しながら、全く悪びれる様子もなくため息をつく。
「私が何をしたと? 人間の貴族の妻として、きちんとした行動を取っていたでしょ」
「どこがだ! 毎日毎日いったいどれだけの量を食べるんだ! しかも生肉ばかり!」
「そ、それは竜族の体を維持するために必要だから……!」
現在の私は人の姿に変化しており、竜族としての本来の姿は別にある。そちらはなかなかに巨大なので、当然ながら体格に見合った量の食事が必要だった。そして、竜族は肉食なので野菜類は食べない。
調理した肉も食べられなくはないけど、やっぱり生が美味しかった。
「というより! 私の食べる量や食事内容は結婚前から分かっていたことじゃない!」
「……一緒に暮らしはじめて日々目にしていると、段々気分が悪くなってきたんだ。あと、君がたまに言う冗談も全然面白くない。もう君への愛は完全に冷めた……」
勝手なことを!
前は私の冗談が好きとか言っていたくせに!
私の方だって、あれだけ私への愛を囁いておきながらあっさり浮気したあなたには、開いた口が塞がらない。こっちの愛も一気に冷めたわよ。
もっとしっかり文句を言ってやらないと気が収まらない。
と思っているとマルクスの方がさらに文句を述べはじめた。
「はぁ、やっぱり竜族なんて妻にするんじゃなかった……。人間は人間同士で結婚するのが一番だ。私が知り合った女性は君と違ってとても私に従順で、君と違って小食だよ。あの子と人生をやり直す。さあ、出ていってくれ」
な、なんて言い草……! こっちは一族の反対を押し切って強行した結婚だったのに!
……いや、この男の本性を見抜けなかった私の落ち度か。
これ以上、彼と話していても時間の無駄だわ。私もさっさと竜生をやり直さないと。
「分かったわ、離婚しましょう。とりあえず実家に帰らせてもらうわ。明日、契約の履行があるからもう一度ここに戻ってくる。それであなたとはお別れよ」
「契約? 結婚生活はたった二か月だからそれほど財産は分けないぞ」
「いえ、人間が勝手に考えた制度の話じゃないの。まあ、明日になれば分かるわ」
「どういうことだ?」
状況が全く理解できない様子のマルクスをおいて私は屋敷を後にした。
――――。
翌日、約束通り再び戻ってきた私は、マルクスを屋敷前に呼び出す。
「じゃ、契約を履行するわね」
「だから、それはいったいどういうことかと……」
そう言いかけた元夫は、不意に言葉を失って硬直する。
無理もないだろう。体長五十メートルはあろうかという巨竜が、私達が暮らしていた屋敷に上から覆い被さっているのだから。
巨竜はそのまま軽々と屋敷を持ち上げた。そして、背中の翼を広げて離陸し、空の彼方へと。
まだマルクスが呆然としているので、きちんと説明してあげることにした。
「さっきの竜は私の配下よ。あの屋敷は結婚に際して建てられた物で、あなたの所有になっていたから貰っていくわ」
「バ、バカな……。財産分与はほぼしなくていいはず……。ど、どういう理屈だ!」
やっぱり彼は全く分かっていない。
「あなた、結婚の時に『全てを懸けて幸せにする』と言ったじゃない。私は幸せになれなかったから、せめてあなたの全てを貰っていくわ」
「そんな口約束で……!」
「……知らなかったようだから教えてあげる。人間が竜族と交わした約束は、口頭だろうが書面だろうが、絶対に守らなければならないの。古より続く契約よ。もし一度でも破ってしまった場合、竜族は全勢力をもって人類に報復する」
「そ、そんなのは知らない……。私はただ、軽い気持ちで……」
マルクスは小刻みに震えながら呟いていた。
軽い気持ちで、ね。あなたならまあそうでしょう。
でも、人間の中にはこの契約がどれほど恐ろしくどれほど大切か知っている者達もいるのよ。
「もうこの王国とも話がついているわ。あなたが個人で所有している農園や商会も全て私の名義に移された。あ、ついでにあなたが引き継ぐ予定だった爵位もね。元お義父様も即刻譲ってくれたから、私はもう伯爵よ。イライザ伯爵様と呼びなさい」
追加の情報がさらに効いたらしく、マルクスは地面に膝をついた。
この間に私は自分にかけている人化の魔法を解く。
「最後にもう一つ、あなたから貰わなければならないものがあるの」
「私には、もう何も残っていない……」
「いいえ、一つだけあるじゃない。とても大切なものが」
体長二十五メートルの竜に戻った私を、マルクスはガクガクと震えつつ見上げる。
私本来のこの姿は、まだ若いのでサイズは先ほどの配下の半分程度なものの、王族竜だけに戦闘力は遥かに上。彼相手にそんな戦闘力はまず必要ないけれど。
「では……、あなたの命を貰うわ!」
そう告げた直後に、牙を剥いてマルクスを丸飲みに……!
……しようとして寸前で停止。
口を開けたまま視線を下にやると、マルクスは気を失って地面に倒れていた。
「……人間なんて食べないわよ。まずいもの」
私の冗談が好きと言っていたのにこの有り様。やっぱり彼は私の運命の相手じゃなかったらしい。
人間以外との約束は気をつけないと。
破ってしまった場合、最終的に全く笑えない冗談をかまされたりします。
お読みいただき、有難うございました。
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