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Believe Your Smile②

時は少し遡る。


「初めての沖縄だ〜!!」


青い空、強い日差し。

空港を出た瞬間に感じる、少し湿った本島とは異なる空気。

それだけで、なんだか特別な気分になる。


私の名前は三宅菜名。

どこにでもいる、21歳の女子大生。


私は今――沖縄旅行に来ています!!


「菜名、やっと着いたね!! 沖縄、最高~!!」


隣でテンション全開なのは、高校時代からの親友の青木早彩(さあや)。

同じ大学に通っていて、今回この旅行を提案した張本人だ。


「ほんとだね早彩。でもびっくりしたよ〜。この時期にいきなり行くって言うから」


「だってこの時期なら混んでないと思ったし〜」


それっぽい理由を言ったあと、早彩はニヤッと笑った。


「あと、菜名が最近クズ男にばっか引っかかってるから、元気出してほしいなって♪」


――クズ男って……否定はできない。


「でも、しばらく恋愛はいいかな……」


ため息まじりにそう言うと、


「そんな〜! 良い出会いがあるかもしれないじゃん!」


と、すぐに返ってくる。


「なんか……放っておけなくなっちゃうんだよね」


自分でも分かっている。世話焼きで、変なところで情が深くて。

だから、ちょっとダメな人を見ると、つい手を差し伸べてしまう。

その結果が……あれこれ。


……反省してます。


「ほら、シーサーの置物だよ♪」


早彩はもう次の景色に夢中。その無邪気さに、つられて笑ってしまう。


――こういうところ、本当に救われる。


「やっぱり沖縄って、有名人とか多く来てるのかな?」


「どうだろうね。でも今、名古屋モトーレがキャンプしてたはずだよ」


「あ、早彩サッカー好きだもんね!」


「中井選手とかは知ってるんじゃない?」


ずっと日本代表に選ばれていた選手だ。名前くらいは私でもさすがに知っている。

本人を見ても、その人と分かる自信はないけど。


「まぁ、キャンプ観に行かないと会えるわけないけどね!」


「だよね。沖縄も広いし」


私は笑いながら、明日の予定を思い出していた。


「私、明日のガイドツアー楽しみだな」


長い年月をかけて育まれた亜熱帯の森。

ガジュマルやアカギに囲まれた緑豊かな空間。

命の誕生や成長を願って、人々が祈りを捧げた鍾乳洞。


そういう“自然の神秘”みたいなものを、ちゃんと感じてみたかった。


「そうだね! とりあえず今日を楽しもう〜♪」


沖縄旅行は、まだ始まったばかりだった。


----------


―翌朝


まだ少し眠いまま、自然公園へ到着。


「すいません、ガイドツアーに予約した青木です」


「青木様2名ですね! お待ちしておりました」


スタッフさんは笑顔で対応してくれた。


「他のグループが来るまで、待合室でお待ちください」


「私たち以外、まだ誰もいないね」


「やっぱこの時期だと空いてるのかな?」


「そんな感じかもね」


のんびり話していると、参加者が揃ったようだ。

ガイドさんの声を元に振り向く。


ひとりは、高身長でがっしりした体格。もうひとりは、すらっと引き締まった、無駄のない身体。

男性ふたりで参加するなんて珍しい。


「こんにちは。少し待たせちゃいましたね、すみません」


高身長の男性が、柔らかく声をかけてくれた。


「ぜんぜん大丈――」


「中井慎吾選手じゃないですか!!」


大興奮の親友を横に、目が点になる。


――確かに、テレビで見たことある気がする……


「知ってくれてるんだ。ありがとうございます!!」


初めて生で見たサッカー選手はおごり高ぶることもなく、普通にめちゃくちゃいい人だった。


---


「……と言うわけで、今日はオフだから後輩の道枝とガイドツアーに来てるわけ」


こうして私たちは、中井選手、道枝くん、私、早彩、そしてガイドさんの5人で歩き始めた。

道枝くんは、今年からプロになったばかりらしい。

私たちより2つ下。

まだ少年っぽさが残っているのに、もうプロの世界に挑戦するって…すごいなぁ…


「そうなんですね! 会えるとは思ってなかったです!」


早彩が完全にサッカーファンの顔になっている。


「お二人は? 大学生とかかな?」


「名古屋で大学生してます!!」


「そっか、君たちも名古屋なんだね!」


中井選手は嬉しそうに笑った。


「じゃあ名古屋モトーレの応援も来るの?」


「私はたまに行きますよ!! 菜名はスポーツ音痴なんでルールも分かってないですけど」


「やめてよ〜恥ずかしい…!」


本当にやめて。


「じゃあ今度来てみてよ」


中井選手が、隣を指差す。


「こ(・)い(・)つ(・)が魅せてくれるから」


「えっ僕ですか!?」


道枝くんが本気で驚いていた。


「出れるのかな…?」


――え。


「でも、監督に言えば出してもらえるかな…?」


サッカーってそういうものなの……?


「なわけないだろ!!!」


中井選手のツッコミが森の中に響いた。

やっぱりそうなんだ。


「道枝くん……天然なんだね!」


早彩が笑う。

私も、ちょっと思った……大丈夫かな、この子……


「おふたりって仲いいんですね〜」


そう言うと、


「こいつが付いてくるんだよ〜」


と中井選手。

すると道枝くんが即座に反論した。


「ひどいですよ慎吾さん〜! 慎吾さんは僕にとってずっと憧れのヒーローなんです!!」


そのあと延々と語られる、過去の伝説。


「あの時はすごかったな~ ボルクグロス時代のあの優勝を決めるゴールも、アーゼガムの時のあの――――」


中井選手の制止を振り切って暴走する道枝くん。目がとてもキラキラしていた。


――本当に好きなんだなぁ


そんなふたりを見ながら、私たちは森の奥へ進んでいった。


---


「皆さ〜ん!! こちらがガジュマルの木です!!」


谷からそびえ立つ巨大な木。

完全に圧倒された。

根が地面を抱くように広がっていて、生命そのものみたいだった。


「うわ〜すごいなこれ!!」


「キレイ。すごい神秘的」


みんなが自然と見上げる。


「来てよかったな〜 落ち着きますね♪」


道枝くんも珍しく真面目な感想……と思ったら、


「へ~緑色で目に良さそう♪」


……そこ?


思わず笑いそうになる。


「これから鍾乳洞に入りますので、足元注意してくださいね!」


そして――その“足元注意”が、すぐに現実になった。


---


「三宅さん、大丈夫ですか?」


鍾乳洞の中。

薄暗くて、滑りやすくて、思った以上に大変だった。

運動音痴には厳しい。


「大丈夫……」


と言った瞬間、グラッときた。


「あ――」


パシッ。


「大丈夫ですか!!」


気づいた時には、道枝くんが手を掴んでいた。

力強くて、温かい手。


「う、うん……バランスをちょっと崩しちゃった、ありがとう」


やっぱりサッカー選手ってすごい。

すぐ動けて、ちゃんと男の子で、ちょっと、頼もしい。


「全然大丈夫です! そのためにトレーニングしてますから!」


そう言って笑う。


――なんか、ずるい。




「あっ、見て!」


気づけば、鍾乳洞の奥だった。

光が反射して、幻想みたいに綺麗。


「すごく綺麗だね〜!!」


「ホントだ〜!」


隣で笑う道枝くん。その横顔を見ながら、少しだけ思った。


……不思議な人だな。


「菜名と道枝くんがイチャイチャしてる間に着いちゃったじゃん!」


「してない!!」


即答したのに、菜名と中井選手がニヤニヤし続けてる。


なんで!?


----------


ツアーが終わり、公園の入口へ戻る。

少し名残惜しい。


「今日はありがとうございました! めちゃくちゃ楽しかったです!」


「アレがガーってなってて、コレがキラキラって……」


「道枝くん、落ち着いて!」


彼は最後まで自由だ。


「サワサワ〜ってなってスラ〜としてて……」


すぐに早彩にまねされてた。


その後は慎吾さんに誘われて公園内のカフェに。

道枝くんがバナナシェイクとポテトを頼んで、ハムスターみたいになってた。

シーズンが始まる前に大好物のポテトを食べまくる、らしい。

たくさん笑った。


そして、別れの時間。


「今日はありがとうございました!」


「全然大丈夫だよ〜 沖縄旅行楽しんでね〜」


私は少し迷ってから言った。


「道枝くん! サイン書いてもらっていい?」


「えっ!? 僕でいいんですか?」


すごく驚いていた。


「……だって、中井選手みたいになるんでしょ?」


「もちろんです!!」


今までからは想像できない速度で返事が返ってくる。


――やっぱ、サッカー選手なんだ……


「ぜひ、名古屋での試合、見に来てくださいね!!」


――うん。


----------


―帰り道


「楽しかったね♪」


「うん」


神秘的な森も、鍾乳洞も。

そして――思いがけない出会いも。


全部、すごく特別だった。


道枝くん、不思議な人だったな。

年下なのに子供っぽくて。

頼りなさそうなのに、ちゃんと頼れて。

ちょっと天然で。


でも、ちゃんとかっこよくて。


「連絡先とか交換しなかったの〜?」


首を振る。


「だって、そういうんじゃないから」


たまたま同じツアーになっただけ。

それだけ。


……でも。


初めてのサッカー観戦、行ってみようかな?

その時は、早彩に連れていってもらおう♪


沖縄旅行は、まだまだ続く。

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