Believe Your Smile③
沖縄県で、最も華やかな繁華街。
それが――国際通り。
観光客の笑い声。
色鮮やかな看板。
立ち並ぶ土産屋に、アイスクリーム屋、古民家を改装したカフェ。
歩いているだけで、自然と気分が上がってくる。
3日間のオフも、いよいよ最終日。
中井と道枝は、チームメイト数人と共に国際通りへ来ていた。
「昨日のガイドツアーどうやった?」
村上が歩きながら聞く。
「めちゃくちゃ楽しかったです!」
即答する道枝。
「ですよね、慎吾さん?」
「そうだな。また行こうな♪」
その返事に、道枝の顔がぱっと明るくなる。
「俺も行きたかったな……」
薮が大げさに肩を落とした。
「休日に村上さんとダンスの練習なんてしたくなかったよ……」
「そりゃ残念。デジみょん楽しみにしてるぞ」
香取が笑う。
「田口は何してたの?」
「自分は、ランニングとウエイトトレーニング、そしてヨガしてました」
淡々と答えるのは、右サイドバックの田口宏太。
物静かで真面目。毎年オフの過ごし方もだいたい同じだ。
「いっつも真面目やからね、宏太は」
「大野くんは攻撃参加し過ぎだよ」
「いいじゃん、楽しいし」
センターバックの大野が笑う。
同じクラブ出身の先輩後輩。
チャラめな大野と、静かな田口。
この2人の空気感は、どこか子どもの頃の友達みたいで、見ていて妙に落ち着く。
「じゃあ今年は、道枝と田口が見たいところ中心にブラブラするか」
中井の一言で、全員が賛成した。
こうして、道枝と田口を先頭に商店街を歩いていく。
家族へのお土産を探すもの。
頼まれた品を探すもの。
自分用の日用品を買うもの。
浮かれて余計なものまで買うもの。
みんな、それぞれに国際通りを楽しんでいた。
そんな中、たくさんのTシャツが飾られた店の前で道枝が立ち止まる。
自分で文字を入れてオリジナルTシャツ作れるところらしい。
「じゃあ、みんなで作るか!」
中井が楽しそうに言う。
「どうせなら、自分自身じゃなくてそれぞれのメンバーに対して作ろうや。もちろんデジみょんも撮りまっせ♪」
村上がすぐ乗っかる。
結局、その場のノリで決定。
じゃんけんの結果、中井の担当は村上になった。
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それぞれの人物像をイメージしながら、入れる文字を決める。
Tシャツが出来上がるまでは、店内をウロウロするしかなかった。
「あれ? もしかして青木さんと三宅さん?」
店先にいたのは――昨日、ガイドツアーで一緒だった2人。
「道枝くん!? 中井さんも!!」
「また会えるなんて! こんな偶然あるんだ!」
2人とも驚いたように声を上げる。
「ホントだな、まさかまた会えるとは!」
よくよく考えたら、国際通りという有名な観光地なら再会する可能性はあり得るのだが、この場に居る全員がその事実に気付かない。
「今日もお休みなんですか?」
三宅が少し嬉しそうに聞く。
「今日までオフで、チームメイトと遊びに来たんだ」
その空気に、すぐに村上が割って入る。
「ちょっとちょっと、紹介してくださいよ〜 こんな、ものすごいべっぴんさんを〜」
「そうですよ!!」
薮まで食いつく。
「なんでこんな超美人さんと出会ってるんですか!!」
「昨日のガイドツアーで一緒だった、青木さんと三宅さん」
「「こんにちは〜」」
みんなで挨拶する中、薮だけが妙に張り切っていた。
聞いたことのない、ダンディな声がする。
「こんにちは。俺はプロサッカー選手の――」
「「「「調子にのるな」」」」
全員のツッコミが完璧に重なる。
「俺もガイドツアー行けばよかった……」
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そのまま流れで、2人もTシャツ完成を見届けることになった。
デジみょん用のカメラは、三宅が持っている。
「どんなのだろ、楽しみだな〜」
青木がわくわくしている。
三宅も言葉にはしないが、少しだけ視線を道枝へ向けている。
「よ〜し、できたな!」
中井が全員を集める。
「一斉に見せ合うぞ。せーの!!」
中井 美帆ちゃん♡LOVE
道枝 中井オタク
村上 エセ関西人
田口 バカ真面目
薮 胸毛ワイバーン
香取 小目
大野 ガチポマード
一瞬の静寂、そして――
「おい!! ど〜していつも奥さんイジりなんだよぉぉぉ!!」
中井が真っ先に崩れた。
「中井オタクか……ちょっと嬉しいかもです♪」
「お前は何喜んでんねん!!」
村上のツッコミが飛ぶ。
「それより、誰だエセ関西人って書いたやつは!! こちとらチャキチャキの関西人や!!!!」
「自分なんてバカ真面目ですよ…」
「まだいいじゃないかよ!!」
薮が叫ぶ。
「俺なんて胸毛ワイバーンだぞ!? 誰だ道枝に昔のあだ名教えたの!!」
「小目って……小目だけど……」
「ポマードしないとヘディングしにくいっすからね」
大野だけ妙に納得していた。
「道枝くん、嬉しそうだね」
三宅が笑う。
「はい♪ 嬉しいです♪ 慎吾さんオタクって認められた〜♪」
「やめろ……こっちが恥ずかしいわ……」
主人公2人を横目に、青木早彩は気になるところがあるようだ。
「胸毛ワイバーンって……」
「俺が気になるっ!?」
薮が前のめりになる。
「それはね――」
「「広げなくていい、広げなくていい」」
中井と香取が即座に止めた。
「そんなぁぁぁ〜!!」
国際通りに響く悲鳴――平和だった。
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和やかな空気(?)のまま、Tシャツショップを出る。
「いや〜、さっきはありがとうね」
「いえいえ! とっても楽しかったです!」
「2日連続で会えて嬉しかったです〜」
三宅のその言葉に、道枝が自然に返す。
「じゃあ、またどこかで会えるかもですね〜」
「おいおい、それなら連絡さ――」
「おやおや、これはこれは……」
突然、空気が変わった。
全員が同時に顔をしかめる。
「名古屋モトーレ御一行じゃないですか!」
現れたのは――新聞記者の盛山。
去年から名古屋モトーレを担当する番記者。
だが、選手たちからの評判は最悪だった。
高圧的で、批判的で。
そして――非公開のトレーニングマッチを記事にした張本人。
「中井さん〜 ボランチ、苦戦してるみたいですね〜」
その言い方だけで、十分不快だった。
「……チームから、記事にしないよう言われてたはずだが?」
「まぁ、あくまで“報道の自由”ですから」
薄い笑みに、直接関係のない2人まで嫌悪感を抱く。
「そんなんじゃ、渋谷ビンクロスに勝てないですよ〜 優勝目指してるんじゃないんですか〜?」
後々分かる話だが、盛山は東京出身で渋谷ビンクロスのサポーターである。
「ちょっとリスペクト足りなさすぎっすよ」
「俺たちの邪魔したいの?」
「マジいい加減にしてほしいっす」
全員の空気が完全に変わる中、それでも盛山は笑う。
「今日のこと記事にしていいですか?」
―“取材拒否の名古屋。プロ意識とは”
「いい記事が書けそうです♪」
三宅は、そっと道枝を見る。
さっきまで笑っていた顔が、少しだけ固くなったことを感じて眉が下がる。
でも当の本人は、思ったより怖がらないようだ。
「あのっ……名古屋モトーレの番記者さんなんですよね?」
「……そうだけど?」
少し意外そうな盛山。
道枝は、まっすぐ見ていた。
「僕たち選手は、名古屋モトーレのエンブレムを背負って戦ってます」
静かな声。
でも、ちゃんと届く声だった。
「それは、青木さんみたいなサポーターも、身近にいるチームスタッフも」
少し息を吸う。
「……名古屋モトーレを担当する記者さんも、同じだと思っています」
黙ったままの盛山に道枝は続ける。
「だから……僕たちと一緒に、名古屋モトーレとして闘ってくれませんか?」
「……俺も、一緒に闘えと?」
「はい」
迷いのない返事。
「盛山さんも――”名古屋モトーレの一員”ですから」
何も反応が無い。
長い沈黙の後、盛山は視線を逸らす。
「まぁいい、今日のことは記事にしないであげますよ」
どっかに行ってしまった。
「ったく、やっとどっかいったわ」
大きく息を吐く村上。
中井は居合わせた2人に謝る。
「嫌な思いさせてごめんね」
「全然大丈夫ですよ〜」
「せっかくの沖縄なのに、観光できなくて羨ましいんですかね〜」
ぽつりと道枝が言う。
「「なんでそうなるんだよ!」」
中井と三宅のツッコミに、全員が吹き出した。
笑い声が、国際通りに響く。
三宅は、その輪の中で思っていた。
道枝くんって――やっぱり、不思議な人だ。
のほほんとしていて、天然で、ちょっと頼りなく見えて。
でも、ちゃんと言う時はちゃんと言える。
――不思議な人。




