つたない言葉に思いを込めて
バスに揺られること、およそ30分。
やがて会場に到着した。
「もう結構人集まってるな」
「うわ、ほんとですね〜」
入口付近にはすでに多くのサポーターが集まり、手を振りながら選手たちを迎えている。
その中へ足を踏み入れようとした瞬間――
「慎吾!!」
力強い声が響いた。
振り向くと、名古屋モトーレのウルトラス(注1)、コールリーダーの土岡が立っていた。
「土岡さん、今シーズンもよろしくお願いします!」
「おう。今年も声の限り応援するぜ。 ……だけど、大丈夫か?」
「大丈夫って?」
土岡は一歩近づき、真っ直ぐに見据える。
「俺たちは知ってる。お前が名古屋から羽ばたいた、日本のレジェンドだってな」
その言葉のあと、少しだけ視線が揺れた。
「……でもな。去年みたいなプレーが続けば、若い連中からはただのロートルだと思われる」
拳を握りしめる。
「それが、俺は嫌なんだ」
静かな熱が、そこにあった。
「心配かけてすみません。それでも、俺は変わらず全力で闘います」
「あの草彅監督と、もう一度やれるんです。だから……見守っていてください」
――今はこれしか言えない。
「……頼んだぞ」
そのやり取りを見届けるように、周囲の喧騒が再び戻ってきた。
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控室に入ると、広報の原田が案内をする。
「こちらでユニフォームに着替えてください」
視線の先には、赤く染まった新ユニフォーム。
戦闘服――そんな言葉が自然と浮かぶ。
「慎吾さ〜ん、どうですか? 似合ってます?」
「おう、似合ってるぞ」
「中井さん、そんなのに構ってないで、俺はどうなんすか?」
横から割り込んできたのは、横尾慶一郎。
今シーズン加入したトップ下の選手であり、ポジションを争う直接のライバルだ。
「お、おう……似合ってる」
「まぁ当然っすね」
軽く鼻で笑う。
「チームの柱になる俺が似合わなかったら意味ないんで」
「随分と強気だな」
中井は静かに返す。
「まぁ、その気持ちで来てくれ。互いに――」
「慣れ合う気はないんで」
言葉を遮るように、横尾は言い切った。
その視線には、明確な敵意が宿っている。
――ここまで露骨なのか。何が彼をそうさせるんだ?
胸の奥に、小さな警戒心が芽生えた。
―コンコン
「失礼します。スタジアムDJのヒロミです。今日は司会進行を担当しますので、よろしくお願いします」
「ヒロミさん、今年もよろしくお願いします」
「あ、中井くん。今年こそゴールで名前叫ばせてよ〜?」
軽い口調だが、鋭く刺さる。
「もちろんです。応援、よろしくお願いします」
「今日も盛り上げるからね〜!!」
続けて扉が開く。
「失礼します! あ、ヒロミさんもいた!」
明るい声とともに入ってきたのは、サポートソングを担当するストフェルのヴォーカル・カナデだった。
「今シーズンも歌わせていただきます、ストフェルです! よろしくお願いします!」
「こちらこそ。今年もよろしく」
「また写真でも撮ります?」
「ぜひぜひ〜!」
横尾も軽く会釈する。
「横尾です。よろしく」
「よろしくお願いします〜!」
場の空気が少し和らぐ。
「ヒロミさんともカナデさんとも仲いいんですね」
道枝が小声で尋ねる。
「身近なサポーターみたいなもんだよ」
「俺たちは、多くの人の想いを背負ってプレーしてる。それがプロだ。忘れるなよ」
「分かりました!」
――うん、力強い返事だ。
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「お待たせしました。まもなく始まります」
広報・原田の声が響く。
「監督と新加入選手から登壇しますので、こちらへどうぞ」
「……面倒くせぇけど、しゃあねぇか」
「じゃあ慎吾さん、先行ってます!」
道枝が先に駆けていく。
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「皆さん、こんにちは! 名古屋モトーレ、スタジアムDJのヒロミです!」
ヒロミの明るい声が会場に響き渡る。
「本日は新体制発表会にお越しいただき、本当にありがとうございます!!」
歓声が沸き上がる。
「まずはこの方! 11年ぶりに指揮を執ります、草彅茂監督です!」
大きな歓声。
「え~皆さんどうも、草彅です。去年不甲斐なかったチームを、もう一度オレ流に染め直せって言われてね。変えていくよ」
シンプルだが、力強い。
過去の実績は選手起用に関係ないとも断言する。
「ズバリ、今シーズンの目標はいかがでしょう?」
「そりゃもちろん優勝。少なくとも、それを狙えるチームにする責任がある」
今日一番の大きな歓声が上がる。
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続いて、新加入選手たちが登壇する。
「鹿島ディディアーズから移籍してきました、横尾慶一郎です」
落ち着いた声。
「ズバリ名古屋移籍の決め手は?」
「中井さんから――ポジション奪うことっすね」
どよめく会場。
「奪って、日本代表に選ばれます」
堂々と言い切る。
「まぁ今年は俺がチームを引っ張るんで、期待してください。中井とは違うんで」
拍手が広がる。
――ギラついてるな。
明確な敵意。
それ以上に、強烈な自信が感じられた。
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「続いて、ユースから昇格した道枝紫耀選手!」
マイクを握る手が震えている。
「ユ、ユースから昇格した……み、道枝です」
「そんなんじゃプロでやっていけねぇぞ。もっとしっかりやれや」
横尾の声が刺さり、さらに縮こまる。
「アピールポイントは?」
「ド、ドリ、ドリブルです」
「憧れの選手は居ますか?」
チラッと舞台袖を覗く。
その質問で、落ち着けたようだ。
「中井選手に憧れてサッカーを始めました! 僕にとって、唯一無二のヒーローです!」
真っ直ぐな若い声。
その言葉に、胸の奥がわずかに揺れる。
「トップチームに昇格出来てとても嬉しいです! 精一杯頑張ります、応援よろしくお願いします!!」
温かく見守るサポーターの拍手が響く。
――このシーズン、一緒にプレーできるのに。
その想いが、胸に引っかかる。
――格好悪いままで終わるわけにはいかない。
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「中井選手、そろそろ出番です」
「お願いします」
中井は小さく頷いた。
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「最後はこの方!! 名古屋の誇り、ミッドフィールダー背番号10……中井~慎吾~!!」
大歓声。
「横尾選手という協力なライバルが現れましたが?」
「チーム内で競争があるのは良いことです。切磋琢磨して、上を目指します」
「それは優勝ということですか?」
監督の言葉がよぎる。
いきなり監督と違うことを言う訳にはいかない。
「はい。やるからには優勝を目指します」
再び歓声。
「最後にサポーターの皆さんに意気込みを!!」
「本日は来ていただきありがとうございます。去年は、15位と苦しいシーズンを過ごしてしまいました」
視線をまっすぐ前に向ける。
少なくともこの場に居る人たちは、俺たちに――期待してる。
俺たちと共に――闘ってくれる。
「今シーズンは再び草彅監督とともに、1つでも上の順位を目指して闘いますので応援よろしくお願いします」
大きな拍手が広がった。
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「そして最後は!」
ヒロミの声が弾む。
「今年もサポートソングを担当するストフェルの皆さんです! なんと、ここで今年のサポートソングを発表してくれるそうで!!」
歓声の中、カナデがマイクを握る。
「皆さん、今シーズンも共に闘いましょう! 子供から大人まで、ピッチで闘う選手たちへの想いを歌にしました!」
力強く言い切る。
「それでは聴いてください――“Hero”」
(注1)ウルトラス・・・ゴール裏に集まり、歌やフラッグでチームを応援する熱狂的なサポーター集団のこと。




