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俺の大切な存在 君の大切な存在

―3月下旬

創作居酒屋「やまだ」


中井は、道枝と長野を食事に誘っていた。


「うわ~楽しみです!」


道枝はすでに上機嫌。

そんな様子を見て、中井は少し笑う。


「ここ、俺と吾郎の高校の同級生がやってる店なんだよ。何食っても美味いからな」


カランコロンカランと心地よいドアベルの音。


「いらっしゃいませ! お好きな席に……あっ、中井選手!!」


店員がぱっと顔を上げる。


「店長~! 中井選手が来られましたよ~!」


店内は木の温もりがある落ち着いた空間だった。

奥から店主――やまちゃんが顔を出す。


「よう、やまちゃん。吾郎もう来てるのか?」


「らっしゃい。もういつもの場所にいるよ」


やまちゃんがにやっと笑う。


「でも珍しいな。お前が吾郎と家族以外を連れてくるなんて」


「そうだな、かわいい後輩だよ」


後輩は、やたら元気よく頭を下げる。


――そんなに紹介されるの嬉しいのかよ……


「じゃあ後で、この子にもサインもらわないとな」


中井はその言葉にデレデレしすぎている道枝を引っ張りながら、奥の個室へ向かった。


------


「2人ともお疲れ、もう腹ペコだわ。ある程度頼んだから、早く食べようぜ」


中井と道枝はソフトドリンク。

長野だけがビール。


「「「乾杯~!」」」


「悪いな、俺だけ酒で」


「気にするなよ。道枝は未成年だし、俺もまだ現役だからな。そもそも酒あんまり好きじゃないし」


長野がすぐにやつく。


「そうかそうか、酒臭い慎吾は美帆に嫌われちゃうか~」


――おい吾郎、何をニヤニヤしてやがる……


そこへ次々と料理が運ばれてくる。


「よ~しお前ら!! 俺の自慢の料理だ、たらふく食え!!!」


「うわ~!! めちゃくちゃ美味しそう!!」


道枝の目が完全に輝いていた。


---


「……ってわけなんだよ。てか慎吾、横見てみろよ」


中井が振り向く。

そこには――ひとり、大きなリスがいた。


「道枝~お前、今日も口に入れすぎだ……」


口いっぱいに頬張ったまま固まるリス。

顔を振ることしかできない。


「そんなに美味いのか?」


コクコクコクコクコク


にっこりしながら激しく頷く。

さながらロックバンドのヘドバンだった。

やっと飲み込む。


「ぷは~」


「「ぷは~じゃない、ぷは~じゃない」」


2人が同時に突っ込む。


「え?」


相変わらず、面白いやつだった。


「ところで、おふたりって、昔からよくご飯行くんですか?」


「そりゃな、昔はめちゃくちゃ行ったよな?」


「ほんとに腐れ縁だったからな。でも互いに結婚して、子供生まれて、慎吾が海外に移籍したからいつの間にか少なくなったよな~?」


長野は、少し懐かしそうに笑う。


「今は互いに家庭あるしな、いつでも会えるし」


2人とも同じ笑い方をする。


「こいつ、どんどん活躍してすぐ海外行っちゃったからな~ 残った俺たちは大変だったよ!」


「長野さんは、慎吾さんの海外移籍って羨ましくなかったんですか?」


「そりゃ、羨ましかったよ」


でも、と続ける。


「自分が通用しないことも分かってた。だからむしろ、”俺たちの代表として頑張ってこい”って思ってたよ」


道枝の目がまたキラキラする。


「やっぱり慎吾さんって特別だったんですね!」


――また子犬みたいな目してるな。


「別格だったよ。だから俺は、慎吾が帰ってこられる場所を守ろうって思ってた」




「なのに!!」




「ドイツで大活躍してた頃には、俺もう引退してフロント入りしてたんだよ!!!」


「え、そうだったのかよ!? 知らなかったぞ…」


少し大げさな口調に、冗談半分だと疑う中井。

だが、その後の真っ直ぐな言葉が、本心であると裏付けしてくる。


「慎吾は俺たちの”誇り”なんだよ。まぁまさか、お前が選手で、俺がフロントで、また草彅監督になるとは思わなかったけどな」


――吾郎、お前は本当に最高の友達だよ。






――でも……そんなお前から見て、今の俺はどう映ってるんだろうな……


---


「そういえば」


道枝が箸を止めた。


「慎吾さんたちから見て、草彅監督ってどんな存在なんですか?」


「そっか。道枝ってユースに居た時、草彅監督はアカデミーダイレクターだったもんな。その時どんな感じだった?」


「うーん……何を見てるか分からないけど、落ち着いてる偉い人……って感じですかね。いつもあんまりグラウンドに降りてこなかったし」


つい吹き出してしまった。


「何見てるか分からないけど落ち着いてるって!!」


――まぁ、分からなくもない。


「でも僕、U-18リーグにもあまり出てなくて、名古屋ユースの中でも全然目立ってなかったので。自分よりもっと上手い子たちがたくさんいるのに、なぜか監督に僕だけ声掛けてもらえて、なぜかトップチームに上がって……」


「そのおかげで、こうして慎吾とチームメイトだもんな♪ ユースから上げたい奴がいるって言われた時はワクワクしたもんだよ」


道枝は嬉しそうに頷く。


「だから草彅監督は、僕の恩師です!」


「俺らも同じだよ。監督がチャンスをくれたから、今がある」


長野も頷く。


「あの頃は特別だったな。草彅さんが監督になって、まだ若い俺らを使ってくれて」


「監督って、あんまり言葉で語らないだろ? でも、選手を信じる力がすごいんだよ。今だけじゃなくて――何年も先の姿を見てる」


そして、道枝の肩を抱く。


「今も、俺とお前を信じて使ってくれてる。この経験は絶対、自分の糧になる」


「でも……あの時は優勝したんですよね。今の僕に、それができるのか……」


道枝は、未だに不安で胸がいっぱいだった。


「大丈夫だよ。お前は草彅監督に信頼されてる。監督は、お前の中にものすごい可能性を見てる」


父性が道枝を優しく包む。

その言葉と一緒に、脳内に昔の景色が浮かぶ。


草彅監督と出会って。

スタメンで使ってもらって。

優勝争いをして。

ライバルのタレント軍団を倒して。

頂点に立った。




――あの頃が懐かしいな……

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