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23/28

君のユニフォームが輝いたんだ

少しだけ、時はさかのぼる。


―AFリーグ第3節 

名古屋モトーレ対マサムーネ仙台


休日の駅前は、すでに赤く染まっていた。

親子連れ、仲間同士、カップル、はたまた1人で足早にスタジアムへ向かう者。

その全員が、同じ場所を目指している。


「おまたせ~! 待った~?」


明るい声とともに現れたのは青木早彩。

名古屋モトーレの赤いユニフォームに、タオルマフラーまで完備。

準備万端だった。


「ううん、私も今着いたところだよ♪」


「すごい人の数だね……こんなにたくさんの人が集まるなんて……」


その圧倒的な熱量に、少しだけ気圧される。


「そうだよ! 名古屋モトーレのサポーターは熱いんだから!」


2人はそのままスタジアムへ向かって歩き出す。

きっかけは、沖縄で偶然出会った道枝紫耀というプロになりたてのサッカー選手。

いつも、1人で観戦している青木についてきた三宅。

そんな彼女にとって、今日は人生で初めてのサッカー観戦。


「でも、ごめんね。前の試合、行けなくて」


「開幕戦? い~よい~よ、気にしないで~」


申し訳なさそうにする三宅に対し、青木はすぐに手を振る。


「だって急遽、合コンの数合わせだったんでしょ? それより、その合コンどうだった? いい人いた?」


三宅は顔をしかめる。それだけで大体の内容が想像できた。


「すごいガツガツ来られたけど……」


「そりゃ菜名は美人だもん。人気なんだよ~♪」


楽しそうに続ける。


「でも、菜名の運命の人には出会えなかったか~」


三宅が慌てて話を切る。

軽い恋なんてしないと、誓ったばかりなのだから――


そして、ふと前を見る。


「それより早彩……スタジアムって、まさかあれのこと?」


目の前に現れたのは――巨大な宇宙船のような建造物。

圧倒的な存在感。

まるで街そのものみたいだった。


満足そうに頷く。少し誇らしげなようだ。


「あれが、名古屋モトーレのホームスタジアム――名古屋スタジアムだよ♪ 大きいでしょ~?」


「大きいなんてもんじゃないよ!! あんなところで道枝くんたちが試合するの?」


三宅は本気で驚いていた。

スタジアムなど、全く縁のない存在だった。


「ふふ、そうだよ菜名。 まだ時間もあるし、まずはスタジアム周りのグルメとかイベントを楽しむよ!!」


「でもまず、私もその赤いユニフォームが着たい!!」


青木にとって、その反応は想定内過ぎたようだ。

三宅の腕を引いて向かうは――オフィシャルグッズショップ。


---


そこはもう、小さなお祭りだった。

マフラータオル、キーホルダー、アクリルスタンド、トートバッグ、ユニフォーム。

とにかく、何でもある。


三宅にとっては、全てが新鮮だ。


「すご~い! たくさんタオルとかあるんだね~! それぞれ選手ごとに分かれてるんだ!」


「そうだよ! やっぱり人気は中井さんの背番号10とか、新加入の横尾選手かな?」


青木が棚を指差す。

その横には、山積みになっている背番号41――道枝紫耀のグッズ。


――道枝くん……まだたくさん余ってるんだね……


少しだけ胸がきゅっとした。


「菜名~! こっちこっち!」


親友が呼ぶ、ユニフォームコーナーへ。

ここも同じく、人気が――そのまま“見える”。


「ねぇ早彩、背番号書いてないのも多いんだね? あと、この12番って何?」


サポーターにとって、簡単すぎる質問だ。


「背番号なしは、チーム全体を応援したい人が選ぶことも多いよ」


「そして、12番(これは)サポーター番号――ファンもサポーターも、一緒に戦ってるから、1(・)2(・)人(・)目(・)の(・)選(・)手(・)って意味なんだよ!」


少し誇らしげだ。

三宅は感心したように頷く。

そして、少しだけ考えてから手に取った。


「やっぱり私は、道枝くんを応援したいな♪」


青木はニヤニヤが止まらない。

そうして背番号41の在庫が1つ減った。


---


続いてのお楽しみは、スタジアムグルメ。


「菜名! あれ美味しそう~!」


「今度はあっち!!」


「次ここ並ぶよ~!」


「ちょ、ちょっと待ってよ~!」


青木のテンションは最初からフルスロットルだった。

次に並んだのは、串焼きの屋台。

そこには――『中井慎吾コラボ・豚しそチーズ焼』の文字が見える。


「ねぇ早彩? 選手コラボメニューって、選手全員分あるの?」


「たぶんないかな~人気選手数名だけだと思うよ。ほら、この店も中井選手だけだし。すいませ~ん! 豚しそチーズ焼2つで!!」


――そっか。

――道枝くんのは、ないんだ。


少しだけ寂しく思う。

ふと周りを見渡すと、背番号なし、12番、10番。

他にも9番の横尾、1番の森などいろんなユニフォームが見える。

目を凝らしてみても、三宅の目に41番の数字は――入らなかった。


――まだ、あんまり浸透してないのかな。


三宅はそっと胸の前の番号を見た。


――大丈夫、私は着てる。

――道枝くん、ちゃんといるよ。


その後も、フェイスペイント、イベントブース、スタンプラリー。

試合前から、すでに楽しい思い出をつくることが出来た。


「どう~? これが試合前のイベントだよ♪ ここに来るだけでも楽しいでしょ?」


2人とも満面の笑みだった。


「うん!! めちゃくちゃ楽しい♪ 中井さんの豚しそチーズ焼もすごく美味しかったね!!」


「メインはこれからだよ! じゃあスタジアム入るから、電子チケット準備してね!」


----------


スマホをかざす、ゲートを抜ける。

コンコースを進むと、視界が一気に開けた。


青々としたピッチ。

壁のように四方を囲む赤い観客席。

巨大な空間。

音、光、熱。

すべてが、一気に押し寄せる。


「これが――名古屋モトーレが誇る、名古屋スタジアムです!!!」


両手を広げた青木は、少し芝居がかっている。


「……すごい……綺麗……」


それしか言えなかった親友を見て、嬉しそうにしている。


「綺麗でしょ♪ ここが、中井さんや香取くんの仕事場です!!」




――ここで道枝くんが。

――あんなにふわふわしてる人が。

――どんな姿なんだろう。




”名古屋~共に~旋風巻き起こそう~ その気流に乗って前へ進もう~”


圧倒的な声量に鳥肌が立つ。


――みんな、本気で応援してるんだ。


「名古屋モトーレ、スターティングイレブンの発表です――ミッドフィールダー、背番号41――道枝~紫耀!!!!」


「道枝くんスタメンだって!! よかったね!!」


胸が熱くなった。


――すごい。

――やっぱり、期待されてるんだ。


「1stハーフ、キックオフ!!」


目の前で始まる、プロの試合。

スポーツとは無縁だった三宅にとって。

それはもう、戦場だった。

ぶつかる、奪う、走る、倒れる、立ち上がる。

たったひとつのボールを巡って、全員が本気だった。


「本日の来場者数は、40,132人となりました。皆様来場ありがとうございました」


4万人が、道枝たちを観に来ているという事実。

小さな子どもも、家族連れも、大人もおじいちゃんも、おばあちゃんも。

みんな夢中になる世界がここにあった。


――これがサッカーなんだ。

――すごい世界だよ。

――道枝くん……


だが、試合は名古屋が苦しみ仙台が逆転。

スタジアムの空気が変わる。


「おい、道枝!! 何回チャンス潰してんだよ!!」


「ったく、あいつダメだな!!」


「早く代えろよ!!!」


ルールを完璧に理解していなくても分かっていた。

道枝が、責められている。

その事実に胸が痛くなる。


――大丈夫かな。


沖縄で出会ったあの人は、こんなプレッシャーに耐えられるようには、とても見えなかった。

でも――目の前に映る道枝は違った。

泥だらけになって、息を切らして。

足が重くなっても、何度倒れても。

それでも、ボールを追い続けていた。

一瞬たりとも、諦める素振りを見せなかった。

まだ“目”だけは、死んでいないと、素人の三宅でも――感じた。


――なんでそんなに……


理解しようとしても、答えは見つからない。

でも――目を逸らせなかった。

その必死さから。

その痛々しいほどの努力から。

その、負けない姿勢から。

胸の奥が、強く揺れた。


――こんなに。

――道枝くんって、強い人なんだ。


試合終了。

結果は1-2の敗戦。

スタジアムに重い空気が流れる。


「負けちゃったね……菜名、どうだった?」


答えなかった。

いや、答えられなかった。

頭の中にはずっと、泥だらけで走る道枝の姿だけが残っていたからである。


ただ、ぽつりと呟く。


「……綺麗」




「ご、ごめん! 聞いてなかった! 早彩、なんだった?」


青木は優しく笑う。

親友のチグハグな返事が、少し嬉しかった。

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