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22/28

何かを、まだ求めてる

―ドイツ ミュンヘン


デュッセルドルフを発ち、次なる舞台はミュンヘンへ。

相手は――ドイツ代表。

インターカップ開催国でありながら、優勝候補筆頭。

7万5千人を収容する巨大スタジアムは、そのほとんどがドイツサポーターで埋め尽くされていた。


空気そのものが重い。

ドイツ1部・サクラゴス所属の赤西智久が周囲を物珍しそうに見まわす。

普段からこの国でプレーしている赤西ですら、この熱量は別物だった。

ふと隣を見ると、いつもと変わらない表情の木村が居る。


「リーベルマンとフォルネンダーの鉄壁ディフェンスでも関係ないって顔してるな、木村?」


「ああ、誰であろうと関係ない。俺たちが、世界一になるんだ」


赤西は小さく笑って、ビッグマウスの肩を叩いた。


「相変わらず、お前は強気だな。だけど……それでこそエースだと思うぜ」


全員が5大リーグの強豪クラブに所属する、ドイツ代表。

その中でも、特に警戒すべき存在が3人いた。


1人目――リーベルマン。

ドイツ代表の守護神。

世界最優秀ゴールキーパーを三度受賞した、世界最高峰のGK。

シュートストップはもちろん、足元の技術も異常に高い。

彼ひとりで、ビルドアップの起点になる。


2人目――フォルネンダー。

屈強なフィジカルと圧倒的対人能力を誇るセンターバック。

ドイツの名門で育った、生粋のエリート。

代表キャップ数120。

まさに絶対的存在。


そして3人目――ハイドフェルド。

かつて中井が所属したボルクブロス出身の25歳。

中井が怪我で離脱した後、そのトップ下に定着しブレイク。

今ではイングランドへ渡り、欧州王者にもなっている。

最大の武器は、どこからでも狙える両足のキック精度。

まさに、世界トップクラスの司令塔だった。


試合前、リーベルマン、フォルネンダー、ハイドフェルドの3人が木村に近づく。


「キムラさん、いいゲームにしましょう」


「もちろん。本気で行くからな」


笑顔と共に、固い握手を交わす。

ワールドクラスの選手同士、リスペクトを忘れない理想的な交流である。


----------


そして――試合が始まった。

序盤から、完全にドイツペース。

スタジアム全体がドイツを後押しする完全なアウェイゲーム。

押し込まれる、走らされる。

それでも――崩れない。

その中心にいたのは、ボランチの平野だった。


危険なスペースを消し、ボールを奪い、試合を整える。

――まさにダイナモ。


時より見せる、日本のカウンターも鋭さはあった。

だが――


「まだまだだね。そんなシュートじゃゴールマウスは割れないよ」


「高さなら日本人には負けない!!」


リーベルマン、フォルネンダーからなる、世界最高峰の壁は、簡単には破れない。


”BOOOO!! BOOOO!! BOOOO!!”


平野が奪い、木村にボールが渡るたびに大ブーイングが鳴り響く。

このスタジアムでの認識は、絶対に倒すべき――”ヒール”。


むしろ――木村はそれを楽しんでいた。


――このブーイング、嫌いじゃない。

――観てろよ、ドイツ人。これが、長年見下していた日本代表だ。

――観てろよ、日本人。これが、トップクラスの試合だ。


「ヘイ!! パス!!!」


ハイドフェルドが叫ぶ。


「させないよ!!」


平野が寸前で潰す。

互いにチャンスを作る。

だが、スコアは動かない。

ただ、時間だけが刻々と過ぎていく。


試合が動いたのは、後半終了間際だった。


「木村っ!!」


平野が鋭くボールを奪い、エースへ供給する。


「ナイスだ、平野さん!!」


一気に前を向く木村。

当然、フォルネンダーが猛然と詰めてくる。


「させるか!!!」


だが――その前に木村は迷わず右足を振り抜いた。

ゴール右隅に導かれる、完璧な軌道。


「しまった……!」


ワンテンポ遅れて、リーベルマンが飛ぶ。


「届かないっ!!」


スタジアムが静寂に包まれた。

その沈黙を切り裂くように吠える東洋人が1人。


「ウォォォォォ!!! 観たか!!!」


やる、やれる。

こいつらとなら――インターカップ、ベスト4。


――いや、優勝すら夢じゃない。


1-0

日本代表、ドイツ代表を撃破。


---


スタジアムには、互いを称える拍手が響いていた。

ルールの中の”戦争”が終わった瞬間だ。

ハイドフェルドはユニフォームを手に、木村へ歩み寄る。


「お疲れ様」


「今日は負けたよ」


だが、その目は負けていない。


「でも、インターカップ優勝するのは僕たちだからね。この借りは本番で返すよ」


真っ直ぐに、そして爽やかに。


「――決勝で会おう」


フォルネンダー、リーベルマンも肩を叩く。


「君と平野のコンビネーションには負けたよ。インターカップ前に、君たちと試合ができてよかった」


「あのシュートは誰にも止められないよ。互いにインターカップで頑張ろうな」


平野は木村の元へ。


「ナイスゴール、さすがはエース。イタリアとドイツに真正面から勝つなんて、俺たちの子供の頃じゃ考えられなかったことができてるよな~」


少し空を見上げる。


「それも平野さんや慎吾さんたちが切り開いた道があるからですよ。でも、その道を確固たるものにするのは――俺ですけどね」


「俺は切り開いて無いけどな……まぁでも、木村はそれくらい強気の方が似合ってるな」


指(・)揮(・)官(・)以(・)外(・)は満足した表情だった。


----------


―ミックスゾーン


試合直後の熱気がまだ残る中、各国のメディアが選手たちを取り囲んでいた。

フラッシュが光り、マイクが突き出される。

その中心にいたのは、やはり木村。


「木村選手!!  お疲れ様です! 今日の試合の感想をお聞かせください!!」


日本メディアの記者が声を張る。

木村は視線を逸らさず、いつものようにぶっきらぼうに答えた。


「見れば分かるでしょ。ガチンコ勝負で勝った。それだけです」


苦笑する記者。


「インターカップメンバー発表前、最後の試合となりましたが――インターカップへの手ごたえはいかがでしょうか?」


「最低でもベスト4。優勝目指せるフェーズに入ってると思います」


その場の空気が変わるような強気で言い切る。

それが”木村らしさ”だった。


「日本のサポーターは、“史上最強の日本代表”と期待が大きいですが?」


その問いには、少し呼吸を整えてから答えた。


「俺が――俺たちが”GOAT”だから」


記者が思わずニヤつく。

だが、答えた男のその目は本気だった。


「ありがとうございました!」


記者たちは満足そうにメモを取りながら離れていく。

いいネタを見つけれたようだ。


---


その一方、全く違う視点でこの遠征を見ている者もいた。


「ハートレー監督、今日の試合を振り返っていかがでしたか?」


質問したのは、髙比良。

向かいに立つのは、日本代表監督 ハートレー。

相変わらず、どこか掴みどころのない笑顔だった。


「非常にナイスなゲームでした。この2試合、レベルの高いチームと試合ができて、僕はとっても嬉しかったです。日本の皆さんにも、結(・)果(・)では喜んでもらえると思います♪」


柔らかい口調で満足そうに答える。

だが――髙比良の眉が、わずかに動いた。


――結(・)果(・)で(・)は(・)?


その言葉が少し引っかかる。


「日本国内では、インターカップ本戦への期待が膨らんでいますが?」


するとハートレーは、首をかしげながら少し空を見上げるようにして言った。


「……う~ん、それなんだけどね、今のままだと厳しいと思うの」


その一言に、髙比良の表情が変わる。


「もちろん強いんだけどね。でも、”最後のピース”が足りないの」



”最後のピース”。

その言葉が、髙比良の頭に強く残る。


「と言うと――決勝トーナメント進出も難しいんでしょうか?」


さらに踏み込む。


「ううん、今でもベスト4は目指せるポテンシャルはあるよ♪」


優しく笑う。

心残りがありそうな、7・8割の笑顔で。


「では現状の日本代表に足りないものをもたらしてくれる選手が見つかれば……?」


「もちろんインターカップ本戦に連れてくよ♪」


迷いなく、そして楽しそうに言う。


「これから2か月くらいは、“最後のピース”を探す旅だね♪」


髙比良は、その言葉を胸の中で反芻していた。


――ハートレー監督は……まだ何かを求めてる。

――普通の人が想像し得ないレベルの……




――なら、もっとワクワク出来そうかな♪


最後のピース。

監督の目には、まだ何かが足りない。

それは誰なのか。

あるいは、どんな存在なのか。

誰もまだ知らない。


----------


日本代表は、デュッセルドルフ のクラブハウスへ戻ってきた。

ナショナルウィークの終わりは、少しだけ寂しさが漂う時間だ。

協会スタッフが手を叩く。


「はいじゃあ皆さん!! これで今回の日本代表遠征は終了です!! 日本帰国組はこのままチームバスへ、海外組はここで解散となります!」


ハートレーも笑顔で手を振る。

相変わらず明るい。


「海外組の皆さん!! インターカップまであと少しです!! それまで、世界のレベルを感じてください♪」


国分が肩をすくめる。


「次にみんなと会うときはインターカップか~さみしいな~」


「まだ、選ばれると決まったわけじゃないから……」


苦笑いする稲垣。

そして木村が口を挟む。


「絶対に結果を残せるように、残りの時間……無駄にするんじゃね~ぞ」




「じゃ~ね~! バイバーイ!!」


大きく手を振る国分に見送られ、国内組を乗せたバスが、クラブハウスを後にした。

残ったのは、欧州クラブでしのぎを削る海外組。


「じゃ、自分たちも行きますか」


それぞれが、それぞれの場所へ戻っていく。


インターカップまで、あと少し。


---


国内組がヨーロッパトレセンを離れた後、海外組もまたそれぞれのクラブへ合流するため移動を始めた。

木村は、同じイングランドでプレーする長瀬と共にロンドンへ。

前の席では、長瀬がアイマスクをして完全に爆睡している。


――相変わらずだな。


木村は呆れながら、タブレットを開いた。

各国リーグのハイライト、戦術分析動画、動画投稿サイトのプレー集を見るいつものルーティン。

その中で、ふと思い出す。


――あいつら、あんなこと言ってたな……


少しだけ気になって、スポーツ配信サービス”JAZN”を開く。

検索欄を叩く、スクロール、そして探す。


――フルの動画、まだ消えてないよな?


指を止める。


「……お、あった。これか」


タブレットに映し出されたのは、日本国内のある試合。

そのまま、静かに見つめる。

最初はただの興味だった。


「ホントだ…初めて見るな……」


だが数分後――その目が変わる。

酷いプレーばかり見せられたはずなのに、心は熱い。


「……一緒にプレーしたいな」


その言葉は、なぜか自然に出る。


「これが完成すれば――監督の言う“最後のピース”になれるだろうな……」

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