胸に突き刺さる、”家族”の声
ASリーグ第3節 名古屋モトーレ対マサムーネ仙台
―名古屋スタジアム
試合はすでに終盤へ差しかかっていた。
「さぁ試合も終盤に差し掛かってきました! 昇格組の仙台が苦戦するかと思われましたが、現在2-1とリードしております!」
中野アナの実況が、放送席に響く。
「布川さん、ここまでの展開どう思われますか?」
「そうですねぇ。先制点を横尾選手が取った時は、このまま名古屋ペースで進むとは思ったんですけどね~」
解説の布川が、少し苦い声で続ける。
「やりたいことをやれてるのは、完全に仙台ですね」
「仙台のここまではいかがでしょう?」
「攻撃のスイッチの入れ方が上手いですよね。切り替えが速い、名古屋はそこにずっと後手を踏んでます」
苦しい時間が続く。
連敗目前の名古屋スタジアム――空気は重い。
「このままホームで連敗を喫してしまうのでしょうか!?」
「この状況でも草彅監督は変わらずベンチで落ち着いてますし……正直、まだ狙いが見えてこないですね」
ゴール裏からは、心を込めた声援。
「名古屋〜 共に〜旋風巻き起こそう〜 その気流に乗って、前へ進もう〜」
その歌声が、余計に胸を締めつけた。
「アディショナルタイムも残りわずかです! さぁ中井がボールを持った!」
「時間的に、これがラストワンプレーですね。決められるかな~?」
スタジアム全体の視線が、中井に集まる。
「さぁ中井が持ち上がります! 攻撃を繋げられるか!?」
――ここだ。
右足を振り抜く。
”あぁぁ……”
「いや~! 道枝へのパスはカットされてしまいました~!」
一瞬で、希望が消えた。
スタジアム中に溢れる――ガッカリ感。
そして――試合終了。
「ASリーグ第3節、名古屋モトーレ対マサムーネ仙台の一戦は――1-2! マサムーネ仙台の勝利となりました!!」
”BOOOO!! BOOOO!! BOOOO!!”
終了の笛と同時に降り注ぐ、ブーイングの雨。
「名古屋サポーターからのブーイングがすごいですね~名古屋がまさかのリーグ開幕3連敗となりました。 布川さん、名古屋が開幕で3連敗するのは、初めてのことらしいです!」
「……嫌な記録、作っちゃったねぇ」
開幕3連敗。
その言葉の重さが、何より苦しかった。
「ズバリ、この名古屋の原因はなんですか?」
「攻守のスイッチの切り替えが上手くいってないですよね。スペースを作りたいのに、逆に作られてしまう。せっかく横尾を補強したのに、ボール供給ができない。草彅監督の狙いは慎吾を一列下げて、より攻撃的にすることだと思うんですけど……攻撃も守備もチグハグで、かなり狙われてましたね。簡単に剥がされて、2失点とも関与してしまいましたから」
「では、中井選手が名古屋の穴だったと?」
「…慎吾が不安定なことは否めないです。日本に復帰して以降、トップ下でのパフォーマンスはあまり良いものではなかったから、なんとかボランチで再起してほしいってことだとは思うんですが……以前の様な俊敏性もありませんから動きが読めて、尚且つ特徴を出すことが出来ませんでしたね…」
名古屋OBではないためか、中井の出来に容赦がない。
布川は、日本代表で自身のポジションを奪った後輩の”老い”を痛いほど、感じていた。
そしてその矛先は――別の人物に移る。
「正直、道枝君に経験を積ませたいってことだと思いますけど、世代別代表のスーパールーキーでもなかなか1部で出場機会は得られないですからね~ 2部や3部へレンタルされる選手も多いですし、やっぱりいくら若手を育てたいとしても、試合に勝たないと意味ないですからね~」
「布川さんありがとうございました。おっとここで、名古屋の選手がゴール裏へ挨拶に行くようです」
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言い訳なんて、ひとつもできない完敗。
マサムーネ仙台は昨季、2部を2位で終えて昇格してきたチーム――下馬評では降格候補。
そんな相手に、ホームで敗れた。
しかも開幕三連敗。
サポーターのフラストレーションが爆発しないはずがなかった。
”BOOOO!! BOOOO!! BOOOO!!”
ゴール裏を見る。
真っ赤に染まったスタンド。
90分間、俺たちのために戦い続けてくれた人たち。
その全員を、裏切ってしまった。
――どう応えればいい。
――何を言えばいい。
足が重い。
「おい!! お前らふざけんなよ!!!」
「2部に落ちたいのかよ!!」
「何が優勝だよ!!」
全部、正しい。
だから――逃げられない。
「みんなっ……み、みんな……」
サポーターの怒号が声を打ち消す。
「お前ら、落ち着け! 落ち着け!」
土岡が前に出て、なんとか場を抑える。
そして、コールリーダーのトラメガが差し出された。
「あ、あ、聞こえるかな……サポーターのみんな、不甲斐ない試合で申し訳ない」
「いい加減にしろよ!!」
当然の反応。それでも、続けるしかない。
――想いは”一緒”なはず……
「相手がどうとかじゃなくて……俺が悪いんだ。次こそは、みんなに喜んでもらえるように――」
「次こそはって!! 次はいつなんだよ!!!」
また言葉が刺さる。
「中井!! お前ボランチでミスばっかじゃねぇか!!! そのコンバート、お前の延命措置かよ!!!」
「昔は活躍してたらしいけど、名古屋に戻ってから全然じゃねぇか!!」
「若い俺たちは、お前のすごい時代なんて知らねぇんだよ!!」
「チームを愛してるって言うなら、自分が足引っ張ってるって分かれや!!」
「動けねぇなら――”終わった選手”なら、潔く辞めちまえよ!!」
――そうか、若いサポーターは、俺の全盛期を知らない。
いや、知らないんじゃない。
見せられていない。
それが現実だ。
――何も返せない。
――何も、間違っていないから。
その横では、横尾が”勝ち誇った顔”をしている。
「草彅監督のサッカーは時代遅れなんだよ!! 優勝したの10年くらい前だろが!!」
「誰でもいいからボランチを補強しろや!! フロントの責任も大きいだろ、長野出てこい!!」
「なんでボランチの補強してねぇんだよ!! 藤島が移籍したのにそのままとかバカかよ!!」
「早くムカイ自動車に頼んで、補強のお金回してもらえや!!」
ここまで状態が悪いと、批判の的は選手だけではない。
準備を怠った、監督、コーチ、フロント、その全てが批判対象である。
「慎吾、お前の持ってるトラメガ、貸してくれないか」
珍しく、監督が前に出た。
「あ、あ、サポーターのみなさん。今日は来てくれてありがとうございました」
「勝たせる気ねぇなら辞めろ!!」
「優勝させるって言っただろ!!」
怒号。
それでも草彅は、一切揺れなかった。
「今日勝てなかったことは、申し訳なく思います。それでも問題ありません。私たちは変わらず、優勝できると思っています」
ざわめき、怒りがまた膨らむ。
「嘘つけよ!! こんな試合しておいて!!」
「ホントですよ。キャンプで、チームに必要なものは得られました。あいつらは、誰ひとり諦めてません」
「なら――”証拠”を出せよ!!」
「キャンプちゃんとやったって証拠を!! このままでいいって証拠を!! 優勝争いできるって証拠を!!」
その言葉が、胸に残る。
「では、君たちも――“証拠”を私たちに見せてくれますか? このクラブを愛し続けてくれているという、“証拠”を」
スタジアムの時が止まる。
誰も、すぐには返せなかった。
「どんな時も、クラブのためにあいつらは戦っています。だから、そのあいつらにリスペクトを持って、エールを送ってほしい」
沈黙。
「……分かったよ」
「選手のみんな、ごめん。これからもエールを送るから……だから、頼むよ……」
望みと言うより、懇願だ。
草彅は少しだけ笑って頷く。
「えぇ。君たちのエールは、確実に届いています。それを無碍にするようなチームは作っていません。いつも、ありがとうございます」
口下手な監督の、言い慣れていない感謝の言葉。
「少し負けが先行していますが、これも想定内です。全部勝てるとは、最初から思っていません。それでも――最終的に輝く星を掴んでいるのは、ここにいる皆さんだと思っています」
草彅の視線が、スタンドを貫く。
対するサポーターの応えは――”信じる”ということ。
「信じるよ~ どんな時も、そばに居るよ~ どんな時も、いつだって 共に闘おう~」
胸が、痛かった。
キャプテンなのに。
チームを引っ張るどころか、足を引っ張って。
監督にまで、守られて。
俺――キャプテン失格だな。
ただ、俯くことしかできなかった。
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―その後
ASリーグ第4節
アウェイでのフルーヴ磐田戦。
1-0
今季初勝利。
ASリーグ第5節
ホームでの清水サエッターレ戦。
2-2
ホームで今季初の勝ち点。
連敗ストップも、依然調子が上がらないままの名古屋。
サポーターの不安は拭えないまま、代表ウィークによる中断期間を迎える。




