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15/28

挫けずに、頑張れるだろうか?

序盤の主導権を握ったのは名古屋だった。

香取のボール奪取から、村上のボールキープ、横尾のラストパスと繋げて最後は――デ・フリース。

オフサイドとなるも、ゴールネットを揺らしたシュートは観客を沸かせた。


「…ッチ、オフサイドじゃねぇだろ…」


横尾が吐き捨てる中、中井は声を出して仲間を盛り上げる。


――いける、ちゃんと戦えてる。


少しだけ、選手たちには手応え――だが、そう簡単じゃない。

守備の連係ミスから、鹿島ボールのコーナーキック。


守護神の森の声が飛ぶ。

当然、キャプテンの中井も叫ぶ。


――準備さえすれば、守れるはずだ……


叫ぶのは選手だけではない。

ゴール裏のサポーターも、土岡によって叫びだす。


「ピンチだ! お前らしっかり声出して、気持ち伝えるぞ!!」


そして――笛が鳴ると、ボールが高く上がる。


どこだ、どこに来る。

頭を越えてくるのか。

後ろには、誰もいないはず――いや、いない。

マークしていたはずの亀梨が――い(・)な(・)い(・)。


中井が振り返る。

そこには、綺麗なフォームで空を飛ぶ亀梨の姿。


一瞬でスタジアムの音が消える。

静寂の後に押し寄せた――現実。


失点に、中井は立ち尽くした。

すぐに中井を鼓舞するのは森だ。

天を仰いだ横尾は苛立ちを隠さない。

落ち着かせるため、間に入る香取。


「まだまだこれから!! 逆転するぞ!!」


ゴール裏からも声が飛んだ。


――そうだ、まだ1失点。まだ終わってない。


仲間のおかげですぐに切り替えることができた。


それでも――

想像以上に名古屋の完成度は低く、そして鹿島のサッカーは完成されていた。

幾度となく訪れるピンチに防戦一方。

だがなんとか追加点を防ぎ、前半を終える。


スコアは0-1


重い空気のまま、ロッカールームへ戻った。


----------


「何やってんだよ、あの守備!」


いきなり横尾の怒声が響く。

流れの中での失点はなんとか防げているため、大野が睨み返す。


「それより、攻撃どうにかなんないんすか?」


「うるせぇ、亀梨が邪魔なんだよ……」


「じゃあ、守備陣(こっち)と大して変わらないじゃないですか」


空気が一気に悪くなる。


「は? 失点しなかったら亀梨の守備なんて崩せてたわ」


「――結局、口だけで言い訳かよ」


「こんな守備陣だから、ずっと降格争いしたんだろうが!!」


最悪の゙展開(チーム崩壊)が頭に浮ぶ。

中井は失点した張本人として、そしてチームをまとめる人間として、話さなければいけなかった。


「2人とも、落ち着いてくれ。失点は俺のミスだ、すまない。だけどこの試合は、俺たちのスタート地点に過ぎない。前半は失点したけど、それは俺たちが、自分たちのサッカーを見つけるための過程だと思う」


ハーフタイムにもかかわらず、サポーターのチャントが聞こえる。


「今一度、全力を尽くして――サポーターに喜びを届けようよ」


その言葉で、沈んでいた空気が少し戻った気がした。


「……はいはい、頑張りますよ。俺は残留争いなんて、嫌なんでね」


「……すいません。少し、熱くなりすぎました」


吐き捨てる横尾と、冷静になる大野。


――かっこ悪いキャプテンだ。


全てを眺めていた草彅が、静かに一言。


「今の慎吾にしちゃ、いい言葉だと思うよ」


その一言に、少しだけ救われた気がした。


「後半は少し戦術を変えてみようか。横尾は位置を少し下げて、ボールを引き取れるように。そして大野、セットプレーのマークはお前さんが再確認するように。それと――道枝君、後半開始10分で入りましょうか。前線に勢いをもたらすことを期待してますよ」


背筋をぴんと伸ばしたまま、返事をする道枝。

緊張、興奮、不安、全部が混ざった声だった。


中井はそっと、手を置く。


「お前なら大丈夫だ。思い切りプレーしてこい!」


草彅も続く。


「今日の試合がどうだって、死ぬこたぁないんだから好きにやりなさい。点取られたからって、バタバタしなさんな」


それだけだった。



ハーフタイムが終わり、サポーターの大歓声の中でそれぞれのポジションにつく。

中井はボールを手に取り、仲間たちを見渡した。


――ここからだ。


----------


スタンドには、力の限り声を出す茉優と大吾の姿。

そして信じて慎吾の背中を追っている美帆がいる。


土岡も、逆転を信じてゴール裏を煽る。

サポーターの声が、一段階大きくなりスタジアム全体が揺れる。


「2ndハーフ、キックオフ!!」


ヒロミの合図で――また"戦争"が始まる。


「マーク! マーク! 右切って!」


「中央、寄せに行って!!」


「ディフェンスライン上げるぞ!」


「中井さん、プレス!!」


全員、必死だった。

集中を切らさずに、鹿島ディディアーズに食らいつく。

そうこうしているうちに、予定の時間になった。


「選手の交代をお知らせします。名古屋モトーレ、ミッドフィールダー辰巳に代わりまして――道枝~ 紫耀!!!」


道枝の名前を呼ぶ大歓声。

プロ初出場の瞬間だ。


「これが、プロのピッチっすね……」


喉が乾き、震えているのが分かる。

その震えを、中井はちゃんと分かっていた。


だからこそ――笑顔で受け入れる。


「一緒に盛り上げていくぞ!!」


「はいっ!!」


フレッシュなエネルギー。

スタジアムの空気も変わる。

追い上げムード。


――いける。


そう思った矢先、サッカーの神様は残酷な仕打ちをしてくる。


「道枝!! 横尾のカバー!!」


「う、うす……!」


「中井!! コース塞げ!!」


――だめだ。間に合わない。




痛恨の2失点目。

ため息が漏れだすスタジアム。


「まだだ!! まだこれから!!」


中井と土岡が同様に叫ぶ。

チームとしては、誰一人諦めていない。

しかし――無情にも、終了間際に3点目のゴールネットが揺らされた。


0-3


優勝を目指す名古屋モトーレにとって、現実を痛感させられた開幕戦となった。


「はぁ……はぁ……」


膝に手をつく。

呼吸が苦しい。

身体より――心(・)が(・)重(・)い(・)。


「何も……できませんでした……」


感じる必要のない責任感を、プロ初出場の道枝に抱かせてしまった。


---


試合後、亀梨を中心に鹿島ディディアーズの選手たちと挨拶を終える。

次に向かうのは――ゴール裏。

大敗の後、一番行きづらい場所である。


「今日の収穫は――慎(・)吾(・)の(・)守(・)備(・)だ(・)な(・)」


草彅がぽつりと言った言葉は、悪い意味にしか聞こえない。

長野が肩を叩く。


「慎吾、お疲れ様。残念だったな」


「こちらこそ、すまない。期待した動きができなくて」


長野は首を振った。


「気にするな、まだ始まったばかりだからな」


その声は優しかった。

そして、少し笑う。


「さあ、一緒にゴール裏行こうか」


逃げずにちゃんと向き合うことが、今の自分にできることだった。


----------


―ゴール裏


「今日は残念だった!! まだ、たった一つだ!! 今度こそ頼むぞ!!」


「名古屋!!  名古屋!!  名古屋!!」


ブーイングは、ひとつもない。

責める声もない。

ただ前を向けと言ってくれる。

背中を押してくれる。

それが――名古屋のゴール裏である。


「ほら、うちのサポーターは、みんなもう次を見据えてるぞ」


長野が笑う。

互いに信じているから、落ち着いていられる絆。


だからこそ――応えたかった。


想いとは裏腹に、不安が脳内を駆け巡る。

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