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第27話 わかっていただけるまで話さなきゃ。

 ユンカは半ば一人言のように付け加えた。


「普通は、あるじと『喧嘩』なんてしないよね。友達じゃないんだから」


 喧嘩しちゃった。

 あの日、シャナラの部屋から帰ってきたルルタは、溢れ出る涙で顔をぐしゃぐしゃに濡らして二人の前でそう言った。


 どうしてシャナラは自分の気持ちをわかってくれないのか。

 ただシャナラのそばにいて力になりたい。それだけなのに。

 頑固だとは知っていたけれど、あんなに頑固だとは知らなかった。

 何が「自分の身は自分で守れる」だ。

 それなら、あんな消えそうな寂しそうな顔をするな。

 シャナラさまのバカバカバカバカ、意固地、わからずやーーーーっ! わぁああああん。


 部屋を訪れた二人の前で、ルルタは延々とシャナラの文句を言いながら泣き叫んだ。


「『主の影でいろ』なんて、しょせんルルタには無理なのね」


 キラは大仰な仕草で肩をすくめる。

 本人は半ば呆れ半ば皮肉を込めて言ったつもりなのだろうが、その表情は柔らかく、ルルタを見る眼差しは優しさを含んでいる。

 その時、二人の視界の端に背の高い凛とした佇まいの女性の姿が映った。


「マーリカさま」

「しっ! ユンカ、仕事に戻るわよ」


 キラとユンカは、今の今まで仕事をしていたような様子で花瓶を磨いたり、壁にかけられたタペストリーの位置を直したりする。

 マーリカは姿勢を崩さないまま、真っすぐにルルタの下へ向かった。


「ルルタ、たった今、寵妃さまが後宮に戻られました。あなたを呼んでいます。身支度を整えたら、すぐにお部屋へ向かうように」

「戻られたんですか?」


 喜びと狼狽を混ぜ合わせた表情になったルルタを、マーリカは一瞥する。


「ルルタ、聞こえませんでしたか? 私はあなたにすぐにこの場を離れて、寵妃さまのお部屋へ向かうように言いましたよ」

「申し訳ありませんっ、すぐに行きます」


 ルルタは勢いよく茶色の頭を下げると踵を返す。

 小走りになりながらキラとユンカがいるほうへ視線を向けると、ユンカが「頑張って」と言いたげに両の拳を胸の前で握り合わせているのが見えた。

 ルルタはそちらへ軽くうなずき返すと、髪の毛や衣服の乱れを手早く整えながらシャナラの部屋へと向かった。



16.


 小半刻後、ルルタはシャナラの居室にやってきた。

 後宮に戻るなり呼んでもらえたことを嬉しく思う反面、シャナラがどんな様子かわからない不安もある。

 いさかいをした時のシャナラの怒りの激しさを思うと、今日も叱責しっせきされるかもしれない。

 だがルルタの中には、譲れない思いがある。

 シャナラが誰にも傷つけられないよう、いつか必ず故郷に帰れるよう、自分の持てるすべての力を使いたい。

 どれほどうとましく思われ疎んじられようと、その気持ちを譲るつもりはなかった。


(怒られてもいい。わかっていただけるまで話そう)

「シャナラさま、ルルタです。お呼びと伺い参りました」


 繊細なレリーフが彫られた扉に向かって、ルルタは声をかける。

 返事はなく密やかな沈黙が広がったが、何故かルルタには室内にシャナラがいることがわかった。

 どこか沈んだ様子のシャナラは、ルルタの声を聞くと静かに顔を上げる。憂いを帯びた表情でジッと扉を見つめるが、やがて意を決して唇を開く。

 その姿が目に見える。

 そう思った瞬間、声が耳に届いた。


「入れ」

「失礼いたします」


 ルルタはギュッと拳を握りしめ扉を開けた。


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