和解
色々と狸のせいで振り回されたスイたちだったが、何とか一か月ほどでいつも通りの日常を取り戻した。
「スイよ。あまり前に出るようなことはするな」
「またですか、天狗様! 私は大丈夫です! ほら、早く行きますよ!」
「しかしなぁ……」
まだまだ天狗の過保護は抜けない。
スイはそんな天狗を軽く流し、仕事を続けていた。
そんなある日、二口女が忘れていたことを思い出したように、スイへ伝えた。
「スイ様。狸事件で色々ありましたが、来週お客様が予約しております」
「お客様が来るのね! どんな方かしら?」
「サトリ様です」
「さ、サトリ様ですか? もしかして、人の思考を読めることで有名な?」
「はい」
スイは、サトリがこの旅館を訪れたところを見たことがない。
そのため、二口女が少し顔色を悪くしている理由がわからなかった。
「もしかして、思考が駄々洩れになるのが怖いの?」
「そういう訳ではありません。サトリ様は、誰彼構わず思考を読むわけではありませんから」
「それなら、なぜそこまで顔色が悪いの?」
「……少々、天狗様との相性が、あの……」
二口女の言葉に、スイは天狗の部屋へ向かった。
――あの天狗!! 私に話さないと言う事は、また一人で抱えようとしているんだな!!
額に青筋を立てながら走り数秒後、天狗の部屋にたどり着いた。
襖の前に立つと、中から話し声が聞こえる。
――この声、黒緋さんと天狗様?
聞き耳を立てるのは良くない。
そう思いつつも、気になってしまう。
――変なタイミングで入るより、少し様子を見て入った方がいいよね。ということは、中の会話を聞かないとタイミングがわからない。
スイはにやりと笑い、襖に耳を当てた。
『本当に参りましたよ。何かあれば助けてくださいね、黒緋さん』
『大丈夫だ。いつも通り流せばいい』
『それが出来れば苦労しませんよ……』
どうやら悩み相談らしい。
天狗が人に悩みを打ち明けるのは、珍しい。
今回、それほどまでに天狗が苦手とするお相手なのかと、スイは自然と体に力が入る。
それと同時に、好奇心が沸き上がる。
――もっと、聞きたい。
ぐいっと身を乗り出した瞬間、ガタッと音を立ててしまった。
その音に反応すると同時に、襖が勢いよく開かれる。
「わっ!!」
バランスを崩し、倒れかけたスイ。
だが、ぽすっと誰かに受け止められる。
「何をしていた?」
低く、地を這うような声が上から降り注ぐ。
スイの身体が強張り、顔を上げられない。
けれど、何か言わなければならない。
シュパッと視線を整え、目線を泳がせながら口を開いた。
「て、天狗様がお悩みと聞き、何かお力になれないかと思ったまででございます!!」
敬礼しながら必死に説明する。
体はがたがたと震えている。
「おーおー。いいじゃないか!! 中に入ってゆっくり話そう! がはははは!」
黒緋の豪快な笑い声に、スイはゆっくり目を開ける。
最初に映ったのは、困り果てた天狗の素顔だった。
「あっ」
「どうした?」
「今日は、鴉のお面を付けていないんですね?」
「あぁ。もうそろそろ、卒業しようかと思ってな」
天狗が振り返ると、テーブルの上に鴉の面が置かれている。
「……なぜ、鴉の面を付けていたのですか?」
以前は断られた問い。
今回もそうだろうと思いつつ、スイは聞いた。
「…………」
すぐに断られると思っていたスイは、思案する天狗に驚く。
「もう伝えていいんじゃないか? 隠すことでもないだろう。それとも、俺が話そうか?」
鶴の一声というように、黒緋が言う。
「俺が話す」
天狗はテーブルの前に座った。
「――俺は、ただの怖がりなんだよ」
「怖がり、ですか?」
「俺は、自分の仲間だった天狗を殺した。それ以降、周りは俺の顔色を窺うようになった。それが胸糞悪かった」
スイは、相槌すら打たず静かに聞く。
「だから、顔色を悟られないように鴉の面を付けた。これはシイ様の助言だ」
「父様が?」
「俺が人と目を合わせて話せないことを察して、面をくれた。それからずっと宝物のように付けていた」
天狗は鴉の面を手に取る。
スイは柔らかく微笑んだ。
「それなら、無理に外さなくても……」
「いや、これは甘えだ。もう克服しなければならない。過去の自分と今の自分を切り離さなければならない。お前のようにな」
「私、ですか?」
「今回の件、お前は自分で道を作り、解決しただろう。あれは本当に格好良かった。逞しく見えた」
言いながら微笑む天狗に、スイの心臓が高鳴る。
「わ、私は何も……! 天狗様がそうお考えなら、全力でお助けいたします!」
「声がでかい」
「すいません!」
こつんと頭を叩かれる。
「今まで悪かったな。これからは経営者として、一緒に頑張ろう」
差し出された手。
スイは満面の笑みで握り返す。
「はい! よろしくお願いします!」
二人が笑い合う。
黒緋は「やっとか」と肩を落としながらも、どこか嬉しそうだ。
その時、廊下から慌ただしい足音が聞こえてきた。
「玄様!! サトリ様がいらっしゃいました!!」
その言葉に、天狗の顔から一瞬で笑みが消えた。
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