これから
天狗はスイと黒緋と共に、お客様を出迎えるため玄関へ向かった。
そこには、二口女とろくろ首を捕まえて話し込んでいる一人の青年がいた。
「おい、何をしている、サトリ様」
三人の姿を確認した天狗は、すぐに二人を救い出すように声をかけた。
すると、二人に釘付けだった青年が、ゆっくりと顔を上げた。
「おやおや。開口一番に、ずいぶん素敵な言葉をかけてくれるじゃないかい、天狗ちゃん?」
優しく、温かみのあるテナーボイス。
顔を見ようとしたスイだったが、それより先にろくろ首と二口女は目に涙が浮かんでいることに気づく。
その姿を見た瞬間、スイは頭に血が上った。
床を蹴り、誰よりも早く駆けだした。
「ちょっと! 何をしているのですか、お客様! こちらの旅館では従業員も大切にしております。悲しませたり困らせたりする行為はご遠慮願います!」
ばっと二人の前に出て、守るように両手を広げる。
「おやぁ? これは面白い人間だねぇ。お客様相手にも威勢がいい。大したものだ」
青年を見上げた瞬間、スイは目を見開いた。
空色の柔らかな髪は腰まであり、一つに結ばれている。
色白の肌に、藍色の瞳。人間界で暮らしているのか、肩の出るパーカーにジーンズというラフな格好だ。
だが、その装いでも隠しきれないほど顔立ちは整っている。
――わぁ、綺麗な人。誰だろう。
スイは思わず見惚れる。
すると、青年は口を横に引き延ばし、クスクスと笑った。
「綺麗な人だなんて、それは嬉しいねぇ」
「え、な、なんで? 私、口に出していましたか?」
スイは自分の顔をぺたぺた触る。
青年は彼女の様子に、またしてもくすくすと笑った。
「顔にも口にも出していないよ」
「え、じゃあなんで……?」
青年は答えず笑うだけ。
天狗が深いため息を吐いた。
「そいつがサトリだ。今回のお客様だ」
「――え?」
聞いてはいたが、こんなにも早く対面するとは思っていなかった。
予約は来週のはず、と。
スイは困惑しながら天狗を見た。
「こいつの場合は、予約を当てにしてはいけない。開いている時に乱入してくるのだ。九尾様も、サトリだけは敵に回したくないのか、素直に入れてしまう」
「あの、九尾様ですら、なんですね……」
スイは困惑しつつ、笑みを浮かべているサトリを見た。
瞬間、今の状況を思い出し、顔を真っ青にし腰を折った。
「す、すみません! まだお出迎えの準備が整っておりません。すぐにご用意いたしますので、お部屋でお待ちいただけますか?」
「わかった、大丈夫だよ。玄が一緒ならね」
――え? 天狗様が一緒に?
天狗を見ると肩を落とし、黒緋に慰められている。
――こんな天狗様、見たことがない。
サトリは楽しげに笑っている。
――黒緋さんに助けを求めていたのは、こういうことだったんだ。サトリさんは食えないタイプのあやかしだ。覚えておこう。
「そこは覚えなくていいよ、人間」
サトリに思考を読まれ、スイの方が勢いよく上がる。
「やっぱりサトリって怖い!!」
スイの叫びに、サトリは楽しそうに笑った。
その後は、いつも通り客をもてなした。
少し待たせてしまったが、その間は天狗が相手をしていた。
からかわれながらも、黒緋に助けられつつ接待を続ける。
慌ただしい一日が終わろうとした時、スイのもとへ重要な報せが届く。
「スイの嬢ちゃんよ、朗報だぞ~」
「どうしたのですか? 貴方が私達に放り投げたお客様のせいで、今は少し忙しいのですが?」
「随分なおおようだなぁ。まぁ、いい。今すぐ伝えたいことがある、いいだろ?」
「な、何でしょう?」
九尾の言葉を聞いた瞬間、スイは目を見開き、駆け出した。
天狗も追いかけようとするが、黒緋が制止する。
まだ接待中だ。ここで抜けるわけにはいかない。
だが、サトリが静かに言った。
「行かせなさい。自分の命の恩人が目を覚ましたのだ。行きたいに決まっているだろう?」
黒緋は大きく目を見開く。
走り去る天狗の後姿を見て、優しく微笑んだ。
「――長かったな。ここからは、昔のように……いや、昔以上に賑やかで楽しい旅館になる」
「そうだねぇ。私も楽しみだ」
スイと天狗は旅館を後にし、病院へ向かった。
スイの両親が目覚めた、その病院へ――。
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