解決
「た、狸??」
気絶しているらしい狸は、目をぐるぐるさせている。
「な、なぜ狸?」
「こいつは化け狸だ。おそらく、殺気も何も感じなかったから、九尾様も見逃し、侵入を許してしまったのだろう」
黒緋の説明を聞き、スイが九尾を見ると、気まずそうに顔を逸らしている。
口笛を吹いているあたり、反省の色がないのは明らかだった。
「はぁ……まぁ、確かにまるっきり悪意はありませんね」
黒緋の手に握られた狸は、見た目は可愛いマスコットのような姿をしている。
この姿では、油断するのも無理はない。
じっと見ていると、狸が目を覚ました。
水色の瞳と目が合う。
「あっ」
「起きたな」
天狗も近づき、狸の顔を覗き込む。
周りはスイを除けば皆あやかし、それも実力者ぞろいだ。
それが分かったのか、狸は体を大きく震わせた。
逃げ出そうと暴れるが、黒緋がしっかりと掴んで離さない。
子供と大人以上の体格差があるのだから、少し暴れたくらいで逃げられるはずもなかった。
「あの、狸さん。どうしてあんなことをしたの?」
「~~!! ~~~~!!」
暴れるだけで何も言わない。
言葉が通じないのかと思い、スイは黒緋を見る。
「おそらくだが、言葉は通じている。ただ、話せないのだ。変化中も話さなかった」
「確かに、言葉は発していませんでしたね」
襲ってきた天狗も、何も話さずに襲いかかってきた。
話さなかったのではなく、話せなかったのか。
「でも、そうなると困りますね。本当に悪意があったなら、少し考えなければなりません」
「そんなもの、簡単だろう」
天狗は九尾を見る。
再び顔を逸らす九尾だったが、視線に耐えきれずため息を吐いた。
「仕方がないなぁ。今回だけだぞ」
「今回は天狗様のミスでもありますから、償いとしてお願いします」
「……へいへい」
九尾は暴れる狸を睨む。
「黙れ」
「~~!?」
狸は九尾からの視線に恐怖し、硬直した。
その隙に九尾は手を伸ばし、狸の頭に触れる。
淡い光が狸を包み込んだ。
「何をしているのですか?」
「思考を読んでいる」
「そんなことも出来るのですか?」
「九尾様は普段は適当だが、力だけは本物だ。この旅館を潰せるほどの力を隠し持っているぞ」
「え……」
スイが青ざめると、九尾が苦笑する。
「変なことを言うな。そんなことはせん」
肩を落としつつ言った。
「こいつに悪意はなかった。ただ、いつも意地悪をしてくる狸たちを少し見返したかっただけらしい」
「そんな理由で、旅館に?」
「らしい」
気を取り戻した狸は、再度暴れ出す。
そんな狸に、スイは顔を近づけた。
「狸さん、いじめられて辛かったよね。でも、それを理由に他の人を困らせてはだめ」
優しい声に、狸はおとなしくなる。
目には涙が浮かび、今にも零れ落ちそうになっていた。
「少しでも見返したいって思うよね、わかるよ。でも、その行動は一歩間違えれば取り返しがつかない」
頭を撫でながら続ける。
「でも、狸さんの力はすごい。私たち、負けそうになった。九尾様の狐火まで再現できるなんて、本当にすごい」
今度は狸の両手を握り、微笑む。
「その力、もっと別のことに使えるよ。ねぇ、この旅館で働かない?」
その言葉に、周囲が驚く。
「何を言っているのです、スイ様!」
「さすがに賛同はできんな」
黒緋と九尾が言うが、天狗は黙っていた。
スイは黒緋たちを見て、再度口を開いた。
「確かに、そう言われても仕方がないと思います。それに、罰も必要だとは思います。でも、この子は悔しかっただけ。力がないと否定され、存在すら認められなかったのかもしれない」
天狗が目を見開く。
「でも、この子は殺さなかった。私を狙えば簡単だったのに。それもしなかった。優しいからです」
スイの言葉が理解出来た狸は、縁に溜まっていた涙が零れ落ちた。
「認めてほしかっただけだよね?」
狸は黒緋の手から抜け、スイに抱きついた。
「私の力になってくれる? 一緒に旅館を守ってくれる?」
大きく頷く狸。
「天狗様、いいですか?」
「決めた後に聞くな。断れないだろう」
「すいません……」
天狗の言う通りだと、少し落ち込み肩を落とした。
「今回はお前の判断に任せる」
「いいんですか?」
「あぁ。過保護は、もうやめる」
スイは顔を輝かせた。
「やったぁぁぁぁぁ!!」
黒緋と九尾は顔を見合わせる。
「何かあったな」
「まったく……。面倒に巻き込まれたなぁ」
九尾は愚痴をこぼしつつ、歩き出す。
「もう行くのですか?」
「ここにいても面倒だろう」
肩越しにスイと天狗を見る。
楽しそうに笑う二人に、九尾もつられて笑った。
「今だけだぞ、天狗よ。この後、地獄が待っているからな」
その呟きは黒緋にだけ聞こえた。
振り向いた先には、いたずらっ子のような九尾の顔。
黒緋は苦笑し、スイたちを見る。
「頑張れよ、玄よ――……」
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