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人間スイとあやかし玄が営む妖癒旅館―人とあやかしが共に生きる、もう一つの世界―  作者: 文月朔夜
偽物と真実

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告白

「ぶっ! 痛いですよぉ~」


「痛いですよぉ~、ではない! なんだ急に。何を考えている!」


 珍しく声を荒らげる天狗を見て、スイは顔を押さえながらも「かわいい」と思ってしまう。


 童顔で幼い顔立ちの彼が、照れて慌てている。

 頬も赤くなっていて、スイは笑いを堪えきれない。


「可愛いですね、天狗様」


 にこりと微笑みながら言うスイに、天狗の中で何かが切れた。


 がしっとスイの頭を掴み、ぐりぐりと力を込める。


「いだだだだだだだだだ!! 見た目から想像できない力ぁぁぁぁあ!!」


「見た目で判断するのは感心せんな」


「すいませんすいませんすいません!!」


 涙目で訴えるスイに、天狗はようやく手を離した。


「まったく……」


 頭を押さえて呆れる天狗を見ながら、スイはまだ痛む頭を撫でつつ微笑む。


「先ほどの質問の答えですが、私は天狗様を怖いと思っていました」


「…………」


「ですが、それは天狗様が、いつも私を後ろに押し込めるからです」


「っ、押し込める?」


「はい!」


 頬を膨らませながら、スイは続ける。


「いつも私を部屋に閉じ込めたり、仕事をしようとすると悪態をついて取り上げたりするじゃないですか!」


「奪っているつもりは……」


「奪われているんです、私は! 何か言えば倍になって返ってくる言葉も、正直怖かったです。でも、あやかし殺しだからとか、力が強すぎるから怖いとか、そういう意味ではありません。今の話で初めて知ったことですし」


 素直な言葉に、天狗は気まずそうに視線を逸らす。


「それなら、今はどうだ。話を聞いて、俺がもっと怖くなったんじゃないのか?」


「それは、逆です」


「逆?」


「はい」


 スイはまっすぐに天狗を見る。


「辛い思いをしてきたんだなと思いました。だから今は、もっと気を遣わずに、ありのままの貴方でいてほしいと思いました」


 少し照れくさそうに頬を掻く。

 想定外の返答に、天狗は言葉を失う。


「こ、怖くない、ということか?」


「怖くないと言えば嘘になります。でも、それは話を聞いたからではありません。もっと私に優しくしてくれたら、怖くなくなると思います!」


 勢いよく言い切るスイに、天狗は一瞬目を瞬かせ、やがて呆れたようにため息をついた。


「お前には、今まで通りの態度で接してやる」


「ひどい! やっぱり私のことが嫌いなんですよね!? 失敗が多いからですか?」


 眉を下げるスイに、天狗はしばし沈黙した。


 そして、静かに口を開く。


「守りたかったのだ」


「え?」


「俺は、命の恩人であるカナ様とシイ様に恩を返したかった。だが、その前に二人は昏睡状態となり、何もできなかった。そんな中、恩人の娘がこの旅館に来た」


 黒い瞳が、スイを映す。


「何もないように。怪我一つしないように。笑って過ごせるように。俺が守るつもりだった。だが、人を守ったことのない俺には、どうすればいいのかわからなかった。それで、あのような態度になってしまった」


 初めて聞く本音に、スイはぽかんとする。


「守りたかった? 天狗様が? 私を?」


「他に誰がいる」


「え……てっきり嫌われているのかと」


 恐る恐る問いかける。


「すまなかった。守ろうとするほど、前に出させなければいいという考えにしか至らなかった。客が何をするか分からない。ならば、最初から対面させなければいい、と」


 不器用な守り方。

 人を頼ることも、まだ天狗には難しかった。


 天狗の言葉に、スイは驚きつつも、今までの行動の意味がやっと理解出来た。

 胸に引っかかっていたもやもやした感情がスゥーっと落ち、すっきり。


 自然と笑みが浮かび、スイは息を吐いた。


「天狗様なりに、守ってくれていたんですね」


「そのつもりだった。だが、間違っていたらしい」


 後悔の滲む表情。


 だがスイは、その事実に胸がいっぱいになった。


 嫌われていたわけではない。

 守ろうとしてくれていた。


 安堵と安心が一気に押し寄せ、涙が溢れる。


「ど、どうした?」


 慌てる天狗。


「私……本気で嫌われていると思っていて……。これ以上嫌われないようにって頑張っても、結局迷惑をかけて。ここにいていいのか、わからなくて……」


「いていいか、だと? そんなの当たり前だろ。俺はそこまでの事を言った覚えはない」


「言っていなくても、態度がそんな感じでしたから……」


 天狗は咳払いをして誤魔化す。


「……今まで悪かった。守りたい気持ちが空回りしていた。これからは、もう少しお前を頼る。今回のスイのように」


「今回の、私?」


 首を傾げるスイ。

 天狗は安心したように襖を見る。


「終わったみたいだ」


 その言葉と同時に襖が開く。

 黒緋と九尾が、余裕の笑みを浮かべ立っていた。


「黒緋さん! 九尾様! ご無事だったのですね!」


 涙を拭きながら駆け寄るスイ。


 怪我がないか確認していると、黒緋の右手に何かが握られているのに気づく。


「あの、それって……」


「あぁ、これが偽物の正体だ」


 差し出された手の中には、ぬいぐるみ位の小さな狸がいた。

ここまで読んで下さりありがとうございます!

出来れば次回も読んでいただけると嬉しいです!


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よろしくお願いします(*・ω・)*_ _)ペコリ

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