呪い
『天狗さん~、一人で何でもしようとしないでください』
『カナ様。私は大丈夫です』
子どもの姿で米俵を三つ抱えた少年――天狗は、振り向いてそう言った。
『ダメダメ。あなたはまだ怪我が治っていないのだから』
手を伸ばしてきたのは、スイの母・香苗だ。
優しく微笑みながら、天狗を見つめている。
香苗は米俵を一つ受け取るが……。
『おっも!!』
と、思わず落としそうになる。
すぐに天狗が受け取ろうとしたが、横から大人の手が伸びた。
『まったく、天狗も無理をするが、カナも無理をするよなぁ。もっと男である僕を頼ってほしいものだ』
そう言ったのは、スイの父・椎名。
香苗と同じく優しい笑みを浮かべ、落ちかけた米俵を片手で持ち上げた。
『天狗、一緒に食糧倉庫へ行こうか』
『いえ、俺一人で大丈夫です』
この頃の天狗は、まだ拾われたばかりで、独りよがりな部分があった。
何でも一人で行い、いつも一人で過ごしていた。
誰とも関わろうとしない。
孤独の中で生きていた。
そんな天狗を見て、香苗と椎名は、妖癒旅館で少しでも人との繋がりを感じてもらえればと考えていた。
だが、声をかけ、他のあやかしたちと関わらせようとしても、天狗は動じず、何でも一人でやってしまう。
何でも出来てしまう能力があった。
それでも二人は諦めなかった。
天狗と関わり続け、旅館の経営について教えた。
それが、天狗と繋がるための手段でもあった。
『天狗さん~、これを運んでちょうだい~。あっ、一人は駄目よ? 黒緋たちと一緒にね』
『天狗よ、今日はお客様がいない。暇なんだ、時間つぶしに付き合ってくれないか?』
『天狗さん~』
『天狗やぁ』
毎日、毎日。
二人は必ず天狗に声をかけた。
何かあると、必ず天狗や他のあやかしたちを呼んだ。
一緒に何かをやる。
それが、香苗たちの教えだった。
いつも、同じことを言われていた。
『天狗は何でも一人でやってしまうし、能力もある。でも、それでは駄目よ。絶対に人やあやかしを頼りなさい。じゃないと、きっと寂しいわよ』
何度も、何度も言われた。
それでも天狗は、一人で行動してしまう。
それでも二人は、根気よく、根気よく、声をかけ続けた。
天狗が一人にならないように。
『経営者が一人で動いては駄目よ。指示を出す練習もしなさい』
耳にタコができるほど言われた言葉。
それはまるで呪い。
優しく、あたたかな、呪いだった。
やがて天狗は、指示を出す立場になる。
皆に的確な指示を出し、旅館経営を支えるようになった。
そんな時、香苗が急に体調を崩した。
あやかしたち全員で看病したが、食べれば吐き、腹が張って気持ち悪いと言う。
どうすればいいのか分からずにいると、椎名が人間界の病院へ連れて行き、妊娠していることが分かった。
その後、約一年間、香苗は休んだ。
その間は椎名が経営を担った。
香苗がいなくても問題ないほど、椎名の経営手腕も見事だった。
天狗もそれを見て学んだ。
やがて無事に子どもが生まれ、名前は水雫と名付けられた。
『今後は、水雫が私たちの後を継いで、この旅館を経営していくの。天狗、この子を守ってあげてね』
この言葉が、天狗にとって一番の呪いとなった。
守る。
天狗は、それまで守るということを真剣に考えたことがなかった。
どうすれば守れるのか。
何をすれば守れるのか。
わからなかった。
それでも、出来ることはすると、心に決めた。
天狗が経営者として本格的に仕事を始めて間もなく、大きな事件が起きた。
敵意のないあやかしが、旅館にやって来た。
敵意がなかったため、周囲は油断していた。
懐に入り込まれ、香苗と椎名は、あやかしたちを守るため指示を出し、逃がす。
だが、自分たちは逃げ遅れた。
二人は重傷を負い、病院へ運ばれたまま、目を覚まさなくなってしまった。
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