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75 出発の準備中の出来事


--【冶金(やきん)】とは。


「金属を生産する技術…。【鍛冶】や【錬金】と違うのか? あ、カタログの"簡易冶金キット"がある。えっと、ゲーム内の【冶金(やきん)】は採掘した鉱物から新金属、素材を製錬可能。防具の付与にも利用可能…。あ、そっか、硬質なものは防御力アップに使えるから…!」


説明文をきちんと読めば何となく納得。


「そっか、ゲーム内の【鍛冶】や【錬金】はアイテムや武器制作まで出来るもんね。【錬金】は上位スキルだからさらに汎用性高いし、基本的に錬金術師にジョブ変更しないと出てこないし」


と、言うことは【冶金(やきん)】は多分取得SPはさほど高くないスキルなのかもしれない。

しかも、このカタログで取得できるものは1つだけ。


でも、今の私では取得可能リストに出てくる可能性低そう…。



(うう、悶々とする~)


思わずカタログから目をそらし虚空を見る。

するとそこにステルスアルマジロのジローがふよふよ飛んでいる。

そして彼は私と目が合うと、くるっとその体を丸めて堅固な守りを見せる。


私はその姿にハッとした。


(そうだ、私ったら…! 硬さこそ正義、今までジョブレベルの低い私が戦えていたのはジローさんがいてくれたからこそ! そうだね、ジローさん!)


しかりしかりと言いたげにジローが空中でパッと体を広げる。

すると、そいやー、と奇声をあげてミミッキーに跨ったメリッサちゃんが片手に針の剣を持ってジローに向かって突進してくる。そして彼女はバッとジャンプし、ジローの位置まで飛翔する。


(メリッサちゃんのジャンプ力、相変わらずパねえ! …てか、何しているの この子たちぃー!?)


「やあああ!」


雄たけび上げてメリッサちゃんはジローに刺さんと針を突き出したが、ジローはまた体をくるんと丸めてその防御を固めた。そこに針は突き刺さらず、ポキンと先が折れて--メリッサちゃんは床にドッスンと落っこちた。


「ちょー!! ケガしてない!? てか何危ない遊びしているのぉーー!」


勝手に装備変更出来たのかと驚いたが、メリッサちゃんが手にしていたのは簡易修復セットに入っていた洋裁用の針だった。それでも危ないけどね!


「ドン・キホーテごっこですぅ…。うう、わたくしの針がぁ…。ぐすす…」

「フレンドリーファイヤがなくても、セーフティーでも危険な遊びはダメ! お目々に刺さったら、ジローでも死んじゃうかもしれないんだからね! ジローもミミッキーもわかった!?」


私の剣幕にジローとミミッキーもコクコク頷き、メリッサちゃんは


「ジロー様にそんな危険な真似をさせていたなんて…わたくし…、わたくし…!!」


とショックを受けていた。

はあもう、子供はホントに教わらないと怖いこと分からないからな。

両親が男の子ばりの体を使った遊びを好む姉にどれだけヒヤヒヤしていたか、今わかったわ。


さすがにメリッサちゃんも反省して落ち込みを見せている。

フランソワ君がそんな彼女のそばでおろおろしているのを見て、うう、私も罪悪感が…。お、怒りすぎたか…。い、いや、危険なことは教えていかねば…!


すると、メリッサちゃんが とぼとぼこちらに来た。もう完全に泣き顔だ。


「ぐすす…。針が折れてしまいましたの、おねーさま…。ご、ごめんなさい…」

「だ、大丈夫! 買い直せばいいだけだからね。せっかくだから買い出しに行こ! ほら、エデンに行ったらしばらく町になんて来れないかもしれないんだし!」

「はい~…」


お鼻をすするメリッサちゃんをなだめ、私は気分転換含めて買い物に出た。


(ふ~、子育ては楽しいばかりじゃないな、大変だ…!)


のちほどこの旨 澪革ちゃんにLINEしたら「『ファンシーライトオンライン』って育児シュミレーションなの?」と返された。




さてまずイグニスさんお店で軽食で腹ごしらえ。


「お、2体目のドールか!」


とイグニスさんは魔法具をプレゼントしてくれた。今度は"タンザナイトの腕輪"でやっぱりスキルスロットが2つもついている。特殊効果は"魔法反射"、いわゆるリフレクだ。相変わらず豪気だ、いいものくれる。これで商売大丈夫なのかと心配になるレベル。

お礼を言って、今度はドゥジエムに向かう。針を買いに。

これは裁縫師のハリエットさんの助言で。


「2体目の子が剣士なら2冊目のドール種カタログの入手をお勧めするわ。作れる服の幅が広がるわ。紹介状を書くからドゥジエムの洋装店に行ってみるといいわ。あそこなら裁縫道具も手に入るし、レシピも購入できるわよ」


と、言うので以前メリッサちゃんと約束していた乗合馬車で海を見ながらドゥジエムへレッツゴー!

相変わらずこの海を渡るムービーはいい…!

この頃にはドールちゃんたちの機嫌はすっかり直っていた。


ドゥジエムの洋装店はサーシャのお針子の修行先なので会えるかと思ったらすれ違いだった。これは残念~。

観光都市ドゥジエムの町には子供たちは大はしゃぎで、私もここでしか買えないものを買い込みだ。主にスパイス系と、色変わりする羊さんや、牛乳確保のための牛さん、卵を生んでくれる雌鶏数羽を。購入した家畜は【サイズ調整】するとトランクの中に小さくなって入っていった。


(うわ~、トランクの中がプチ牧場! これは便利な上に可愛い。クロに大感謝だな。あとは…、簡易冶金キットと採掘用の道具も買っちゃえ。採掘は掘っていれば取得可能リストに出て来そうだし。プルミエやファンシーで買えないものを大判振る舞いで購入だ!)


多分、私は懐にお金があったらあった分だけ使うタイプのようだ…。

ゲームで自分の人間性を再確認だぜ。

お姉ちゃんが無駄遣いはダメだからねとうるさく言って来るのもわかったわ。


楽しく市場で買い物をし、皆で屋台で買ったモーギューの串焼きをパクついていたら、ふと眼前に知らない人が立っていた。

見たことない--女の人。

幽鬼のような顔色をしていた。


(あ、NPC(住人)…)


思った途端、彼女が虚ろな瞳でつぶやいた。


「あなた、私の人形を知らない…?」


そして、言った途端倒れた。

驚き茫然とした私の前で、メリッサちゃんとフランソワ君が彼女を助け起こす。

フランソワ君が倒れた彼女の名前を呼んだ。いつもの、不安そうな口調ではなく、しっかりした口調で。


「ヨハンナ…! あなたはドゥジエムの人形の家の主、ヨハンナですね?」


(……これ、イベントだ、ドールマスターの……!)


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