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76 ドールマスターヨハンナ


(秘匿ジョブ、ドールマスターのイベントだ…!)


眼前で倒れた女性を、私のドールたちが助け起こす。その口調がいつもの彼らと違っているので、イベントだと察した。

女性はまだ若く、痩身で、手首もまるで小枝のよう。

【変化】で小学1年生サイズになっている彼らでも容易く支えられるくらいに。

イベントなので私はかけ寄れず、ひたすら見守るだけが歯がゆい。


「マスター、この方はこのドゥジエムの人形の家の主、ドールマスターヨハンナです。なぜ、こんなところに…?」


(しっかりした口調のフランソワ君新鮮だな!)


すると、ヨハンナ! と彼女の名前を呼んだ男の人が通りの向こうから駆けてきた。

彼は心配そうにヨハンナさんの顔を覗き込む。

彼女は意識を失っているようだ。


「ヨハンナ、部屋にいないと思ったら…。あなた達が見つけてくれたのですか?」


フランソワ君とメリッサちゃんが私を振り返る。


「え、あ、はい」


(あ、声が出せる)


「良かった、見つかって…。……ありがとうございます。お急ぎでなければお礼をさせてください。すぐそこの"人形の家"が住まいなんです」


そう言って、彼は私達に頭を下げた。



『彼らと伴にドゥジエムの人形の家に--行く/行かない』


(あっらー、選択肢! もちろん、これは行く! だよ)


「はい、お邪魔します」


そう言うと彼は安心したように笑い、腕に抱いたヨハンナさんを大切そうに見やった。





彼に付いていくと可愛いレンガの門があり、青々とした芝が広がっている。その先に、白い洋館がある。

周囲に小さな薔薇が植えられていて、映画のワンシーンのような空間だった。


やはり白い玄関扉の前で彼が呼び鈴を押すと、中からクラシカルなメイドドレスを身にまとった--少女が現れた。

私は息をのむ。

彼女の眼の色が虹のようなくるくる色味の変わる、決して人間にはない色だったからだ。


(1/3ドール種…! でも、こんな瞳の子、見たことない)


どうぞ、とヨハンナさんをお姫様だっこしたまま、青年は中へと促す。

応接室らしき部屋へ通され、椅子を勧められ私たちは腰を下ろした。おしゃべりなメリッサちゃんが無言なのでまだイベントはこのまま進むようだ。

すると、迎えに出てきたドール種と同じ1/3の子たちが数人出てきて、青年の腕からヨハンナさんを受け取った。皆、それぞれ制服のような服を着ている。

彼らはヨハンナさんを奥に連れていき、残されたのは私たちと ここに私を誘った青年だけになった。


「自己紹介がまだでしたね。--私はこのドゥジエムの錬金術師、フィリップと言います」


錬金術師、の言葉にメリッサちゃんやフランソワ君が身構えた。


「……この子たちを生み出し、魔女に組してヨハンナを陥れたのは私の師でした。今は王都の牢獄にいます。私はいまだ静養中のヨハンナに代わってこの人形の家の人形たちの面倒をみています」


彼は一瞬遠い目をした。

過去を振り返っているのだろうか。イグニスさんとタイプの違う錬金術師だな。

それから彼は私に問うた。


「あなたはドールマスターの修行をなさっているでしょう? 少なくとも、ドール種がマスターとして認めている」

「…はい」

「あなたはこの人形の家がどんな役割かご存じですか?」

「錬金術師が生み出したドールとマスターの橋渡しをする…場所?」


やや疑問形で。

青年は正解と言いたげに微笑んだ。


「おっしゃる通りです。さて、ここ人形の家では他にも錬金術師のアイテム売買、ドール種の防具やドレスをあつらえることが出来ます。何かお望みのものはありますか?」


(なるほど! 人形の家はそういう利用をするわけか。おそらく本当だったらもっと早くここに来ていたんじゃないかな。私はドゥジエムはほとんど無視して進めていたからな~)


しかし、今の私では懐がやや寂しい。さっきまでドゥジエムの市場で散財したからね~。

宿は"ロイヤルドゥジエムホテルのスイート無料宿泊券"があるからそれでと思っていたけど。


「今回のお礼です。お代は気にしないでください」


そう言って彼が用意したものは、男の子用の半ズボンの正装一式と、女の子用の足首丈のドレス。ドレスにはヘッドドレスまで付いている。正直、めっちゃ高額なのは鑑定持ってなくても見た目でわかる!

絶対、今の私では買えない商品だ。

なので、ついついビビリが入りました。


「いえっ、そういうワケには」


思わず慌てて言うと、フィリップさんは ふむ、と考え込む。


(しまったー、イベントだもん! 遠慮なんかせず頷けば良かった! いつもの私らしからぬ対応しちゃったよー!)


動揺する私を後目に、フィリップさんが言う。


「……では、これらの武装のレシピを受け取っていただけませんか?」


(あ…)


「は、はい、レシピなら…」


正直、失敗したーーっと悔しがりました。絶対、防御力高そうだったもん。ぐぐぐ。

でも、私にも見栄があるので、やっぱり頂きますなど言えぬよ…。


レシピを受け取ったところでイベント終了か、メリッサちゃんがいつもの口調で話し出した。


「おねーさまっ。わたくし、ここが懐かしいですわ。いろいろ見て回っても良いでしょうか?」


(あ、ドゥジエムの人形の家が二人の出身なのね)


私はチラとフィリップさんを見やる。


「勿論ですよ。ですが二階の奥には入らないでくださいね。危険ですので」

「危険?」


私の疑問にメリッサちゃんがハッとして言う。


「おねーさま。二階の奥の部屋は憎い魔女が私室にしていた部屋ですわっ」


フィリップさんもコクリと頷く。


「魔女はもうここにはいないのですが、実は彼女が使っていたその部屋の奥に扉があって、ここを解放してくれた王都の騎士たちが試しても、固く閉ざされていて開かないのです。魔女の呪いがかかっているのではないかと結論が出ています。そのため、魔女が使っていたその部屋には立ち入りを禁じています」


「その扉って、元々は何の扉なんですか?」


私は何となく冥界門を思い出す。


「いざという時の魔女の秘密の抜け道だったようです。魔女にたぶらかされた師が準備していた、錬金術を駆使した扉です。それに魔女が封印を施し、他者が使うと呪いが降りかかるようになっているのではないかと。実際には魔女と師はそこを使う前に捕縛されました。魔女が逃亡した今、どこにつながっているかわからない扉です。正直、そんなもの、撤去してしまいたいのが本音ですね」


フィリップさんは重くため息を吐いた。


(おう、それは危険だわ…)


私がもっともだと同意しようとした時、ドアの方から声がした。


「--駄目よ! あの子が帰ってこれなくなるわ!」


そこには弱々しい寝間着姿のヨハンナさんが扉に手をかけながら必死の表情で立っていたのだ。



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