ネメア教
「多分…ここっす。」
それは、宗教施設と言うよりは、災害か何かの後の臨時の診療所の様な状態になっていた。
「邪神様…我々をお救いください!我々に、魔物の恵みを!」
「天罰じゃ…魔族に感謝せず、忌み嫌い続けた天罰が降ったのじゃ…。」
早く発生装置を直さなければ。しかし、あれを作ったにっこりさんは、今どこにいるかも分からない。
「酷いっす。色んな人が色んな病気にかかってるのに、治し方を知らないんす。酷いっす。」
すると、ダムキナは早速医療カバンを広げ始めた。そこには薬草なども入っていたが、前まではなかった経口補水液が入っていた。
『ガガガ……ガーガガ……』
『そう言うの大丈夫ですよ。局長。』
『そう。着いた?』
『はい。此処で何をすれば…』
『とりあえず礼拝所について調べてくれる?』
『かしこまりました。』
とは言え、今は此処で何か出来るとすれば…
「すみません!こういう時どうすれば良いんすか?」
「とりあえず止血をして、アルコールで消毒をしてくださいまし。」
「あの…あるこーる…て、なんすか?」
私は一応医学については多少の知識の蓄えはあったため、此処にいる患者たちの対応はそう大変な事では無かった。
「貴方達は一体…」
「しがない旅医者っす。お代は結構っす。」
どうやら、モンスター由来の薬によって一瞬で完治することに慣れてしまっているためか、私達の処置に対して不信の目を向けるものもいた。
「おい!ちっとも治らねえぞ!どうなってるんだ!」
「すみませんっす、この処置じゃ、最低でも一週間はかかるっす。」
「と言うか本当に治るのかこれ!」
「ひええん!」
ふと、祭壇の上に司祭風の服装の人物を見つけた。
「こんにちは。いえ、今時はこんばんはでしょうか…。」
「君たちには感謝しているぞ。さて、そろそろ準備を始めようか。」
その準備と言う言葉に、一抹の不穏な物を感じた。司祭は奥の広い部屋に私を導いた。司祭の取り出した物、装飾品の付いたナイフ、台、ツボに荒縄。
「これは…?」
「今宵も若き魂を、邪神様に捧げるのだ。」
要するに、生贄と言う事だろうか。私は魂を糧とする事は出来ないが、局長姉妹がピンピンしているのはそう言う事なのか。別に止めはしない。
「シュパ!」
「…?」
首元に僅かな風を感じたかと思えば、私の髪の毛はバッサリと切られていた。これでショートボブになってしまった。
「チイ…」
「あら、散髪を頼んだ覚えはありませんわ。」
深くフードを被り、赤い装束に身を包んだ男が、いつの間にやら私の背後に現れていた。
「人語こそ話せるみたいだが、我の目は誤魔化せんぞ。人外。」
「あら、貴方達の崇拝対象に乱暴は止めてくださいまし…。」
「ふん!貴様が本物の悪魔だろうと、我々の邪魔はさせん!」
なんだろう、髪を切られた時から、何かが自分の中で目覚めた様な…目覚めない様な…
「どう言う事で…」
「ふん!邪神だか何だか知らんが、信者を集め、儲けているだけだ。対象が今此処に居る事に知られては、我々の活動に差し支えが出るのだ!」
何だか、とても腹が立つ。そんな事の為に私はこんな事をしているのか…?魔族は天使や神ほど信仰を必要としない。むしろ、信仰は大抵の場合毒にすらなり得る。実際、私が今満身創痍の原因もそうだ。
「…」
「悪いが此処で消えろ。」
赤いフードの男は、私をナイフで私を攻撃しようとするが、その攻撃が届く事は無かった。
「がは…」
「消えるのはテメエらだ…」
私の拳が、男の腹を貫いた。
「ヒイ!で…出て来い!お前ら!」
天井から、同じ格好の人間達が出て来る。
「テメエら、骨も残らないと思え…。」
今なら、あれになれる気がする。
「我が肉体よ…死炎の悪魔となれ!!」
骨が、肉が、私の難しい要求に応えようとしている。今までこれに成功した事は一度も無いが、今なら…
「グオオオオオオオオオオオオ!!!!」
鎧の様な分厚い炎の皮、見違えるほど大きな角、成功だ。
「な…何だ!どけ!」
司祭は一目散に走り去ろうとする。
「グオオオオオオ!」
私が地面を叩くと、赤黒い炎が円の様に地面に放たれ、その部屋にいた全ての人間を焼き払った。
「グフ…」
さすが1分もこの姿は無理らしい、私の変身は解けていった。すぐに、ダムキナが慌てて現れる。
「今の音はなんすか!?大丈夫っすか!?」
「ああ、うん、大丈夫。ちょっとね。」
「!いつの間にイメチェンしたんすか!?」
『本当だよ!ちょっと目を離した隙に何があったの!』
局長まで…全く。
『いつから見ていたんです?』
『えっと、差し支えがあるのあたりからは見てない。』
『なら十分ですね。』
『あはは、お嬢様言葉はやめたの?まあ、いいけど。』
ダムキナは割って入る。
「すみません!さっきからぼーっとして大丈夫っすか?」
「ええ。ごめんなさいね。」
一度に二点に話さなければいけないのはかなり疲れるものだ。




