無有
「お姉さん!ありがとう!」
「そ…そうっすか。」
すっかり元気になって、親と共に去っていく少年を見ながら、女薬師は複雑な表情をしていた。
「なんかごめんっす。自分、貴女の治療を口開けて見てただけのにっす。」
申し分けなさそうに、女薬師は私に頭を下げる。
「いえ…あなたの手際は素晴らしかったですわよ。」
「…ダメっす…自分、まだまだっす。こんなんじゃ、天国の母に顔向け出来ないっす。」
女薬師は拗ねながら家の中へと入って行った。天国…か。私は、ふと空を仰ぎ見る。
「貴女もそこに居るの?グロリア…。」
一瞬、妹の顔と声を思い出す。きっと、どこかで生きているよね。グロリア、私なんかよりずっと強い子だから。力としても、心としても…。
「フオゥ…」
と、奇妙な突風が私を突いた。今、何か巨大な物が私のはるか上空を通り過ぎていった。
「クソッこんな所まで縄張りを広げてきたのか。」
剣士は恨めしそうに、巨大な影が向かって行った方を眺めていた。
「あれは一体なんですの?」
「俺にも分からないが、ここらでは大翼の黒狼と呼ばれてる。」
あいにく、私はあまり目が良くない。いくら目を凝らしても、黒いモヤだけしか見えなかった。
「なあ、一つ頼みがあるんだ。」
剣士は、鎧を着込みながら語る。
「もし、明日の朝までに俺が帰って来なければ、あいつを、ダムキナをここから連れ出してやってくれ。」
「!?…わ…わたくしを信じるのでございますか!?ですがわたくしは…」
「少なくともモンスターじゃ無い。」
「何故…?」
「お前と最初に出会った時、俺の剣が当たっただろ?」
すると、剣士は鞘からその剣を取り出す。
「ここだ、今まで、数々の敵を切って来たが、血の汚れはお前だけなんだよ。」
「…そうでございますか…。」
「ふ…じゃあな。」
剣士は馬にまたがると、影の飛び去って行った方角へと馬を駆った。私はしばらくの間、その方向を見ていると、傍に女薬師…ダムキナが現れた。
「どうしたんすか?どうせまたすぐ戻ってくるっすよ!夜ご飯出来たっすよ。」
「ええ。」




