黒燐の堕落騎士
「俺は力が欲しかった!ただそれだけだ!」
剣士を侵食していた黒い鋭利な物は、右手に集まると一本の大剣を形成した。
「だが、この比類なき力の今、ダムキナ、お前はもう用済みなんだよ!」
「どう言う…事っすか…?」
私は慌ててダムキナの耳を抑える。
「気にしちゃダメだって!今のあの剣士は、もう素の人間じゃ…」
大剣の一裂が、私とダムキナの間を横切った、
「俺はただ、ダムキナ…お前の力を利用していたに過ぎないんだよ!」
「違うっす!先輩は、そんな人じゃないっす!」
「違わないね!」
剣士の大剣が振り下ろされようとしているのに、ダムキナは逃げようともしない。このままでは…
「カチカチ…」
ダムキナの頭の数ミリほど上で、大剣の刃は止まっていた。
「ふん、お前…など…一撃で…」
「先輩…?」
微かな心の名残りか、剣士はダムキナを殺そうとはしなかった。今なら!出でよ!死鉄の一槍よ!
「ガチャリ!」
大振りは鉄の槍が私の手元に現れる。
「えやあああああ!」
槍が、剣士の胴体を貫いた。
「ぐあは…」
剣士は倒れ、大剣は音を立てて地面に落ちた。どうやらこの剣は、軽い材質の陶器の様らしい。
「グルルルル…!」
さっきまで石像の様に動かなかった獣が、唸り声を上げた。家来が死んだと言うことか。獣は、さっき大剣が落ちた時の様な足音を立てながら、すすり泣くダムキナの前で、倒れている剣士を踏みつけた。
「ガチャガチャガチャガチャ!!!」
近くに落ちていた大剣が分解し、黒鱗となって剣士の体を包み込んでいった。
「ガウ!」
獣の背後に、布の破れた部分の様なゲートが現れ、黒鱗の獣はその中に消えていった。
「………」
剣士を包んでいた黒鱗は、剣士もろとも気化していった。
「そんな…酷いっす…うう…」
…この耳先が痛くなるほどのエネルギーの流れは…まさか…
「ペキペキペキ…ガシャアン!」
上空に空間の割れ目が現れ、出てきたのは人型の怪物だった。
「ノウキョ……イサアレオ…」
全身が漆黒で、薬臭く、黒鱗の塊の様な姿で、それの持つ大剣に無数の目と歯の様な突起物がある。頭は無く、不気味な容姿をしていた。
「ジイイイインンンンンゲエエエエエエ!!!!」
まずい、あれの標的は…
「ダムキナ!そこを離れて!」
「ええ…?」
駄目だ、まだ動けそうにない…なら、私が!
「カキン!カキン!」
「ダッヤグヨウ!」
この怪物、あのね剣士と同じ剣術を使うのか?偶然か、でなければ…
「シャキシャキシャキン!」
怪物の背の鱗から、チューブに繋がった沢山の注射器の様なものが生えてくる。中身は、一部は見えないが殆どが赤茶色の液体だ。危ない予感しかしない。出でよ、死速の双剣よ!
「てやああぁぁ!」
注射器を一つ残らず砕く。赤黒いどろっとした物が辺りに飛び散る。
「シュウウウウ……」
液体の付いた草木がみるみる枯れて行く。猛毒だ。
「イマナ…ダムキナ……ス……」
「!?先輩っすか!?そこにいるんすか!?」
「やっぱり…」
さっき気化したのは消滅のためでは無く、変身の為だったのか。この怪物は紛れもなく、剣士だ。
「ダキンテイ……イヴァウキョ……」
「先輩!目を覚まして下さいっす!先輩!」
「無駄だよ!あれはもうダムキナの知っている剣士じゃ無いよ!」
「でも…」
再び注射器が現れる。今度はさっきよりも多量だ。もう、賭けるしか無い…。死弾の魔銃よ…
「ガタ…」
大きな猟銃が現れる。十分な距離をとれば巨人も一撃で屠る、黒鉄の銃。
「…ダムキナ…よく聞いて。これから向こうの丘に貴方を飛ばすから、あの怪物を…」
「そんなことできないっす!先輩はきっと!」
「…わかった。なら、これは預ける。貴方がこれで正しいと思う方を撃って。」
ダムキナに魔銃を預け、簡易転移術を使った。




