奪還
神殿に到着する。ここはひときわ嫌な場所だ。ギラギラと鬱陶しい。
「はあ…はあ…ごめんね。ちょうし…乗っちゃったかな…?」
「そんな事無いですよ。吹っかけてきたのは向こうの方なんですから。」
神殿は思いの外静かであった。どうやら天使達にもここには簡単には入れない様だ。幸いここは屋内なので、極力光の当たらない場所をペンドラさんと歩いた。
「ここ、なんだか不気味…。」
辺りにはよく分からない石像や、聖人と思われるミイラなどが並んでいた。天界の割には趣味の悪い装飾だ。
「所でにっこりさん、地下室は何処なの?」
「ああ、君たちのすぐ隣に入口があるはずだよ。」
隣を見てみても、天使像しか見えない。もしかして…
「グググググ…」
天使像はやはりカモフラージュであった。右に十分に押すと、簡素な作りの階段が現れた。
「わーい!くらいくらーい!」
ペンドラさんは嬉しそうに、その階段を駆け下りて行く。私も慌ててそれに続く。しかしここは随分と薄暗い。天界とは思えない程だ。
「わーいわーい!」
まだ降りて行く。
「わーい!」
まだまだ階段は続く。
「わーい…」
まだ先はありそうだ。
「………」
いくらなんでも長すぎる気がする。
「にっこりさん、後どれくらい?」
「直線距離であと50キロくらいかな?」
やってられない。我が肉体よ、死翼の大龍となれ。
「グガアアアア!」
「ひゃ!突然変身しないでよ〜!びっくりするから〜!」
ちょうど階段の中心部に狙いを定めて、
「ゴスン!ゴスン!ゴスン!」
勢いよく直下で突き抜けて行った。どんどん加速して行く。
「ゴスン!ゴスン!ゴスン!ゴスン!…ガチン!」
ふと硬いものに当たったかと思ったら、それが地下室の床であった。
「………ぁぁぁぁあああああ!」
ペンドラさんが落ちてきたので、 翼を器用に使って受け止めた。しかしそこで私の体は元に戻った。
「ふう…ペンドラさん、もう抱きついている必要は無いですよ。」
「あ、ご…ごめんね。」
ペンドラさんは私の背中から降りる。ここが地下室…。もはや魔族でなければ何も見えないほどに暗く沈んでいた。私はゆっくりと辺りを見回し、この部屋の様子を調べる。
「………」
いくつかの棺と、金属製の何かが確認できた。と、にっこりさんから通信が入る。
「ビンゴだね。それが装置だ。」
「それはどうも。」
しかし何故こんな所にあるだろうか。私はそんなことを考えながら、本物の発生装置を持ち上げる。思いの外軽い様く、拍子抜けしてしまった。にっこりさんからの通信だ。
「よかった!早速即席のゲートを作るから、1分間待ってて。」
すると、私の耳にくっ付いていた鉄の蟹が外れ、いくつかのアンテナを生やした。真っ暗な中に、僅かに青い光がパチパチと発生している。
「よお。」
ふと誰かの声が聞こえる。若い男性の声だ。
「!?だ…誰…?」
「いずれ分かるさ。」
声は消え、即席のゲートが開かれる。
「どうしたの?ここにいるのは二人だけだよ?」
「ええ…。」
何処かで聞いた様な声だった…気がした。私は発生装置を先にゲートの中に送り、次には私たちも入って行った。空気に混じる微かな臭気…少しの間出ただけでも、それは私達に安心感を与えた。
「やあ。お帰り。早く入って!」
にっこりさんによって、私はとペンドラさんはすぐさま簡易血の池に放り込まれる。ここで始めて、身体に相当なダメージを負っている実感があった。最初は全身がヒリヒリと痛んだが、それも収まって行った。
「ふう…。」
天界の光に所々焼けただれてしまっているが、幸い重症化はしていなかった。にっこりさんは、持ち帰った装置を弄り回している。
「これでよし、ボーンデバイス…リブート!」
装置は音を上げ始め、次第に周囲に光の粒子が現れ始め、装置の開口部からはモンスターの幼体がどんどんと生まれ出て行く。
「何の音っすか?…うお!」
ダムキナが慌てて出てくる。
「ミエエ!」
よく分からない幼体の一体が、ダムキナに嚙みつこうとすると。
「駄目だよ。君の獲物はこっち。」
局長が幼体の首根っこをつまみ、地上門へと放り込む。にっこりさんは羅針盤の様なものを見ながら言う。
「さてさて、生成スピードを四倍速にしよう。片っ端から倒されて、全然強くならないの話困るからね。」
これで、地上にもモンスターが戻るだろう。
「………きょくちょう…さん?」
ダムキナが辿々しく呼ぶ。
「?」
「あの、こーんなに大っきくて、全身真っ黒で翼が生えた獣みたいなモンスターって知ってまるっすか?」
「うーん…どうだろう、にっこりさん。」
「そんなモンスターの設計書は存在しないけど、いいアイディアだね!」
「そうっすか…。」
ダムキナの顔色は冴えない。その理由も大体検討がつく。私も確かに見た、あの生き物の事だろう。あの威圧感は明らかにモンスターのそれでは無かった。気だるさも興奮も無く、恐怖が支配する感覚を覚えている。
「とりあえず地上の様子を見てみたいっす。帰ってもいいっすか?」
にっこりさんは機械を操作しながら答える。
「ん?ああ、その地上門は危険だから、こっちに新しくゲートを作ってあげるよ。」
にっこりさんはペンドラさんの耳にくっ付いていた鉄製の蟹を外すと、手動でゲートを開けた。
「バチバチバチ…」
ゲートが使える状態になると、ダムキナは真っ先に飛び込んで行った。




