報告で、嘘と隠し事はしないこと。 〜Totalitarianism〜
初の任務からの帰還後、ミーティングルームにて。
「ごめんなさぃ...戦えながった...」
「第四事例、まず無事に帰ってきたのが、戦果ですよ。何より、第一事例は無事で、事案を鎮圧できた。これは最大の戦果です」
「でも、でもぉ」
せっかく手間をかけて編んだ青く長い髪が崩れるほど泣きじゃくる第四事例。整った顔が台無しである。それを優しくなだめる主任。
「第二事例もお疲れ様です」
右側で第四事例をなだめつつ、顔は第二事例に向ける主任。
「貴女のお陰で、こちらも状況が把握できました」
「ハイ」
必要以上に返さない。第二事例の基本スタイルはこれである。艶のいい黒いポニーテールで簡素に纏めており、鋭い目つきも相まって、少々近寄り難い印象を抱かれることが多い。ただ、そこからから零れる青い瞳は惹かれるものがある。
「第三事例もお疲れ様。流石の戦闘でした」
「でっしょお〜?そうだ、あの嫌味なヒトもう居ないの?」
Vサインした直後に追い払うような手振りをする第三事例。
「ははは、もう帰りましたよ。定時だって言って。監査官は、嫌味が仕事なんです。あんまり酷く言わないであげてください」
監査官がいた時とは違って、だいぶ砕けて接する主任。
「ま、会わないで済むならそれでいいわ。あの人、合わないのよね」
またウィンクする第三事例。どうやらお気に入りの仕草らしい。ことある事に入れてくる。
「第一事例、辛いのは分かりますが、第二事例の言う通りです」
真っ直ぐ第一事例を見つめる主任。
「あまりそういうことは任務中に言うべきではありません」
「は、はい...ごめんなさい」
俯く第一事例。
「でも、その意識は大切です。そこが貴女の良さです」
「...はい」
白髪をふたつ団子にまとめた第一事例。その赤い瞳は、俯きながらも主任の動きを捉え続ける。
"綺麗事は得意ですね"
これは口に出さなかった。
「もう、そんな暗い顔しないでよ〜第一事例!さ、パーティ!主任、パーティ開く約束だったでしょ!?」
「あぁ、ええ。みんなで準備していますよ」
「ほら、第一事例?そんな顔してたらパーティ行けないわよ〜」
「そ、そうだよね、うん...」
「はぁ、仕方ないわねぇ〜」
そう言って第一事例の頬を掴み、無理矢理笑顔にする第三事例。
第四事例もようやく泣き止み、笑っている。第二事例も心做しか笑っているように見えるが、それはたくさんの時間を共にした、彼女達が気づける程度の微笑みだった。
「そうだ!主任の娘さんもパーティに呼んで!私にも紹介してよぉ!第一事例だけズルい〜」
ツインテールをぴょんぴょんさせる第三事例。心模様が本当にそのまま現れるタイプである。
「はいはい、呼びますよ。すぐ来てくれるはずです。親友の第一事例が待っているといえば、あの愛娘もすぐ来るでしょう」
携帯端末を取り出して操作する主任。
その時、第一事例の携帯端末も震える。脳のサイボーグ化に成功していない彼女は、主任から特別に携帯端末を渡されている。主任のワガママで「上流階級御用達のプライベートフィルター付き」の上物だ。
その携帯端末を覗く第一事例。
"お菓子の準備をしてから向かいます"
というメッセージが送られてきていた。
「お菓子...」
ついつい頬が緩む。主任の愛娘の作る焼き菓子は絶品なのだ。
「お菓子持ってきてくれるそうです」
「えぇー!?例の焼き菓子!?」
「私達も食べれるんですか!」
第三事例と第四事例が跳ねて喜ぶ。
そこには彼女達の日常があった。
***
巨大なドアの前に立つ監査官。ドアには"生命の樹"が刻まれている。緊張した面持ちだが、首を鳴らし、肩を回す。そしてコートを軽く払い、顔を叩く。
「はぁぁ...」
溜息にも聞こえるような息を漏らす。
「よし...」
切り替えたようだ。"覚悟を決めた"とも見える。
監査官がノックをしようとするその手が空を切る。それに合わせたかのように、ドアが開いたからだ。
「 ...戻りましたよ、御上さん方」
空を切り、行き場をなくしたその手をポケットに入れる。ついでに反対側も。
「...お前は、もう少し礼儀作法を覚えなさい」
声がしたのは、椅子からだった。悪趣味にも古のパイプ椅子である。
監査官が中央まで歩く。そして、全体が見えるようになった。監査官を囲むようにパイプ椅子"だけ"が24脚、つまりそこに座っている人物はいない...あまりに異様な光景である。
最初に監査官に話しかけたパイプ椅子には、"α"の文字が振られている。
「まぁ、いいではありませんか。それだけ彼が優秀ってことですからねぇ。それより星屑計画の"感想"を聞きましょうぞ」
"σ"が当て振られたパイプ椅子から声がかかる。楽しそうだ。
「...はい、ちゃんと記録は持ってきましたよ。主任が色々、言い張るのが気に入らないですが..."今回の事案への対処という点"では、成功していました」
呆れたように、記録を入れたキーをフラフラ回す監査官。その手前から、黒い六角柱の再生機が現れる。
「まだまだ、という事か」
"μ"が当て振られたパイプ椅子から、しわがれた声が聞こえる。
「えぇ。第二事例の感覚を送信する能力は、正直言って義体でも同じことができますから」
再生の準備を進めながら、話を進める監査官。少し、もたついていた。
「第二事例の隠し球はまだ見れませんでしたので、判断しかねますねぇ」
ようやく準備が整う。
「第三事例は、なかなか面白かったですよ?光の剣を出したり消したり。理屈は理解りませんけどね。本当に御伽噺を見せられている気分になりました」
ようやく記録の再生を開始した。額には生温い汗が浮かんでいる。生身の証拠だ。
【再生】
モニターには第三事例が光の剣を使い、悪趣味な五芒星に斬り掛かるシーンが映る。
光の剣は刃こぼれすることもなく、また非常に軽い為か、気兼ねなく何度でも振れるようだ。確かに銃火器では傷もつかなかったナニカに、しっかりと裂傷を与えている。
【停止】
「おぉ、本当に有効だとはね。驚きだよ」
と言いつつ、そこまで驚いた様子のない"θ"
「有効かは、まだ判断できませんけどね?ココからですよ」
"δ"がうがったような声で指摘する。顔も姿も見えないが、確実にいい姿勢で視聴していない。
「私もそう思いましたが、主任はしっかり戦闘指導しているようで」
【再生】
モニター内の戦闘では、悪趣味な五芒星が最後の力を振り絞り、第三事例に倒れ掛かろうとしていた。
「お願いは!煌めいて!」
瞬時に第三事例が光の剣を5つ、自分の周囲に展開する。その際に、シャボン玉のような光も飛び散る。手元でなくとも展開可能なようだ。
そこに悪趣味な五芒星が倒れ込み、各身体の恐らく心臓部にあたる箇所に光の剣が刺さり、中心の頭が悲鳴と思われるものをあげる。その後、黒いゲルになり飛び散った。
第三事例は大丈夫なのかと思えば、箒のような装置が彼女の元に駆け付け、それを使って華麗に脱出していた。手品でも見せられたようである。
【停止】
「おお、これはこれは」
本当に予想外だったような"μ"
「ね?いい立ち回りするんですよ」
少しづつ緊張が溶けて、いや慣れてきた監査官。
「そう言えば、他の娘達は?」
"λ"が興味津々に聞いてくるのがわかる。
「...問題はそこです。第二事例はまだ良いとして、第四事例。今回の戦闘では一切、動くことができませんでしたね」
一呼吸置く監査官。
「第一事例を除いて、一番期待していたんだがな。実に残念だよ」
「仕方ないわよ。その分、難しい能力だもの」
"ν"から聞こえてくる歯軋りの音を、"λ"の(微笑ましくてたまらない)という声で掻き消す。
「相変わらず、君は優しいな」
「褒め言葉として受け取っておくわ♪」
"φ"が鋭く刺すが、ずっと楽しそうに促す"λ"
「オホン、そして一番の問題は、」
監査官が、意を決する。
(主任、一番出世する方法を教えてやる ...自分以外の話を包み隠さず、上に言うことだ)
【再生】
モニターでは、第一事例と目が合う。第二事例と目を合わせたのだろう。
「...ごめんなさい。私のせいで」
【停止】
「これは到底、"兵器"には使えませんね。早く量産体制を整えて、交代したいもんです」
「...再現性はまだ確保できてないのか?」
指で叩く音まで入る"β"
「主任は、『まだ』と言ってましたよ」
少し緊張気味に応える監査官。
「...コレを前線に出さないといけないのは本当にネックだな」
「量産さえ出来れば、予備という意味でも有難いんですがねぇ。あと、成人した男にも感染させたい。アレは兵器として使える。なんで主任はこんな思春期な娘ばかりを感染させているのです?」
腕組しているであろう"ε"と、早口気味に聞く"ζ"
「それも、分泌系の関係で定着がどうのって言ってましたね。まぁ、主任はあの年頃の娘の扱いに慣れてそうでしたが」
軽口をついでに挟む監査官。調子が戻ってきたようだ。
「んー、兎にも角にも量産だな。1人、用意できればあと3人追加して星屑部隊を作れるだろうし。この記録を見る限りだが」
まだ疑心を拭えないようである"κ"
「ソレを今回、量産もできていないのに前線へ出したんだろ?」
「先に事案が起きてしまったからな。致し方ない。無傷で対処出来たのが良かったと捉えよう。結果論だがな」
わかっているくせに意地悪に聞く"ι"と、敢えて真面目に返す"ξ"
「アレがバレたら、ウチらのBB炉計画がお釈迦になりかねないからねぇ。それこそ"バーンッ"ってね!」
ははは、と軽快に笑う"ρ"
「...浄化エリア内の連中なら、勘付く奴はいるだろう」
鬱憤が見え隠れする"ο"
「ソレですが。多分ですが...主任の娘さんは、根拠は無い状態ながら、薄らと筋が見えてきてる感じはしてますね」
「その子、いくつだったかしら?」
警戒心を隠さない"π"
「17〜18ぐらいだったかと」
「そのまま成長してくれるなら、私の席を譲りたいものだよ。ひひ」
一番老いた声で"χ"が不気味に笑う
「ご冗談を」
再び顔が強ばる監査官。
「我々も老化には抗えないさ。私もそろそろ現役引退といきたいところだがねぇ」
初老であろう声で茶化す"τ"
「...そんなことより、星屑計画の今後だ」
焦燥感のある声で"η"が話を戻す
「主任は予算についてはなんと?」
起伏の無い声で聞く"Ψ"
「問題なさそうでしたね。寧ろ喜んでいました。問題なのは"心"の方だとか」
さも、私のせいでは無いですよというふうに応える監査官。
「ほぉ?ココロ、とな?」
手をゆっくり叩きながら聞き返す"υ"
「はい。第一事例の心がまだ覚悟が出来ていないから、増殖や感染力も弱い、と」
「本当に"魔法"じみてきたな。だったら、この娘の脳みそのサイボーグ化を急がせろ?サイボーグなら心情なんぞ、プログラムでどうとでもなる。というより、第一事例を電脳化させる為の研究予算だぞ?わかっているのか?」
心底疑問でしかないという声の"ξ"
「私もそのようにー」
「...予算を追加する。先ずは各事例、特に第一事例の電脳化を進めろ。そうすれば、"心と魔法"の関係性の解析も進む。さすれば再現性も見えてくる。急がせろ、以上だ」
部屋の外に締め出される監査官。
いつも席長の"ω"が口を開くと、その評議会は閉廷されるのであった。




