隔離は、人の心を奪ってしまう。 〜Lockdown〜
「そうして、中〜下流階級はサイボーグ化の引き換えに思考と経験を差し出し"安心を得て"、上流階級は生身であり続ける代わりに、思考と経験を"維持する"時代になったとさ...」
監査官がパンッと本を閉じる。
「研究員達の子供の面倒を見てくれるのは、有難いですが寄り道しないでください」
呆れ顔の主任。
「そこでなぁ、そんなんを何年か続けてたら、問題が起きたんだよ。2つも!」
「まだ続けるんですか...」
「将来の可能性を育てるのは大事ですからねぇ」
(この悪い顔しなければ、面倒見のいいオトナなんですかね...)
と、思いながら眉をひそめる主任。
「1つ目は、"魔法"を使用できるサイボーグがでてきたんだよぉ。怖いだろぉ?」
怖がらせるようにお化けのポーズをする監査官。なんて時代遅れなのか。
「でな、このサイボーグが俺たちの住むエリアを攻撃してきたんだ!そういう"テロ"ってのがいっぱい起きたんだよぉ」
「ひどーい」
「あはは!そうだろぉ?でもな、ここからがもっと酷いんだよ...」
急に真面目な顔をする監査官。
「2つ目は、事案の発生。アレは事案としか言えなかった。突如現れたナニカに人々が殺戮される、と言う馬鹿げたもんだからな!?」
また子供を驚かせるような動きをする監査官。逆に子供の方が冷めてきてる。
「この2つの厄介なところは、銃が効かないんだよ!ミサイルなら倒せるけど、それじゃあ、また地球が汚れちまう。周りの国にも迷惑だしな?コレで戦争の流れになろうものなら、それにより汚染の進行に歯止めがかからなくなる。歴史の二の舞いと言うものよぉ...」
監査官のするトホホ顔はなんともわざとらしいものだった。
「ねぇ、先生、これってホント?」
子供が主任を見て問いかけてくる。完全に疑心に満ちた目だ。
「ぜーんぶ、嘘ですよ。早く行きますよ、監査官。」
「はいはーい。あ、このグミあげる」
***
そう言って2人は例のモニター室に向かった。
「"魔法"に関しては『受肉したコンピューターウイルス』が原因だった、とはねぇ。御伽噺もいいところですよねぇ...しかも、元々のウィルスもバグの積み重ねから出たものだし」
ニヤニヤといい作り話ができたと笑う監査官。
「...あまり、そういう国家機密を軽率に言わないで貰えますか?」
「こんなの、御伽噺にしか聞こえませんって。主任はもっとプライベートを楽しむ余裕を持たないと」
そう言って椅子に腰掛ける監査官。クルクル回って実に楽しそうである。
「...電子ウイルスだって、元々は電子の運動によってできる物理現象に過ぎないですよ。それが、生身の境界線を超えてきただけです。御伽噺ではありません」
モニターには義体側のプログラムにより、新たに造られたタンパク質の構造体が映し出されていた。
「まさか、機械と生身を繋げる技術が、電子ウイルスの架け橋までしてしまうとはね...」
椅子の回転を止めて、主任と相対する監査官。
「それで"魔法"が使えるようになるのは納得できませんが、ね」
老眼鏡の奥を覗き込むようにかがみこみ、両手を組みながら深く主任を見つめる監査官。
「そちらに関しては、まだ検証段階です...しかし、ウイルス、もっと言うならパラサイトによって新たな機能を獲得するというのは進化史において、幾度もあったことです。複雑な物理現象も魔法のように見えているだけです。事案に関しても、魔法のように見えますが、複雑なだけです。事例たちの魔法と同じように。まぁ、あちらはウィルス由来ではないでしょうが」
主任も全く同じポーズを取ってみせる。
「それで、両者ともに携帯火器程度の影響は受けない。と?」
「ええ。複雑な物理現象の分、エネルギー障壁が高い故、だと我々は睨んでいます」
「それも、愛娘さんのアイディア?」
「えぇ。娘は"ある小説"から思いついたと言っていましたが、馬鹿にはできません」
「んー、理解らんですねぇ」
根負けしたのか先に姿勢を崩して、また椅子に座りながら回る監査官。しかし、軽口は止まらない。
「それだけ愛しているなら、何故に生身の母体で出産させたんです?」
主任が立つ...
「"生身だから"、ですよ」
ピタリッと、椅子を掴んで監査官の回転をとめる主任。
...監査官が主任を見上げる形となる。
「まぁ、証明してくださいね。このままだと、『愛娘のカルト』って御上に言われますよ」
「第一事例の成功を忘れたんですか?アレは、娘の与太話からですよ」
「...アレを成功ですか?ただの偶然でしょう?なんの再現性もないです」
「...」
少し沈黙する主任。
「第一事例さえいれば、貴方のいう"魔法"を量産できる。あとは時間の問題です...」
また、暫く沈黙が続く。
「ま、本気のようで、安心しましたよ」
椅子から飛び上がる監査官。
「にしても、それを前線に出さないといけないなんてね」
またニヤニヤしながら話を振る監査官。
「...第二事例以降の事例は、」
老眼鏡を外し、目線を逸らす主任。
「まだ、制限が、あります......」
「故に第一事例から、50m圏内と...全く難儀なものですね。魔法少女という"兵器"も」
本当に楽しそうにニヤける監査官。そこにわざとらしさはない。
「本当に。願えれば、叶う。でいいものを......」




