刃の届く場所・夕刻の判断
鐘が一度鳴る間に、雪の峠へ三つの異なる知らせが届いた。竜が教会騎士の追撃から幼い部下を庇い、混乱の中でアレンの剣がその胸へ届く。 日没前に攻める案へ賛同が集まったが、アレンは民家への延焼を理由に待った。勝機を逃す批判を受けても、村を焼く勝利は選ばない。 竜は最期に憎しみではなく警告を残す。黒い血が剣を伝い、アレンの腕へ焼ける紋が走る。
医師は扉越しに聖句を唱え、診察台へ近づこうとしない。病ではなく穢れと決められた瞬間、治療法を探す問いそのものが閉じられていった。
ローディは隊を連れて城門を破ると言った。アレンは首を横に振る。自分を救うために部下を反逆者へ変えれば、教会が語る呪いの証明になってしまう。
竜紋は力を与える祝福ではない。感覚が鋭くなるほど光と音が痛みに変わり、眠りさえ奪う。アレンは異変を隠さず記録し、未知を都合のよい奇跡へ置き換えなかった。
処分を決める会議に本人の席はない。廊下へ漏れる声を聞きながら、彼は王国へ尽くした年月を数えなかった。守った人々を、今度は自分のための戦へ巻き込まないことだけを考えた。
扉の外には、元部下が磨いた剣が一本置かれていた。同行は許されなくても、忘れてはいないという無言の印だった。アレンはそれを腰へ差し、次の朝を待った。
小さな決定だった。それでも、遠くの権威ではなく目の前の暮らしから決めたという事実は残る。誰かの恐怖を利用しない選択が、この大陸では新しい道になっていった。
見届けた者は英雄譚を口にしなかった。水が戻った、薬が届いた、今夜は家族が眠れる。ただそれだけの報告が重なり、アレンへの警戒をゆっくり信頼へ変えていった。
(本文実測:686字)




