刃の届く場所・夜の交代
雪の峠に朝の光が差したころ、アレンはいつもより早く目を覚ました。竜が教会騎士の追撃から幼い部下を庇い、混乱の中でアレンの剣がその胸へ届く。 見張りの新兵が小さな音を報告した。笑う者を制し、アレン自身が確かめに行く。危険でなくても、報告した勇気まで無駄にはしなかった。 竜は最期に憎しみではなく警告を残す。黒い血が剣を伝い、アレンの腕へ焼ける紋が走る。
昨日まで肩を並べた兵たちは彼を恐れていない。それでも家族の住む区画へ教会騎士が立てば、抗議の声は小さくなる。アレンは沈黙を裏切りとは呼ばなかった。
審問官は悔い改めれば魂だけは救われると告げた。アレンは竜を殺したことを悔いていると答える。教会が望んだのは服従であり、その答えではなかった。
竜紋は力を与える祝福ではない。感覚が鋭くなるほど光と音が痛みに変わり、眠りさえ奪う。アレンは異変を隠さず記録し、未知を都合のよい奇跡へ置き換えなかった。
処分を決める会議に本人の席はない。廊下へ漏れる声を聞きながら、彼は王国へ尽くした年月を数えなかった。守った人々を、今度は自分のための戦へ巻き込まないことだけを考えた。
扉の外には、元部下が磨いた剣が一本置かれていた。同行は許されなくても、忘れてはいないという無言の印だった。アレンはそれを腰へ差し、次の朝を待った。
見届けた者は英雄譚を口にしなかった。水が戻った、薬が届いた、今夜は家族が眠れる。ただそれだけの報告が重なり、アレンへの警戒をゆっくり信頼へ変えていった。
その場で答えを出せなかった問いも、消したことにはしなかった。保留と記して次の会議へ渡す。分からないものを分からないまま残せることも、互いを欺かずに暮らすための力だった。
(本文実測:710字)




