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二話 「鈴」が祀るもの


(鈴音どうしちゃったんだろう……)


色々な思いが交錯する中で、華鈴が家に戻り、ドアを開けると……


「そのままだと簡単にやられるぞ!!」


怒鳴り声が聞こえた。

ドアを開けて、様子を見ると美鈴が父に正座されていた。


「美鈴まだできるよな⁉︎」


「う……うん」


「『うん』じゃない、『はい』だ!!」


「はっ……はい!!」


彼女の足や腕は痣や傷まみれだった。

華鈴はその光景を見た瞬間、走ったせいなのか、息を吐くのが苦しかった。


(もう勘弁してくれ……)


華鈴は美鈴に駆け寄り抱きしめた。

美鈴に対しての攻撃を庇えるように、華鈴は彼女の体を覆うように抱きしめる、


「何やってんのくそ親父!?

これは修行じゃない『虐待だよ!!」


華鈴は父が笑っているところは生まれてからみたことがなかった。

いつも、いつも誰かに威圧を与えるような怖い顔をしている。


「美鈴もこうやって頑張っているんだ。

修練をサボっているお前は何も言えないぞ。これは、我々の使命なのだ‼︎」


華鈴が現れた瞬間、父は烈火の如く怒り狂い、手を振り上る。

すると――バチンと鈍い音があたりに響く。


「きゃっ、いたっ!」


父が華鈴の頬を目掛けて平手打ちをしてきて、その勢いで倒れてしまった


「お姉ちゃん大丈夫!?」


「貴様は何度言ったら分かるんだ‼︎

 我々は、修練場で私たちを見てくださるおいわさまを祀って来た。」


「それが何だったていうんだよ‼︎」


「美鈴の植物を活性化させる力……貴様のオーラを感知する力……鈴音の風を操る力があるように我々はおいわさまから加護を受けて、特殊な力を授かったのだ。

 これはありがたいことなのだ‼︎

 だから、おいわさまを守るために我々は強くならないといけないのだ‼︎」


(はいはい。またおいわさまか?……)


耳にタコができるほど父から熱弁されたおいわさまのありがたみ……そんな、スピリチュアルなものは華鈴の心には響かなかった。


「美鈴もこうやって頑張っているのだ。修練をサボっているお前がでしゃばるな‼︎

 強くなり、おいわさまを守ることこそ我々の使命なのだ‼︎」


「ふざけんなよ!

もう良い加減うんざりしてんの強くなれ、強くなれって!!

私は今時の可愛いものを身につけて、友達とJKっぽいことしたいんだよ!」


ルーズソックスやミニスカート、茶色に髪を染めたりとおしゃれをしてみたい。

東京の新宿や渋谷っていう都会にも行ってみたい

クレープって食べ物を食べてみたい……

華鈴が思う普通な女の子の幸せはぜんぶ、椿家では贅沢だ。

 

(いつも自分だけが乗り遅れている……)


同級生と比べて乗り遅れている自分が惨めだった。


「この贅沢ものが、我々の一族に生まれたのなら、一族のために生きるしかないのだ‼︎」


 また父の平手打ちが飛んでくる……華鈴はぎゅっと怯えながら目を瞑る。

 

「お父さん…ごめんなぁさい。やめて……やめて!」


美鈴は小学生だ、あまりの迫力に彼女は泣きながら謝った。

さらに家のキッチンから、――ガシャンと皿が割れる音が響く。

 この口喧嘩を見ていられなかった母が二人の会話を遮り、激昂した。


「あなた、もう良いです‼︎

こんな無駄なことに怒鳴るのをやめてください」


「それもそうだな……華鈴よ。お前は反省として外に出ろ‼︎」


「あぁもう良いよ、こんな家抜け出してやる!」


華鈴は、扉を乱暴に閉めて家から出て行った。

 彼女は誰も自分を擁護してくれない、そんな現実に疲れてしまった。

家に帰ってきた姉や兄たちはくすくすと扉から出ていく華鈴の姿を見て、笑っている。


「見てよあれ?」


「情けない。」


 そんな去っていく姉の姿を見て、美鈴は悲しそうだった。


「お姉ちゃん‼︎」


「美鈴…あんなやつを気にかけるな‼︎」


 走り去っていく姉の姿を見て、美鈴は手を伸ばすも・・・・・・

 父に遮られて、その手は届かなかった。


(私はこの家を出て、自由に生きるんだ

   そしていつか二人も連れて帰る、それが私の理想!・・・・・・


 ーー椿華鈴 16歳ーー

 一族の掟に縛られずに、自由に生きることを今ここで宣誓するのだった。


鈴音のことをふと思い出して、華鈴は彼が修行しているであろう場所に戻った。しかし彼はおらず、岩場には血飛沫があったのだ。


「えっ、鈴音、どこに行ったの。ねえー出てきてよ‼︎」


華鈴が辺りを呼びかけるが、応答がない。


「この力をうまく使えば……」


――椿華鈴の異能

華鈴はオーラを色として視覚で感じ取れる。

対象は人にだけ限定される。


(くそ親父にも上の兄や姉からは「失敗作」と蔑まれるんだろうな……)


 今までの悔しい気分が華鈴の中でまた蘇り、拳を無意識のうちに握りしめる。


「『異能力が全て』って思っている脳筋どもよりかは絶対マシだと思うけどな!」


華鈴は辺り一帯のオーラの揺らぎを感じ取る。

しかし人の気配らしきものは感じ取れない。


「鈴音いるの、いるのなら返事をしてぇ!!

 私も悪かったよ、言いすぎたって認めるから出てきてよ。」


華鈴が鈴音を探しながら、辺りを散策していると家の方角から火の手が起こっていたのだ。遠くからもかすかに感じられる家族のオーラが、炎に包まれて、ぷつぷつと消えていく。


「まさか……」


全身の血の気が引いた。

急いで、家の方へと華鈴は駆け出す。


(あれは家の方角だった……)


息が絶え絶えになっても、途中で木に引っかかって転んでも、必死に走り続ける。


「さっき見えた家族のオーラの様子は勘違いだよ、きっと!」


華鈴はそう思っていた。

数分後ようやく玄関の前に辿り着くと家は火の海に包まれていた。


「うそだ……」


 華鈴が呆然と立ち尽くしていると玄関を中からどんどんと叩く音が聞こえる。

ドアを乱暴に開く……

そこから転がり出てきたのは顔に凄惨な火傷を負った美鈴だった。


「おねえちゃ…ん?」


「美鈴……!?どういうこと、これは……一体何があったの?」


「わかんない。いきなり美鈴たちみたいに能力を持っている人に襲われた。」


美鈴はーーはぁはぁーーと乱れた呼吸をしていた。

火傷の具合はひどく、頭蓋骨が覗くほどに酷いものだった。


「お姉ちゃん……助けて……まだ死にたくない」


「何言ってんの、絶対助かるよ……

私はまだ美鈴にお姉さんらしいことできてないのに!」


この言葉はもう彼女には聞こえていなかった。


「あぁ……そんなぁ美鈴!!」


姉に助けを求めながらも、美鈴は亡くなった。

絶望のあまり華鈴はその場から動けず、ただ美鈴の亡骸を眺めていた。


「鈴音……そうだ鈴音はどこだろう?」

 

 華鈴の消えかけた希望の灯火は鈴音の笑顔を思い出し、再び灯り出す。

美鈴の亡骸を家の近くに埋葬して、再び家の中に飛び込む、


「うぇ……煙臭い」


煙が充満してきて、その匂いのせいで頭がくらくらとするが、それでも華鈴は進む。


「華鈴……戻ってきたの?」


「そうだよ、心配するに決まってんじゃん母さん‼︎、一応家族なんだから!」


見つかったのは、惨殺された父の遺体と瀕死の母だった。

奥には姉や兄たちの死体が転がっていてその光景はまさしく地獄絵図だった。


(あんなに『自分は強い』って私に誇示していたくせに……)


 華鈴は姉や兄の遺体にこう吐き捨てた。

 彼女の中から、彼らの死に対する悲しみなんて感情は一ミリも湧いてこなかった。


「ねぇ……母さん

 一体私がいない間に何があったの?」


「わからない、でもみんななすすべもなく殺されてしまった……」


この言葉で華鈴の中の希望の灯火はふっと吹き消されてしまった。


「華鈴、ごめんね。

遅すぎたなぁ……近くで見るとこんなに可愛かったのに……」


「母さん……」


華鈴の頬に手を当てたあと、母も力尽きてしまった。


――温かい――


 母の手は、周りの炎とは違う暖かさだった。

 その温もりが消えていくのと同時に、華鈴は初めて親の愛というものを知れたような気がした。

その後、彼女は黒煙が広がる家から外に出た。

華鈴は家も焼かれてしまい家族も死んでしまった。


(もう私に「帰る場所」なんてない、これからどうすれば良いんだろう?)


華鈴が途方に暮れて、敷地内を歩いていると、おいわさまのある修練場にまたもどってきた。いつも通りにおいわさまは怪しく輝いていた。


「私たちはあんたを守ってきたのに、なんでこういう時は助けてくれないの⁉︎」


 とやるせない思いをおいわさまに目一杯ぶつけるもなにも起こらない。

心の中は「絶望」の二文字だった。


「ははぁ……もうどうでも良いや……」


華鈴は虚な目を浮かべて、山の岸に立ち……


「こんなことは望んでいない、私は自由に生きたかったのに……」


 目を瞑り、崖から身を投げ出す。

すると、華鈴は白い光に包まれ、そのまま気を失った。


次に華鈴が目を覚ますと、――何もない空間――だった。

 辺り一面が真っ白で、虚無という言葉が相応しい空間。


「……ようやく会えたね。」


「え……誰、私は飛び降りて死んだはず……あなたが助けてくれたの?」


「私はスーザン。あなたは?」


「椿華鈴……」


華鈴の前には、顔を覆い隠すほどの銀髪の少女がいた。

チラリと見えた顔の両頬には、蛇のようなうねる刺青が彫られている。


「まぁ、そういう感じだよ。」


「なんで死なせてくれないの?」


 華鈴は、グッと前に出て、その少女の服の襟を掴む。

 涙を浮かべながら、恨めしそうにその少女を睨んだ。


「それがあなたの望みですか。

 たしかにあなたは家族も全てを失った、でも……死にたかったの?」


「はい……」


その少女は、ギロリと長い髪からでもわかるような鋭い視線を華鈴に向ける。


「嘘でしょうね?あなたは『自由に生きたい』と言ったね!」


「う……」


 聞かれていたのかと華鈴は次に出す言葉に戸惑う。


「本当は私は生きたかった、弟の鈴音とも妹の美鈴とも……

でも二人はいない、私だけ生き残ってもなにも意味がないよ……」


「じゃあ、あなたのその『自由に行きたい』という依頼は受け取りました。

このスーザンさまが、叶えて差し上げましょうか?」


「へ……?」


「私の力で、あなたをワープさせてあげる。」


 そのスーザンと名乗る少女が手をかざすと、何もない空間がひび割れていき……

 何もかも飲み込むブラックホールのような黒い空間が露わになる。

 

「ワープってどこに?」


「えい!」


「わっ⁉︎」


 スーザンは華鈴をその裂け目に押し込む。


「私の宮殿があったところだよ〜、言葉とかは……まぁ、大丈夫でしょう!」


「ちょっと、待ってえぇぇ……雑すぎるよぉお〜〜」


 華鈴はその穴に吸い込まれっていった。


「無事に行けるかな?」


 スーザンは心配そうに華鈴を上から見つめている。

 すると彼女は華鈴が完全に穴に吸い込まれたのを見て……


「あの頑固な家族たちはわからなそうだったけど、あなたならわかってくれるかな?

 私たち『シャドウ』の計画ことを……」


 赤い隻眼を輝かせながら、ーーニヤリと笑っていた






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