65.ブルーベールの季節——初夜は、初めての夜と書く
鐘の音が鳴り響き、馬車道の両側に多くのロンドン市民が詰めかけている。私のドレスは特別なものだ。
湧き上がる歓喜の声が地鳴りのように馬車の中まで伝わってきた。
ベルローズ夫人の店は、今や、上級仕立ての注文がひきも切らせず押し寄せてくる大人気店になっていた。プリンス・エドワード・オーガストの妻の花嫁衣装を手がけることを大々的に新聞が報じたから。
キャロライン・シーブルックがなぜ、ベルローズ夫人の店を知っているかは、夫人も謎のようだった。しかし、ブライトンの街の丘に立つ赤煉瓦のシーブルック・ハウスはベルローズ夫人も知っていた。そこの令嬢の立っての願いということで、プリンセスとなる人物の花嫁衣装を手がけることを引き受けてくれた。
月光のようなアイボリーシルクーーブライトンに運び込まれたノルマンディ製シルクで仕立て上げられたドレスに身を包み、柔らかいブロンドを高く結い上げ、小粒の真珠と白いオレンジブロッサムが編み込まれている。
大聖堂の前に馬車がつくと、白のサテンの靴をゆっくりと石畳につけた。肘上までの白シルクの手袋の下には、もちろん、あのダイヤの指輪をしていた。
大歓声の中を私はゆっくりと大聖堂に進んで行った。
シーブルックの母もネルも参列して待っているだろう。
何より、私のエドワードが、待っていてくれる。
私の胸の高鳴りは止まらなかった。
ゆっくりと大聖堂の中を父と一緒に歩いた。
祭壇の前まで来ると、私のエドワードが振り向いて、私の姿に頬を赤らめた。紅潮した頬、愛おしそうに私を見つめる煌めく瞳、私の心をとかしてしまいそうだった。
「愛している」
「私もよ、グレイ」
ヴェールをあげて、私の唇にキスをされたとき、胸が震えた。
「私の力では、君を戻してあげることはできなかった」
王子殿下は泣いていた。
「それでも、君のそばにいられたことが、私の幸せだった」
私は涙をそっと拭った。
「これからも、幸せにしてくれる?」
「もちろんだ」
「私もあなたの隣にいて、シンデレラの気分よ」
私は王子殿下の腕に手を通し、2人でゆっくりとロンドンの街にお披露目した。
サセックスの森には、ブルーベールの花が風に揺れ、空から葉の間を抜けて白く澄んだ光が降り注いでいるだろう。森全体が翡翠色の幕を被ったように光をまとい、春の香りに満ち、スズランの甘い香りが風に乗って漂っているだろう。
私の恋は、本当はここにあった。
あの森で、あの街で、私は本物の愛を見つけた。
愛しい人と手を繋ぎ、笑い合えて、困難を乗り越えることができる時間を共に過ごすことが、どれほど素晴らしいことなのか。
「これからも、私のそばにいてくれる?」
薄いブルーの瞳が私をとらえて離さない。
変わったのは私の方。
初夜は、初めての夜と書く。
私たちの、本当の人生が、ようやく始まった。




