63.深紅の季節——同じ時刻、違う結末
不幸の連鎖は、どう転ぶか誰にも分からない。
前回、メイウェアでこの通りを見たのは、少年の格好をして泥だらけのずぶ濡れで朝早くに歩いて来た時だ。今は乗馬服を着て通りに身を潜めていた。
馬の蹄が石畳を叩く金属音、車輪が軋む音、誰かの叫び声で騒々しい音で充満していた。
その時、扉を押し開けてレッドワイク・タウンハウスから出たきたのは、イーサンだった。馬車の往来が激しいのに、浮き浮きした様子でウロウロしている。
イーサンが何かを見つけた様子で、飛び跳ねるようにして、通りの向こうに手を振った。
「あっ!アーニャだ」
イーサンは夢中だ。
「おーい!アーニャ!」
なんと、あろうことか、通りを渡ろうとしている。アーニャの方に行こうとしているようだ。
私はイーサンを止めようとした。
「イーサン、危ないっ」
グレイも叫んだ。
「イーサン・レッドワイク、戻るんだ!」
時刻はお昼の2時28分。
通りの向こうに、アーニャの姿が見えた。アーニャも慌てているようだ。アーニャの顔が恐怖で真っ白になっているように見えた。イーサンに止まれと合図をしている。
だが、イーサンは手を振ってくれていると思ったのか、ますます、馬車道を渡り抜けようとし始めた。
馬車が姿を現した。
私とグレイはさっと通りの右を見た。
ストロベリーリーフ8冠の紋章を掲げた、赤と金のレッドワイク伯爵家の馬車だ。
――なぜ!?
――どうしてあの馬車がここに来るの?
――ケリーは止めたはずではなかったの?
イーサンがぬかるみで転ぶのが目に入った。
――あぁ、私の時と同じだ。
私は必死にイーサンの腕を引き戻そうとしてつかんだ。
「イーサン、戻って!」
「戻るんだ!」
グレイも叫んで一緒になって引っ張ってくれた。
だが、間に合わない。
その時、ベルローズ夫人のドレスの裾が迫ってくるのが私の視界に入った。淡いブルーのそのドレスはふわりと広がり、イーサンの上に飛び込むように覆い被さった。
アーニャだった。
馬が激しくいななき、石畳に蹄鉄が火花を散らした。
馬車は軋む音を立てて止まった。
泣きながら、私はアーニャとイーサンを引きずり出した。周囲の人々が悲鳴を上げ、御者が蒼白になって馬を抑えている。
誰かが医者を呼べと叫んでいた。
――なぜ、止められなかったの……?
イーサンは無事だった。
アーニャが庇ったからだ。
だが、アーニャはそのまま運ばれた。
イーサンは泣き崩れた。
――アーニャ、どうしてもう一度仕掛けたの?




