表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私は結婚前から邪魔者だったのね!?お金以外は必要とされなかった妻でしたが、貧乏男爵家の再興が私の運命でした——そして嫁ぎ先は王家になりました  作者: 西野 歌夏
第4章:深紅の季節——9月3日

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

62/70

61.深紅の季節——割りピンが半分抜かれていた

 レッドワイク・タウンハウス。

 曰く付きの屋敷だ。

 大貴族の家が立ち並ぶメイウェアのその地区で、石造の家は少しばかり修復が施されたようだった。イーサンが商売で頭角を表しつつあるという噂は本当のようだ。彼は心を入れ替え、真面目に商売に精を出し始めたようだ。


 私が訪ねて行った時、ロンドン・タウンハウス側の家令は亡霊でも見たかのような表情になった。

 

 それはそうだ。

 3年前に離縁した元妻が、見知らぬ、だが非常に身なりの良い男を連れて現れたからだろう。


 だが、メイドは違った。婚約をした頃、私が採用を決めた地方の村から出てきたばかりのメイドは、私を見るなり駆け寄ってきた。


 確か……マリア。


「マリア、元気だった?」

「えぇ、奥様」


 マリアはまだ私のことを奥様と呼んだ。

 前回の9月3日、私はマリアの静止を振り切って、レッドワイク伯爵家の冬の社交場として使われるロンドンのタウンハウスの2階の小応接室まで行った。


 彼女は、アーニャとイーサンの裏切りを、誰よりも知っていた。だから、私が傷つくのを恐れて、私が真実を知ってしまうのを止めようとしてくれたメイドだ。


「マリア、今朝、アーニャ・ホーソーンが来なかったかしら?」


 家令もマリアもさっと顔色を変えた。


 ――来たのね。


 ホーソーン・タウンハウスの寝室で目覚めたアーニャは、真っ直ぐにここに来たと。


 逢瀬の再開かしら?


 さっと家令とメイドのマリアが2階の小応接室の方に目を走らせるのを私は見つめた。


――無意識に、アーニャとイーサンが情事に耽っている方向を見たわね?

 

 ――それは、私に状況がバレるのが気まずいわね。

 


「実は、ちょうどこちらをシーブルック・タウンハウスまでお届けに上がるところでございました」

  ――レッドワイク家の者がシーブルック家まで?

 ――何かしら?

 

 私はその封筒をその場で開けてみた。


「レッドワイク・タウンハウスにて、お茶の時間にお越しください。少年少女時代の懐かしい思い出を語り合いましょう。——イーサン・レッドワイク」


――あぁ、幼馴染3人の集合ね。


 私はその封筒をグレイにも見せた。


「お願いがあるの、懐かしい馬車を少し見たくて。実は最近紋章も何もかも新しく蘇らせたとお聞きして、見せていただけないかしら?」


 家令とメイドのマリアからすると、無害なキャロライン・シーブルックは可哀想な人に見えるだろう。


 元妻でありながら、親友と元夫が抱き合っているとも知らずに、のこのこ無邪気に訪ねてきているのだから。


「えぇ、そんなことでしたら、どうぞ」


 ――そうよね


 ――こんな事で、今、イーサンに話かけられないわよね。


 ――お取り込み中ですもの。


 家令の独断でいいと思ったようだ。


 私とグレイはレッドワイク・タウンハウスの馬車小屋へ案内された。


 敷地内のよく知っている小道を歩き、私は馬車小屋まできた。


 馬車小屋には2人の男性がいた。

 一人は良く知っている。昔からレッドワイク家に仕えているケリー。少女時代から、サセックス側の本邸にもケリーはいたので、ケリーのことは知っていた。


 もう一人は見知らぬ人物のはずだが、私の脳裏に焼きついて離れない人物だった。あの時、私を轢いた馬車のコーチマンだった人物だ。彼はあの時と同じ、赤と金のリバリースーツを着ていた。


「しばらく彼に見せてもらうから、もう大丈夫よ。また、お昼の2時30分に来るからよろしくね」


 私は家令とメイドのマリアに告げた。


「こんにちは」

「おぉ、奥様……いや、キャロライン様でしたね……失礼しました。私たちの中ではキャロライン様が奥様なものでして……」

「いいのよ」


 ケリーは驚いた様子だったが、私に愛想よく笑いかけた。


 私はにこやかに微笑むと、金の縁に8つのストロベリー・リーフが美しく再現された馬車の方に歩み寄った。


「最近、修復したのね。綺麗になったわ」

「そうなんです。旦那様が張り切って綺麗にしようと言ってくださって」


「そうなのね」


 馬車の金のモールディングは私が新しくしていたが、イーサンが新しくしたようだ。デザインが少し違うが、私を轢いた馬車を突き止めた。


 赤と金のリバリースーツを着たコーチマンは、私のよく知らない方の人物だが、一言も話さなかった。グレイに目配せをした。


 馬車をさりげなく示し、コーチマンを特定して見せた。


「ちょっと、馬車を見せてもらうがいいかな?最近、ロンドンで馬車事故が多いので、馬車の状況を確認して回るようにお達しが来ているもので」


 グレイの隙のない身だしなみに、ケリーは即座に断れない話だと分かったようだ。


「いいですよ、なぁ、サミュエル」


 ケリーが赤と金のリバリースーツを着たコーチマンに言った。


「いやぁ、旦那様のお許しが必要じゃないですかね」


 私とグレイは確信した。


 私はしゃがみ込み、車輪と車軸を固定してるピンを4輪とも確認した。


「ケリー、ここを見てちょうだい。見えない位置にある割りピンが半分抜かれているわ」


 乗り出しの段差で車輪が外れるのだ。

 軋んで倒れ込む馬車の姿が私の脳裏にはあった。車体ごと横倒しになるはずだ。


 グレイが馬具のバックバンド、腹帯、引き革を確認した。


「うわっ、これはまずいぞ」


 ケリーは頭を抱えた。


「浅く切れ込みがある。走行中に裂ける」


「なんだって?」


 ケリーもグレイと一緒になって、馬具の引き革を確認して、ため息をついた。


「ダメだ。危険だ。今すぐに変えないとならない」


 ケリーはキッパリと言った。


 石畳の段差を超えた瞬間に、車輪は外れるはずだった。急に馬が暴れれば、裂けた引き革では制御できない。


「サミュエル、誰にお金を積まれたの?」


 私は静かに、それまでずっと無言だったサミュエルという男に聞いた。


――私は、あなたの御する馬車が私を轢くのを忘れたことは一度もないわ!


「白状した方がいいわ。捕らえられるわよ。でも、今ならまだ間に合う。誰も傷ついていない」


「今朝……アーニャ・ホーソーン嬢がやってきて、た、た、大金をくれました」


 ――大金?


 ——あぁ。


 3姉妹のお母様の金庫だ。

 3姉妹と男爵しか知らない暗証番号。


 あの金庫には、2万ポンド入っていた。


 ブラック・ラーク号の利益。

 ホーソーン商会のお金。


 ――あのお金を持ち出したのね?


 モスリンの服を何度も洗って、繕いをして綺麗に薔薇の刺繍をして着ていたアーニャ。


 ――あなたは、そんなお金を手にして、どうするつもりだったの。


 3年前なら、おそらく、レッドワイク家に供与されていたシーブルックのお金からそのお金をイーサンの目を盗んで取り出せたのかもしれない。


 ――今は、あなたの実家を私が建て直したお金に手をつけたの?


「サミュエル、元に戻すんだ。こんなことは許されない」


 ケリーが言った。必ず元に戻すとケリーが約束し、私とグレイはレッドワイク・タウンハウスを後にした。


 問題の時間、何が起きるのかしら?


 私は手の中の招待状を見つめた。

 馬車は正しい状態に戻る。

 

 ただ、全員がその場所に集合していることが、私は恐ろしかった。


 イーサン・レッドワイクは、アーニャ・ホーソーンと共にメイウェア通りのレッドワイク・タウンハウスの小応接室にいる。


 私はシーブルック・タウンハウスを住居として、メイウェアにいる。

 

 未来を知らないはずのイーサンが、レッドワイクの問題の馬車を綺麗に蘇らせていた。


 未来を知らないはずのイーサンから、9月3日のお茶の時間へのお誘い。


 再び、あの時間のあの時刻に全員がやってくることを全てが示している。

 

 通りに隠れて、馬車道に出ないようにして見守ろう。


 私はそう決めた。

 最後の最後まで見届けよう。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ