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60.深紅の季節——あの日、馬車に細工をしたのは
「ギデオン、よく分かったわ。ありがとう。色んな意味であなたは本物の恩人よ」
「ハロウゲイトからあんたが俺を守ってくれたからよ。こっちこそ俺の恩人はあんただ」
私とグレイは、朝食を食べに、港のコーヒーハウスに入った。
どこかでアーニャの日記を確認する必要があったが、何も食べずにその毒に触れることができると思えなかったからだ。
テムズから霧が上がっていた。
荷揚げを終えた男たちが、濡れたブーツのままコーヒーハウスにゾロゾロ入ってくる。タールの匂いがし、濡れた縄を抱えた男たちが石畳を歩き、疲れた顔でコーヒーハウスで一息入れるために入ってくるのだ。
私はボルドーのロングジャケット姿で窓際の席に座り、アーニャの日記を読んだ。
私は、その最後の一文を読んで、息を止めた。
目の前のグレイはもう読み終えた後だ。窓の外のテムズを行き交う船が上げる石炭煙を見ていた。
カモメが空を飛んでいた。船鐘が遠くで聞こえる。
熱いコーヒーから湯気が出ていた。
食べかけの黒パンにバターを塗り直し、私は食べた。
――馬車への細工を考えたのは、アーニャだった。
「レッドワイク・タウンハウスに行こう」
グレイが静かに言った。




