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私は結婚前から邪魔者だったのね!?お金以外は必要とされなかった妻でしたが、貧乏男爵家の再興が私の運命でした——そして嫁ぎ先は王家になりました  作者: 西野 歌夏
第4章:深紅の季節——9月3日

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59.深紅の季節——同じ時刻がまた来る

 朝のロンドンを乗馬服姿で馬に乗って駆けた。


 目的はロンドン港のホーソーン商会。

 今日の待ち合わせ場所がそこだからだ。


 婚約指輪もそこに置いていた。

 ホーソーン・タウンハウスは、リディアが事業を継ぐことを想定に、3姉妹の亡き母の金庫とアーニャ・ホーソーンとしての持ち物ぐらいしか置いていなかった。


 やがて私がキャロラインに戻ったら、プリンス・エドワード・オーガストの妻になることを約束したからだ。


 グレイが王子殿下だと分かっている人物は、ギデオンだけだ。あとはイーサンも知っている。他のホーソーン商会の人は誰も知らない。


 9月3日がどういう日なのか、エドワード・グレイは分かっている。私の呼び名はいつしかエドワードに変わっていたが、人前ではグレイと呼び続けることにしていた。

 

 馬で駆けつけた私は倉庫にいるはずのグレイの姿を探した。


「グレイ!」


 ブランデーの数を数えて荷車に積んでいるグレイの姿を見かけるなり、私は駆け寄った。


「キャロライン?」

「えぇ、キャロラインよ」

「プリンス・エドワードが初めて君とダンスをした時にささやいた言葉は?」

「息をするんだ」


 私たちは抱き合った。

 生きている。

 同じ時間を生きている。

 そのことだけで、涙が出た。



「今は何時?」


 私はハッと気づいて、グレイに聞いた。

 懐中時計を見たグレイが

「朝の8時30分だ」

「問題の時刻まで、あと4時間だわ」



「その乗馬服、よく似合っている」

 グレイはそう言って、少しだけ笑った。


 私はその言葉にとても照れた。恥ずかしい。



「よお、キャロライン」


「ギデオン!」

 私は思わず大男に抱きついた。


「おっと……」

 

 驚いた表情を浮かべたギデオンは、しばらく私の顔をじっくり見て静かに聞いた。


「百ポンドの金貨を俺から手にしたとき、あんた、何を思ってた?」

「感謝よ。あなたが最高の神に思えたわよ。あの巨大倉庫の可能性を信じてくれたあなたは最高の恩人よ」


 しばらく無言が続いた。


「やっぱりな……シーブルックの血がなければあんな再興にはならねぇからな」

 

 私は黙ってギデオンを見つめた。


「キャロライン、今までアーニャになっていたな?失恋したってのは、どうやら本当のようだが。王子殿下は何もかもご存じだったわけだ」


 私はなんと言えばわからず、ギデオンを見つめた。


 ギデオンは言いにくそうに言った。


「……昔、聞いたことがある」


 ギデオンの眉間に皺がよっていた。


「シーブルックの血筋には、妙な話がついて回るってな」


 私の耳の奥で何かが低い音がし始めた。


「死ぬはずだった奴が戻るとか……同じ時刻にまた死ぬとか……酒場の与太話だと思っていたが……半分は、家業で大きく成功した家へのやっかみも入っていると思っていた……」


 ――やはり、もう一度死ぬ時刻が来るのね。

 

「俺は信じなかったが、今のあんたを見たら信じられる気がするぜ」


 私の頭の中には、真紅のダリアと共に、迫り来るストロベリー8冠のレッドワイク紋章をつけた馬車が見えた。走馬灯のように。


「そのシーブルックのご先祖さまは、生き残ったのよね?」

「いやぁ、同じ時間にまた死ぬって話だったと思うぜ、俺は」


 死を迎えると、時間が戻る。

 だが、その死の時刻は再び襲ってくる。



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